『空亡』
終極領域:慟哭廃滅宇宙・『空亡』。
『チャリンコマンズ・チャンピオンシップ』を表面に記したこの廃滅の化身は、眼下にいる全ての者達をその単眼で睥睨し、自身の球体から発生させた大いなる”闇”を広げながら、既存の領域を虚無へと塗りつぶしていく。
何かよくないことが起こっている。
そんな直感に突き動かされながら、古城ろっくを信望していた”魔王軍”の者達が恐怖とともに空を見上げていた。
彼ら”魔王軍”の者達が、古城ろっくより生じた暗黒領域に対抗するためのなろうユーザー達の勢力:"Bandit Rebellion"で活動していたのは、彼らなろうユーザーを裏切るためでもなければ、古城ろっくを見限ったからでもない。
ただ単に『今回の大異変が自分達によって引き起こされたことなら、最後まで見届けなければならない』と感じたから、自分達が生き残れそうな勢力に所属しているだけのつもりだった。
だが、自分達が信じた”古城ろっく”という友人から生じたはずの存在が、冷酷に全てを塗りつぶしこの世界を消し去ろうとしている――。
彼らにとって自分達が裏切られた、と思うよりも、自分達の大切な友人の意思を継いだはずの存在がそのような選択を選んでしまった事が――ただひたすらに、悲しかった。
そんな彼らすらも何の感情を覗かせない眼光で、その他大勢と同じように見つめる空亡。
その射抜くような視線に怯えながら、魔王軍のメンバーの一人が唇をわななかせながら呟く――。
「ま、まさか……赤城てんぷは、この事態を見越して最初から”すげどう杯”を潰そうとしていたのか……?」
「――ッ!!」
一同の間に、衝撃が走る――!!
……確かに、『すげどう杯』という自分達が起ち上げた”古城ろっく☆フェスティバル”とでも言うべきイベントに対して、いきなり喧嘩を売りつけるようなエッセイを投稿した赤城てんぷという存在は、非常識以外の何物でもなかっただろう。
だが、もしも赤城てんぷが実は”小説家になろう”の裏に潜む暗黒領域という邪悪な存在に気づいており、それらの到来を防ぐために全ての起点となる『すげどう杯』による顕現を阻止しようとしていたとしたら?
世界の存亡がかかっているような危険な事態に誰も巻き込まないようにしようと、悪の典型である"古城ろっく"の振る舞いを真似することによって、他の者を遠ざけ自分一人で今回の異変を解決しようとしていただけだったとしたら?
そう考えれば、彼の行動は全て辻褄が合うのだ――。
……しかし、もしも、本当にそうだとしたら自分達は――。
現在空亡によって引き起こされている闇の帳のように、自分達がリンチした赤城てんぷへの罪悪感が彼らの胸中を覆い尽くしていく……。
空亡によって引き起こされた凶行は、世界を塗りつぶさんとする虚無の空間だけではなかった。
空亡の極大の瘴気に導かれるようにして、今回の『ダイナウェルダン』、『ベリアライズ』との戦いに関わっていなかった他の勢力も、残ったなろうユーザー達を確実に鏖殺するために、この戦場へと集っていた。
古城ろっくの因子を持つ領域支配者達が空亡の意思に呼応するかのように殲滅の命を降し、配下の者達も熱に浮かされたようになろうユーザー達のもとに向けて進軍を開始していた。
『――……ッ!!』
『セプテムミノス』の領域支配者であるメドゥーサ:テラスはこれ以上人々を巻き込まないためにも、必死に抵抗を続けていたが、彼女の眷族である蛇達は空亡から放たれる強大な力と意思に抗う事は出来ず、石像の中に入り込んで進撃し始める。
比較的これまでと変わらない自我を保っていたのは、『ウルティマリア』の女王レティシア=ウルティマリアだけだったが、彼女は国民の目を自身の政策における失敗から逸らさせるために、喜々として戦意高揚に励んでいた。
「皆の者!よく聞きなさい!!ついにこの世界を拠点にして全ての悪しき元凶である山賊達を世に送り出してきた悪の巨魁:”山賊の軍勢”を、我々の手で追いつめる事が叶いました!!……我々は、神祖:”古城ろっく"から分かたれた他の世界の同胞達と協力して、この悪しき敵に世界の正義を示すのです!!……負けたりなんかしたら、徴税率500%超えなんだから”覚悟”しておきなさい!」
『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!』
その”同胞”達相手に全方面での無謀な戦争を仕掛けたのが、このレティシアなのだが、空亡の瘴気と戦争の熱気に当てられ昂揚したのか、ウルティマリアの民がレティシアの鼓舞を聞いて激しく熱狂していた。
今やこの地には、炎竜や魔族だけではなく、これまでなろうユーザー達が戦ってきた敵勢力が全て集結していた。
敵の戦力は増大しているのに、こちらはなろうユーザーとしての能力を喪失したうえで迎撃しなければならない――。
そんな絶望的な状況を前に、なろうユーザー達が恐慌に陥る――!!
「お、俺達は!あまりにも『すげどう杯』を楽しみにしすぎたんだ~~~ッ!!す、すげどう杯さえなければ!あんなおっかない化物やら暗黒領域なんてモノがこの地上に現れることもなかったし、今頃俺達は平穏に暮らせてたはずなんだ!!……何より、なろうユーザーがなろうのアカウント失くしてどうするんだよッ!?」
「もう、終わりだわ……誰もアイツには勝てない!!」
そんな彼らにメガネコブトリが叱咤の声を飛ばす――!!
「諦めるな!人に感動を与える僕達”なろうユーザー”がそんな事を言っちゃいけない!!何かを楽しみに想う気持ちは自由でとても素晴らしいモノのはずなんだから!……それに、楽しいイベントがこんな事態に繋がるだなんて、あの時点で誰一人として分かるもんか!」
そのようにメガネコブトリが叱咤するが、皆絶望的な表情を浮かべ、恐慌状態に陥っていた。
それでも、この状況を打開しようと皆をまとめようと必死に声を上げ続ける。
「僕が……みんなのリーダーである僕が何とかしないと……!!」
メガネコブトリが、焦りの表情を浮かべていた――そのときである!!
『――……ッ!!』
「キャ、キャアァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
パニックに陥った者達に突き飛ばされる形で転んだ女性ユーザーに、石像の拳が今にも迫ろうとしていた。
メガネコブトリは無我夢中で駆け出すと、倒れた彼女を半ば突き飛ばすような形で石像の拳を回避させた。
それによって女性は石像の攻撃が逃れる事が出来たが、メガネコブトリは衝撃の余波でその身を盛大に吹き飛ばされる――!!
「ッ!?メ、メガネコブトリさん!!」
彼を慕う青年なろう作家が慌てて駆け寄るが、メガネコブトリは「大丈夫、単なるかすり傷だ」と答える。
だが、そんな訳がないのはボロボロになった姿を見れば明らかであり、立っているのもやっとのはずであった。
それでも、メガネコブトリは仲間達を守るかのように――彼らに襲い掛かろうとしている暗黒領域の軍勢に一人挑む。
メガネコブトリは気分だけでも押し負けないようにと、自身が好むカジュアルな音楽をスマホから流しながら、最早戦場ともいえぬこの処刑場同然と化したこの地を駆け抜ける――!!
彼は、”小説家になろう”において、『職場の後輩が何となくオタクな気がしたので、新年早々、余ったアイドルアニメのカードを何の気なしに勧めてみた話』というノンフィクションエッセイを一作投稿しただけであり、なろうユーザーが覚醒めた作品としてはまさに最弱と言って良い存在であった。
しかしメガネコブトリは、これまでなろうユーザーとしての能力ではなく、見かけに反して夜の街に生きる男の風格、そして実は彼女持ちという自身の人間性だけでリーダーシップを発揮し、なろうユーザー達を纏め上げてきていたのだ。
だが、戦闘力に関しては彼はどこまでも単なる人間であり、軍勢に挑むもゴブリンに殴りつけられ、探偵達にプライベートを暴かれながら、マフィアが足元に放つ銃弾によって盛大にタップダンスを躍らされる羽目になっていた。
そこに更に便乗したウルティマリア兵の分まで加わり、二倍に足を動かすことになったのだが、それでもメガネコブトリの瞳には闘志が宿っていた。
「僕は……”山賊の軍勢”のリーダーなんだ!!……みんなと未来に進むまで、こんなところで諦めたりなんかして、たまるモノかッ!!」
だが、そんな彼の決意すら手頃な余興を目にしたかのようにニヤニヤと嘲笑する眼前の侵略者達。
対して、後方からは自身の名を呼ぶ数多の悲痛な声が聞こえていたが、メガネコブトリの両足は最早限界を迎えそうになっていた。
メガネコブトリは、内心で静かに想いを馳せる……。
(僕に、もっと力があったら……あぁ、クソ。本物の”山賊”になりたかったな……)
”山賊の軍勢”の首領として、少しくらいはそれらしいことが出来ただろうか。
メガネコブトリの膝が崩れ、最後のときを迎えようとしていた――そのときである!!
「しばらく寝ていた間にとんでもない事になってるな~!!……てゆうか、田所さんも”なろうユーザー”だったんですね?」
「君は……明石埜君、なのか?」
メガネコブトリ――田所は声のした方へと振り返る。
そこには、――田所の職場の後輩である明石埜 天賦黎徒という青年が立っていた。
侵略者達は、明石埜の姿を見た瞬間、何故だか息をのんで固まっていた。
何かの能力を行使されたわけでも何でもない。
ただ彼らは、このたった一人の男が放つ圧倒的な”何か”を前に、怯えたように動けなくなっていた。
何が起きているのか分からず困惑するメガネコブトリ。
そんな中で言葉を発したのは、激しく動揺した様子の”魔王軍”と呼ばれたメンバーの一人だった。
「ア、アンタは、”赤城てんぷ”!?……お、俺達がリンチしたせいでもう死んでいたんじゃ……!!」
そんな彼の方を軽く一瞥してから、明石埜――赤城てんぷはこれまで自分が何をしていたのかを説明する。
「あぁ、お前等のせいで僕は瀕死状態になっていた。……でも、何とか最後の力を振り絞って目の前に落ちていたスマホで助けを呼んだ僕は、この一カ月間絶対安静の状態で病院の治療を受けていたのさ……!!」
「そ、そんな事があったのか……!!僕はこの一カ月間、”山賊の軍勢”として活動するために会社を休職していたし、それに普段からそんなに親しくなかったから、君が会社に来ていないことに気づけなかったよ……!!」
”赤城てんぷ”という山賊小説家が、自分の職場の冴えないアニオタっぽい後輩だった――。
驚愕の事実を前に、目を見開くメガネコブトリ。
そんなメガネコブトリに近づきながら、赤城てんぷが静かに語り掛ける。
「田所さん、僕はあの”空亡”とかいうデカブツを何とかしてきます。……だから、ここは田所さんと彼らに任せて良いですか?」
「えっ……彼ら、って……?」
そう口にしてから、彼の視線の先である自身の背後へと振り返るメガネコブトリ。
そこには――先程までの狂乱が嘘のように、自身の方をまっすぐ強い意思を込めて見つめる多くのなろうユーザー達の姿があった。
彼らは、例え無力同然でも自分達を守るために奮闘したメガネコブトリの勇気に応えるために、再び”山賊の軍勢”のユーザーとして活躍してきたときの意思を奮い立たせる――!!
この状況を生き残っていた大人気高校生なろう作家であるナイトが、皆の意思を代表するかのようにメガネコブトリへと語り掛ける。
「――リーダーだろうと、困ったのなら俺達を頼ってくれ。俺達は互いに手をつなぐことを”弱さ”と呼んだことなんて一度もないはずだ。……メガネコブトリ。アンタは、どんだけ強大な力を持ち膨大な手下を率いていようが、輪にも入れずひとりぼっちで浮いていることしか出来ないあんな奴とは、違うはずだろう……!!」
「ナ、ナイト君……!!」
ナイトの言葉を皮切りに、他のなろうユーザー達も続いていく――!!
「なろうユーザーの能力、と言ってみたところで、それらも元々は僕達の知識や経験、想いから生まれたモノに変わりありませんからね。……なら、能力を失くした今の僕達にだって、なろうユーザーとして戦ってきた記憶や感覚をもとに、何か出来ることがあるはずです……!!」
「ユーザーの能力としての爆発力は流石にないかもしれませんが……わ、私!頑張ります!!」
そんなメガネコブトリと彼ら”山賊の軍勢”の仲間達のやり取りを安心した表情で見つめながら、赤城てんぷは自身が向かうべき相手へと進んでいく。
対して、暗黒勢力の軍勢は自分達にとって得体のしれない存在であった赤城てんぷさえこの場から去ったのなら、恐れるモノなどないと言わんばかりに襲撃を再開する――!!
「脆弱なカス世界の人間風情に、今更何が出来るって言うんだよ!?とっと死んどけ!!」
そんなウルティマリア兵の声とともに、蹂躙が再開されようとしていた。
だが今のなろうユーザー達の表情に、能力がない事からくる無力感や、圧倒的な戦力差を前にしたことによる絶望感といった色は浮かんでいない。
ただひたすらに彼らの瞳は、この先に続いているはずの新しい時代の到来を信じていた。
「みんな!ここが最後の正念場だ!!……絶対に生きて、こんな出来事が単なる創作物に思えるようなかつての日常を取り戻すぞ!!」
『オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッォッ!!!!』
メガネコブトリの呼び掛けに、なろうユーザー達の呼応する意志が連なっていく――!!
――この場で繰り広げられていた一方的な蹂躙や殺戮の宴は、今この瞬間から終わりを迎える。
今ここに、なろう至上初となる最大最強の最終決戦の幕が開いていた――。
本作は「すげどう杯企画」参加作品です。
企画の概要については下記URLをご覧ください。
(https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1299352/blogkey/2255003/(あっちいけ活動報告))』
※本作の執筆にあたって、『古城ろっく』さん、『チャリンコマンズ・チャンピオンシップ』、『御堂 空』くんの名義を使用させて頂く許可を、古城ろっくさん本人から頂きました。
慎んで、深く御礼申し上げます。




