34 ステファンside2
シュバリタイア王国もフェーブル国王の必死な様子を見てか、何かあると察したのだろうか。
そのまま有耶無耶になってしまう。
前々からシュバリタイア王国はフェーブル王国を警戒していたことは知っていた。
聖女の件で、どちらに転んだとしても彼らにとっては変わらない。
父が難しい選択を迫られていることはわかっていた。
子供二人か、国か……。
ステファンとオリーヴが呪いを受けたことで、母は悩んで痩せ細ってしまった。
国民たちを不安してはいけないと、このことは伏せられていた。
オリーヴは不治の病にかかったことにして、ステファンはいつも通りに過ごすことを心がける。
誰もこの苦しみを理解することはできないだろう。
恐怖や不安を感じるたびに黒いアザはステファンの体を埋め尽くすように広がっていく。
(少しでも気を抜くと、意識を乗っ取られてしまいそうだ)
気を紛らわせるためにひたすら体を鍛えて、時には猛獣を倒しにわざわざと辺境の地に向かった。
血を求める浅ましい自分に驚くのと同時に恐怖が襲う。
そんな気持ちすらも悪魔の餌となると書かれていたため、笑みを浮かべながら必死で自分の気持ちを隠していた。
年月が経つたびにオリーヴはベッドから起き上がれないほどに衰弱していく。
焦りだけがステファンを襲う。
それからもチャンスがあればシュバリタイア王国の令嬢たちから色々聞き出そうとするものの、有力な情報は得られない。
しかしフランソワーズがとても強い聖女の力を持っているのだと知った。
彼女とは挨拶を交わす関係ではあるが、二人きりで話すことは難しい。
フランソワーズの視線の先には、令嬢たちが談笑する姿があった。
無表情だが、何故だかとても寂しそうにも見える。
解決策を模索していたステファンだったが、ついに限界が訪れようとしていた。
ステファンのアザは全身に広がり、オリーヴも精神的に辛い日々が続いた。
もう何を犠牲にしてもシュバリタイア王国に頼るしかない、そう思った。
(せめてオリーヴだけでも救えたら……)
そんな思いを抱え、セドリックの誕生日パーティーへ向かった。
婚約者であるフランソワーズも必ず参加するに違いない。
今日こそは彼女と話し合うチャンスを……そんな時、チャンスは突然訪れたのだ。
セドリックの隣には、ステファンが知らない可愛らしい令嬢がいた。
(フランソワーズ嬢はどこにいる?セドリックの隣にいる令嬢は誰だろうか)
その前にはポツンと佇むフランソワーズの姿。
「フランソワーズ・ベルナール、貴様との婚約は破棄させてもらう……!」
セドリックの言葉に会場は騒然としていた。
祝いの場で婚約者を晒し者にするやり方には驚きを通り越して呆れていた。
それにセドリックの隣にいるのがフランソワーズの義理の妹だということも。
フランソワーズはマドレーヌを虐げたという罪で問い詰められていた。
もっと驚きだったのは、セドリックが証拠もなくマドレーヌを擁護してフランソワーズを責め立てているという事実だった。
この場にシュバリタイア国王や王妃の姿はない。
「あるのは証言のみで証拠はない……それでわたくしをどう問い詰めようというのですか?」
フランソワーズの言うことはすべて正しいと思った。
(……こんな茶番劇を誰が信じるというのか)
もっと信じられないのはフランソワーズの父親、ベルナール公爵が何も言わなかったことだ。
(娘ではなく、義理の娘を庇うというのか……?)
追い詰められた状況の中、フランソワーズは余裕の表情だ。
まるでこうなることがわかっていたかのようだと思った。
そして彼女は笑みを浮かべて会場を後にした。




