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過去の悪夢×リアナ王国×囚われし者……4

 酸の湖【ガルナ湖】までの道は、低木と草原が広がり、 湖に近づくと植物は次第に短くなり、剥き出しの大地が目立つ。


 酸の湖からの風は植物に対して死を(もたら)す、有害な物だ。人体に与える影響は少ないとされるが、その事実を否定するように草木が枯れていく景色にキャトルフは不快感を感じずには要られなかった。


 傭兵でありながら、王都を避けるように遠方を戦場に選び、戦果を上げてきた“黒猫の団”にとって、王都へと続く第五の関所(【シスイ】)は異様な存在に感じずには要られなかった。


「マスター、嫌な臭いが風に流されてきてる」


 アルガノが嫌悪感を放つようにそう口にする。



「カヤン、直ぐにマスクを装備するんだ。他の皆にそう伝えてくれ、頼む」


「うん、そうする」


 先頭を駆けるキャトルフの言葉に、その後方のアルガノ=カヤンが頷くと馬の手綱を軽く引き、減速すると後方に伝達する。


 皆が【ケマル】で仕入れた装備品である“マスク”を取り出し、鼻と口を覆う。


 ゴーグルまで装備したいと考えていたが、キャトルフはその考えを捨てた。


 マスクは【シスイ】でも、珍しくないが、ゴーグルに関しては身に付けてないのが一般的だからだ。


 仲間の獣人達も事前にキャトルフからゴーグルに関して、話があり、承知していた。


 【シスイ】に入る為の橋に差し掛かるとキャトルフ達は驚くべき光景を目の当たりにする。


 本来、【シスイ】は監獄であり、管理者と監守達が住む為の街として造られた場所であった。


 しかし、キャトルフの目の前に広がっていたのは、湖の3分の2を埋め立てた巨大な輝く都であった。


 湖の周囲には、多くの民家が建てられており、無数の巨大な工場が煙突から黒い煙を吐き出している。


 工場に向かい歩みを進める住民の瞳に生気は感じられない。


 輝く都と黒煙の世界にキャトルフ達は異様な不快感を感じると同時に怒りを感じ、拳を握る。


 キャトルフの目線の先に一列に並び、壁に(もた)れ掛かる少年、少女の姿があり、(やつ)れた顔と体、地面に伸ばされた手足はまるで木の枝のように細く、まともな食事を口にしていない事が窺える。


「此れが、霧を抜けた先の現状なのか……たかが数年で……こんなに……くっ……」


「マスター、我慢……今は怒るの良くない」


 怒りを表情に出したキャトルフ、それを止めるアルガノ、互いに怒りながらも感情を殺し、必死に平然を装う。


 そんな時、離れた位置に腰掛けていた一人の少年が、キャトルフ達に対して手を伸ばす。


 それは物乞(ものご)いであろう、大きめの帽子を被り、手袋を身につけた幼い少年は他の子供よりも、窶れていたが、生きる希望を忘れない強い瞳でキャトルフを見つめていた。


「腹が空いているのか?」


 その質問に少年は首を横に振る。


「金が欲しいのか?」


 またしても、少年は首を左右に振る。


「お腹は空いてない……でも、食料と水が欲しい……妹が三日も何も食べてない、水も飲んでない……」


 悔しそうにそう語る少年、その言葉に対して、キャトルフは首を横に振る。


「駄目だ。少年、意味のない食料はやれん」


 無慈悲な言葉に少年が手を伸ばしたまま、涙を流す。


「わかってたさ……タダとは言わない……貰った分は確り働くし、どんな事だってする……だから!」


 少年がキャトルフに向かい駆け出すと、馬から飛び降り、アルガノが“バトルアックス”を構えると、二人の間に割って入る。


 それに驚いた少年が足を(もつ)らせて、その場に倒れ込む。


 周りにいた少年や少女達は怯え、顔を隠す。


 大人達も同様に目を背け、その場から立ち去っていく。


 少年は、地面を摘まむように必死に起き上がると悔し涙を浮かべながら、再度、キャトルフに向かって呟く。


「お願いします……妹が……お願いじます……」


 アルガノのバトルアックスを前にしても、そう呟く少年。


 キャトルフは馬から降り、アルガノの頭を“くしゃくしゃ”と掻き回すように撫でる。


「カヤン、武器を収めろ」


「マスター!」


 キャトルフの言葉に驚き声をあげるアルガノ。


「アルガノ、聞こえただろ? 団長が“武器を収めろ”って言ったら団長命令じゃん? 従いなよ?」


 風薙の言葉に苛立ちながら、アルガノは得物を下ろす。


「あとで擂り身にするから……覚えてなさい、颯彌……」


 捨て台詞を口にするとキャトルフの後ろに移動するアルガノ。


 確りと見つめる団長としての鋭い瞳、それに臆すること無く、じっと目を見開く少年。


「もう一度言う、意味のない食料はやれん、わかったな」


 再度、キャトルフから語られた言葉に少年は項垂れた。


 その様子を目の当たりにし、風薙が軽く笑みを浮かべる。


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