決着の雄叫び×小さき女王×悪意ある宴……5
馬車の中、女王と呼ばれる、幼い少女は不安に満ちた表情を隠せずにいた。
そんな少女を気遣うように正面に腰かけるアストゥトは心配そうに話しかける。
「陛下、御安心ください。必ずやリアナ王国を完全に復興致しましょう。その日まで我々は命を懸けてライム女王陛下を御守り致します」
「うむ、ありがとうアストゥト。しかし、女王自らが動かねばならぬ程に事態は悪くなっています。正常にせねばなりません」
「仰る通りです。その為にも聖職者協会の【自然五精神】の力を我々の物にするか、封印、もしくは破壊せねばなりません。その為にもライム陛下の魔力と王家の魔石が必要なのです」
馬車は護衛である特務隊と共に一気に、休憩予定地まで駆け抜けていく。
そんな馬車と騎馬の土煙に気づいた黒猫、獣帝軍、エルイの三勢力は直ぐに斥候隊を向かわせた。
そんな三勢力の動きを知らぬ、リアナ王国側では、僅かな休息を兵士達が心から喜んでいた。
不眠不休に近い状態で走り続けた馬達もまた、食事と水分を喜び口に運んでいく。
斥候がそんなリアナ王国軍を確認するも、馬車には目立たぬように布が掛けられており、馬車に印されたマークは確認出来ずにいた。
斥候からの報告が直ぐに入ると、キャトルフは即座に各勢力に対して提案を口にする。
ククレア率いる聖職者協会の聖騎士進行の際、複数のルートから敵の存在に気づけなかった事実を教訓として、エルイの戦士達が記したルート全てに小隊クラスの部隊を複数配置し、本体が合流ポイントで待機すると言う戦術が用いられる事となる。
全ての配置が完了すると、エルイの戦士達が追い込みをかけるように伏兵を忍ばせた複数のルートに誘導するように背後から弓を放つ。
即座に馬に跨がる特務隊、ライム女王も急ぎ馬車に乗せられると護衛するように馬車が走り出す。
特務隊を掠めるように放たれた矢を必死に躱していく。
本来ならば、奇襲と矢の雨となれば、被害は避けられない。
しかし、被害は出ていなかった。寧ろ、被害が出ないようにとキャトルフから指示があったからだ。
急な奇襲とギリギリの範囲での回避がその真実を歪め、特務隊の思考に靄をかけたのだ。
特務隊と馬車が一つのルートに向けて駆けていく。
狙っていたと言わんばかりに、不敵な笑みを浮かべる集団。
鬱蒼とした大樹海の中に存在する馬車が走れるルートで数ヶ所存在する迂回が難しい地形に馬車が差し掛かる。
「今だッ! 掛かれッ!」
「「「ウオォォ──ォォオオッ!」」」
一斉に黒猫の団員達が馬車を包囲するように姿を現す。
前方には重装備の大柄な獣人戦士達が道を塞ぎ、馬車はあっという間に身動きが出来なくなる。
特務隊が慌てて陣形をとるも、既に回避など出来ない状況である事実を即座に悟る。
そんな最中、馬車の扉が開かれ、姿を現すアストゥト。
「貴様等、何処の者か! 名乗れ、我が名はリアナ王国、特務隊隊長──グラウド=アストゥトである!」
名乗りを上げた直後、当然ながら、黒猫の団員達の動きが止まる。
「ああ? なんでお前が此処にいるんだよ……面倒クセェなぁ……まさか、“ウォルベア”の連中と手を組んだんじゃねぇよな?」
ゆるい口調でありながら、鋭く冷たい視線をキャトルフがアストゥトに向ける。
「取り敢えず、馬車なんて連れて、何をしているかを話してくれ、言うまでもないと思うが……俺達は返答次第で即座に戦闘に入る」
緊迫した空気が流れる中、アストゥトも同様に戦闘になることを危惧していた。
馬車の中には、リアナ王国の女王がいる事実を語るべきか、語らぬべきかで判断を決めかねていたのだ。
黒猫がリアナ王国の女王と直接会って話をする事になれば、当然ながら、交渉になるであろう事をアストゥトは危惧していた。
女王が交渉に否定的な答えを口にすれば、黒猫がどう動くか予想する事が出来なかったたからに他ならない。
「……」
「どうした? 答えはどっちだよ、アストゥト?」
キャトルフが軽く挑発するように武器に手を伸ばす。
「クッ……」
アストゥトの頬に汗が流れた瞬間、馬車の扉が勢いよく開かれる。
「御挨拶が遅れました事をお詫び致します。私はリアナ王国、四十一代国王。ダンベルム=リアナ=ライムと申します」
堂々と女王と名乗る少女に対して、アストゥトと特務隊が即座に守りに入る。
特務隊の行動がすべてを物語っていた。
そんな互いに沈黙が流れた瞬間、両者の間に割り込むように不可解な霧が舞い上がるとシュゲンが姿を現す。
「カッカッカ、楽しい展開じゃないかぁ、リアナ王国の姫、いや、女王が妾の領土に足を踏み入れるとは、実に愉快じゃのぉ」
突如現れたシュゲンに対して、警戒するアストゥト、その背後からライム女王が質問を口にする。
「あなたは?」
「失礼した。妾は【フェルドルム大樹海】の当地者であり、エルイの長、シュゲンじゃ、客人として話くらいは取り持ってやれるが、如何かな?」
シュゲンの口調に対して、特務隊が一歩前に出ようとした瞬間、堂々たる声が上がる。
「動くでない! 此れは互いの代表の会話なのです。シュゲン様と言いましたね。その申し入れを御請致します」
「うむ、実に賢明じゃ!」
そう語るとシュゲンが手を上に伸ばす。頭上から数十名の弓を装備したエルイの戦士達が地上に降り立ち、頭を下げる。
「もしも、武器を抜いておったら、其方は間違いなく樹木より高い場所に送られておったじゃろうなぁ」
「御冗談を、あなた様はそんな愚かな決断はしません。だからこそ、先に姿を現したのでしょ?」
不敵に笑うシュゲンに対して、笑みを返すライムの姿がそこにあった。




