聖女と美人の宣言
ざわざわと人の気配を感じて目を開ければ、クルーレさんと目が合った。
話しながら泣いて、私は泣き疲れて寝てしまったようで……窓の外が暗いからもう夜やな。
おかんとお姉様はどうしたかな。あと姫様生きてるかな。
クルーレさんの話を聞いてしまったのでまぁまぁな重症ダメージでもOKな気がする。同情はしない。おかんグッジョブです。
手を繋いだままなのでそのまま伝わって、クルーレさんが楽しそうに笑ってます。
泣いてドロドロの顔をタオルで拭いて、少し腫れたからとクルーレさんに目蓋を治癒してもらい。
「あーけーなーさーいーっ!!!」
「やめろオリヴィエ!わしがクルーレに殺される!!!」
「お前はクルーレに振られたんだからもう諦めろ!あいつには聖女様が、」
「聞きたくないですわ!聖女が自分の立場を利用してるだけですわ!!!」
「それは姫様がした事であって聖女様はそのような事なさいません。男など知らぬうぶなお方なのです。貴女様と違って。」
「そーや!うちの娘は可愛くて優しくて悪い事出来ひん良い子に育ててんからな!あばずれと一緒にすんな!!!」
「何ですって妖精の分際で!!!」
「何や文句あんのかごらぁっ!!?」
「「……………。」」
先程からかなりの振動と声を響かせる扉に、私達はやっと目を向けた。
クルーレさんの強化とか結界とかで扉は無事です。魔法って凄い。
正直に言うと、無視したい気持ちがすっごいです。お母ちゃんが荒ぶってるのマジでこわい。子供の頃思い出してマジでこわい!
「ほっといてもう少しのんびりしましょう。」
「……それも心惹かれるけどそう言うわけにもいかんでしょ。ほら立つの!」
「……。ふふふ。」
「?何笑ってんの?」
「いえ、………何でも。気にしなくていいですよ。」
「……ふーん?なら良いけど。あの扉どうやって開けます?触った瞬間どうにかなりそうな感じですけど。」
「では弾き飛ばしましょう。」
「クルーレさんもめんどいんですね。あーまた無茶したらおかんの雷落ちるな……もうしゃーないなぁ。」
私は扉に近付き、とりあえず声をかける事にした。
「もしもーし!そんなに叩かれると扉開けれませーん!おかんとお姉様以外は下がってくださーい!」
声を掛けた瞬間、扉の振動と怒声、人の気配さえほぼ感じなくなった。すげぇなおい。
「シャリティアさんとお母ちゃん居ります?」
「控えておりますわ。」
「クルちゃんとお話できた?」
「ちゃんと出来たよー。めんどくさいの相手さしてごめんなぁ?」
「まぁそのような事、構いませんわ。」
「ちょっとめんどくさいって誰のことですのっ!?」
「「黙れ!」」
娘と妹の躾、今更だけど頑張れ!
私はクルーレさんに手を繋いでもらい、これからの事を考えてみた。そして思いついたまま、実行しようと扉に向かう。
とりあえず、言いたい事言っちまいましょう。
クルーレさんの笑顔もあるから、きっと大丈夫。
手を繋いだまま扉から出てみると、王族二人に押さえ込まれるお姫様や噂好きそうなメイドさん達、それにレオン様達の護衛の騎士。
あ、赤毛のおばか騎士も居る。
まぁまぁ人おるし、ちょうど良いか。
チラリとクルーレさんを見ると、悪戯してやろうっていう悪い笑顔。私も似たようなもんやな!
「あー皆様にお知らせが御座います。」
「私、クルーレ・スティーアと」
「私、岡田美津は」
「「結婚します!」」
シャリティアさん、おかん、レオン様に王太子殿下以外の方々は口をぱかんと開けたまま呼吸を止めているようです。はよ息せんかい。
「日取りについては、瘴気の浄化がある程度終わるまでは未定です。」
「なので今は婚約という立場になります。聖女である私の旦那様に変な事しない様に皆様は気を付けてください!」
「私の妻にもおかしな事をしない様に。……手を出そうとするなら、私と殺し合う覚悟を持て。容赦はしない。」
私はのほほんと。クルーレさんは邪悪な黒騎士っていうラスボス感満載な表情での宣言でした。
部屋から出る前、黒騎士様がご機嫌だったのは、無意識に聖女様の言葉遣いのニュアンスがちょいと変わったからです。
異性から少し踏み込んだ身内の扱いに変わりつつあるので、聖女様の家族に少し憧れる、というか羨む、いうか。そういうのがくすぐったかったみたいです。




