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ステファンと街に買い物に行った後、疲労感にフランソワーズは馬車の中で、彼に寄りかかったまま眠ってしまったようだ。
(とてもいい夢を見た気がするわ)
フランソワーズは暫くぼんやりとしていた。
乱れた髪を直すために髪を耳に掛けようとすると、右手にキラリと光るものに気がついてハッとする。
(指輪……?)
先ほど買った髪飾りと同じ宝石がついた指輪が、フランソワーズの右手の薬指についている。
まだ寝ぼけていたフランソワーズが、その指輪に見惚れているとステファンから声がかかる。
「気に入ってくれた?」
「この指輪は……ステファン殿下がつけてくださったのですか?」
「僕からフランソワーズにプレゼントだ」
フランソワーズはもう一度、ステファンがプレゼントしてくれた指輪を見た。
右手の薬指に嵌められているのにも、ステファンなりの気遣いを感じた。
この指輪には、ステファンの気持ちがこもっているような気がした。
「ありがとうございます、ステファン殿下」
「そう言ってもらえてよかったよ」
「嬉しい…………大切にしますから」
ギュッと右手を握ったフランソワーズは顔を上げてから笑みを浮かべた。
ステファンも優しい笑みを返す。
フランソワーズはステファンからのエスコートを受けて馬車から降りた。
繋いだ手から伝わる熱。幸せに満たされていた。
(こんな幸せな日々が、ずっと続いたらいいのに……)
フランソワーズがそう思っていた時だった。
門番に止められている一人の青年の姿があった。
争っているからか、ブラウンの髪が激しく揺れている。
どこかで見たことがあるようなシルエットに、フランソワーズは首を傾げた。
顔が露わになる前に、険しい顔をしたステファンが珍しくフランソワーズの腕を引いた。
そのまま抱きしめられるようにして視界を塞がれる。
フランソワーズがどうしたのかとステファンに問いかけようとした瞬間に、信じられない言葉が耳に届く。
「──フランソワーズを返せッ!」
「……っ!」
フランソワーズを呼ぶ荒々しい声は聞き覚えのあるものだ。
(セドリック殿下がどうしてこんなところに?)
フェーブル王国にセドリックがいることが理解できなかった。
フランソワーズは自らを落ち着かせながら、ステファンに視線を送る。
彼はもう隠しきれないと思ったのだろう。
ゆっくりとフランソワーズを抱いていた腕を離す。
やはり目の前にいるのは間違いなくセドリックだった。
フランソワーズは唖然としつつ、セドリックを見つめていた。
紫色の瞳と目が合った瞬間、彼の唇がニタリと歪んだ。
セドリックは、フランソワーズを求めるように腕を伸ばしている。
ステファンの指示もあり、門番に抑えられつつも必死に抵抗しているセドリック。
フランソワーズは無意識に一歩、また一歩と後ろに下がっていく。
必死にもがく姿は一国の王太子だとは思えない。
門番たちもセドリックを傷つけるわけにはいかず、戸惑っているように見えた。
「フランソワーズ、フランソワーズッ! 俺だ、セドリックだっ」
「……ッ」
「口を塞いで、今すぐに不法侵入者を追い出してくれ」
冷たいステファンの声が上から聞こえた。
鋭くセドリックを睨みつけるステファンは、先ほどとはまるで別人のようだ。
背筋がゾクリとするような低い声に驚いてしまう。
(ステファン殿下がこんな風に怒るなんて……)
しかしセドリックは引くつもりはないようだ。
「やめろっ! 俺はシュバリタイア王国の王太子だぞ!? 無礼者っ、今すぐにその手を離せ」
門番に止められて、ステファンに不法侵入者扱いをされているということは許可を得ていないのだろう。




