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溺るるは慟哭のヴィクティム  作者: 神宅 真言
一章:降りしきる雨と、忍ぶ夜
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幕間:弟子の電話と、或る噂


  *


『あ、もしもし、師匠? 俺です、はい、どうもっす。忙しくてなかなか電話出来なくって。はい、元気っすよ。


 いやいやサボってないっすよ。何かね、先生らの間で風邪流行ってるらしくて。講義休講になっちゃって。ああ、学生は元気っすよ、寮の皆も。ホラうちの先生ら、年寄り……じゃない、お年を召された方が多いじゃないっすか。その所為でしょ。


 師匠は元気っすか? そりゃ良かった。そうそう、それでこのままだと冬休みが早まりそうで、早く帰省出来るかもって、そういう話をね。いやこっちにギリギリまで居ても遊ぶ所も無いし。そっち帰って地元の奴らとも顔合わせたいし。ああ、勿論手伝いもちゃんとするっすよ。


 そういやカナメ兄ぃはどうしてます? あのひとすっごい忙しそうで、たまに電話しても全然話出来なくって。


 え、カナメ兄ぃ、今ミズチに居るんっすか?


 へえ、仕事……。ああ、あすこなんかあるみたいっすもんね。


 いやね、実は最近、たまたま地元が近い奴らと知り合ったんすよ。いや元々おんなじ寮だから知り合いは知り合いだったんすけど、地元が近くだったってのを最近知ったってのが正しい言い方になるんすかね。


 ホラみんな、どこ出身とか実家がどの寺とかあんま言わないじゃないっすか。札所じゃないからとかそういうので何となく見下されるのとか嫌でしょ。ああ、師匠の時も同じなんすね。ですよね、うんうん分かります。


 そうそれで、ええとうちの寺からだと西のほう、おんなじ町内の、何番札所だったかな……ああそっち、そこの次男坊が今、一回生に居るんすけどね。たまたま夜に寮で怪談話しようぜみたいな流れになって。


 でその次男坊がね、近くの山ん中の集落が中高生らに心霊スポット扱いされてるって話をし始めて。


 夏になると絶対行く奴がいるらしいんですよ。うちら東の奴はミズチの事知ってるから別に行かないですけど、西の奴らからしたら、なんか山に変な村があって化物が出るとかいう噂がまことしやかに囁かれてるらしいんすよね。


 でその噂ってのが、山を登ってたら大量のイモリに襲われるとか、山の上の湖からでっかい蛇が出て来て睨まれたとか、川からオオサンショウウオみたいな怪物が出て追い掛けられるとか、山から女の泣き声が聞こえるとか、あと女の幽霊が出るとからしくて。笑っちゃうでしょ。しかも女の幽霊は、首がだらんと垂れてるのと首が無いの、幾つか種類があるらしいんす。


 それで肝試しに行って怖い体験した奴らがね、その次男坊の寺に駆け込むっていう。そう、お祓いしてくれって。ほんと馬鹿ですよね。


 でねその話、地形とかの特徴が、あれそれってミズチじゃね? って思って訊いてみたら、ドンピシャだったっていう。


 別の県のヤツ、そうそう北の山越えたとこの先輩もそれ知ってるって言い出して。何だ近くのヤツ多いなーって、ははは、そりゃ四国出身の学生多いだろうから、よく考えたらそんなに不思議でも無いんすけどね。


 ──ピー、ピー、ピー。


 あ、テレカ無くなった。丁度いいから切りますね。そういう訳で、また帰省の日程決まったら早めに電話しますんで。


 はい、ああ、ちゃんと真面目にやってますってば。ええ、師匠もお元気で。


 カナメ兄ぃにもよろしく言っといて下さい。


 じゃあまた。はいはい、はーい。


 ──ガチャ、プツ……ツー、ツー、ツー』


  *




ここまでお読み頂きありがとうございます。これにて一章は終了です。

明日からは二章の開始となります。

引き続きお読み頂ければ幸いです。



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