美人の暴走
今回、黒騎士様が根暗を通り越して怖いです。
壊れたままです。残酷な描写が含まれます。
安心の魔法は、私はハッピーエンド主義、です。
よろしくお願いします。
「今から夜まで、私に触るのを禁止します。」
検査の後。待っていた私に美津ははっきりと拒絶した。あ、駄目だ私泣きそうです。
目を潤ませる私を見ても、美津は背筋を伸ばしてこちらを見るだけで、泣き落としも通じない。
でも、私を嫌悪しての拒絶でないのは顔を見れば分かる。
「………よ、夜まで我慢すれば許してくれます?」
好き勝手しすぎたお仕置きなのだと理解した私は、出来るだけ殊勝に返事をした。
「はい!夜になったら抱きついて良いよ!」
美津が笑顔を向けてくれたから、私は執務室に、彼女はお母様と一緒にピーター様の娘とのお茶会に向かった。
「……………。」
もう、時間もあまりない事ですし。
母親との楽しい思い出作りも、大事ですよね。
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ゆっくりと廊下を歩いていたが、ふと足が止まり後ろを振り返った。彼女の姿は、もう見えない。
私はまた執務室へと足を進めるが、またすぐに止まってしまった。少し、ぼんやりしてるのだろう。
私は、彼女に何も教えるつもりはない。
ピーター様にもああ言ったし、ちゃんと考えて、お互いで納得出来る様に相談するつもりだったのに。
彼女が私を待ってるから。
彼女が私を愛してくれるから。
彼女が私を、許すから。
だから、また許して。私の我儘を。
貴女を道連れに殺そうとしている私を、許して。
「…………ふふ。やっぱり、私はバケモノだったか。」
どうしてだろう。
私は彼女を愛していたいだけなのに。
この高揚を、幸福を、ずっと味わっていたいだけなのに。
彼女への愛と思い出を消されてしまったら、私には何も残らない。
あの鬱々とした、ただ生きているだけの日々が帰ってくる。
「………嫌だ、」
消えて無くなるくらいなら。覚えたまま、幸福のまま死にたい。
「っ嫌だ。」
でも私が死んだ後、彼女が何処ぞの男に嫁ぐなど許せない。
……あんなに可愛いんだ。私が居なくなった悲しみで泣き暮らす彼女に、寄り添う男がきっと現れる。
……彼女は私だけの女だ。誰にも渡すものか。
「……このまま呪いを解除せずに過ごしても、………。」
そう。
このまま時を過ごしても彼女の寿命はすぐに尽きるという。
きっと次第に身体が弱り、病に侵され私達の母親の様に苦しみ死ぬのだ。それなら。
私が一緒に連れていっても良いでしょう?
「……………………ふふ。」
痛みなど感じない様に彼女を気絶させて、私の噛み跡が残る首を締め息の根を止める。
念のため心臓を抉り取ってしまえば、姉上でも蘇生出来ないだろう。
そして彼女の亡骸を抱えたまま私もマグマに飛び込めば、彼女の中の瘴気浄化も完了する。問題無い。
彼女との約束も守られる。
看取ってから後を追う、と。
そういう約束だった。
何の問題もない。何も、ないと。
「……………………………ぐ、うぅ。」
通路の壁に身体を預けて、うめき声が上がらない様歯を食いしばる。
………そうしなければ、今にも走り出して彼女に泣きついてしまいそうになる。
どうして私はこうなんだろう。
私が死んだ後誰にも奪われたくなくて、それだけの為に殺す事を決めた、私。
……本当は、わかっている。
私が、独りが淋しくて、道連れにしようとしてるだけ。
彼女に話して、万が一、拒絶されたら耐えられないから。
だから話さない。話せない。
彼女に嫌われるのが、この世の何よりも恐ろしいから。
なんて愚かで、情けなくて、弱い男なんだろう。
私は彼女が思う『最強の騎士』などでは、無い。
「……………ゆるして、くださぃ。」
いつもいつも、「しゃーないなぁ」と笑ってくれる私の愛しい人。
私の我儘を、恥ずかしいと口では言うけれど。
嬉しいと楽しいを同時に考えてくれる、可愛い人。
そんな彼女を、私は殺すのだ。
己の欲の為だけに。
「どーこーやーどーこーや!あ!」
「!おったおった!!!」
「っうっわ、え?ぇえっ?」
バタバタと足音が聞こえたと思ったら、背中に衝撃が。
倒れる事は無かったけれど、随分な勢いで走り込んで来たのはやっぱり彼女で。
「あのね!あのね!やっぱ私の心のぞいていーよ!」
満面の笑みで私の背中に引っ付く彼女に誤魔化す様に苦笑して、それから、………………それから?
え?
え???
「あ、ほらなーおかん秒殺やったで。私の勝ち〜。」
「むーもうちょい耐えんかい涙腺ゆるい!私のマフィンが減ったやないか!」
彼女が声を上げて笑ってる。
小さな妖精も声だけ怒っている風に装ってるだけで、とても笑顔だ。
(泣き虫パパやと赤ちゃんに笑われるよ?)
彼女の心の声があまりに甘くて、優しくて。
耳を出したまま、ズルズルと座り込む私の涙が止まるまで。
私は彼女に頭を撫でられ続けた。




