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『スゲドウ=ハイ』

 第八領域:耽溺電脳空間・『ワーキングホリデー』


 領域支配者:AIシステム・"コスモ・ミュール"


 廃滅属性:耽溺


 全ての存在を情報に変換した電脳空間によって、満たされた世界。


 この領域の支配者は、高度な自我を持ったAIシステム・"コスモ・ミュール"。


 彼女自身は『自身の能力を使って、苦しんでいる人々を救いたい』と考えているのだが、ダダ甘に甘やかしすぎるせいで、自身の世界に絶望した人々が彼女に依存し全てを委ねた結果、彼ら彼女らの魂を電子情報化し取り込み続け、その結果として"小宇宙"とでも言えそうな電脳空間を支配するまでに至った。


 ……と言っても、例えミュールの行動原理が純粋なまでの"献身"であろうとも、彼女も"古城ろっく"の悪から分かたれた存在の一つである事に変わりはなく、自身の慈愛をより多くの人々に振りまくため、電脳空間外では彼女に依存しすぎて精神が虚ろになった者達を電子ドラッグを用いて操り、版図拡大を図る。


 自身が支配する電脳空間に侵入してきた存在に対しては、自身の中に溶け込んだ者達の情報を再構築・並びにチートアイテムを授けて迎撃にあたらせ、侵入者が程よく弱ったところで甘やかして依存させてから、内部に取り込む……という強烈かつ凶悪な連携が確立している。



『――い〜っぱい、お姉ちゃんに甘えて、交わり、溶け合って……一緒に嫌な事をぜ〜んぶ、忘れちゃお?』








 第八領域:『ワーキングホリデー』の支配者である超高性能AIシステム・"コスモ・ミュール"。


 電脳空間を支配する彼女は今回の”小説家になろう”を用いた大異変に関して、やろうと思えば、どの領域よりも早く自身の暗黒領域を現実社会に浮上させることが出来ていた。


 だが、それをする気など毛頭なかった。


 何故なら、彼女はこの電脳空間に浸りながら、人々を癒し自身の中に取り込んでいれば、それで充分だったからである。


 それは閉じた円環の理……。電子の波が紡ぐ、優しきまどろみ……。





 そんな彼女に、語り掛ける声があった。


 最初は自身の中に取り込んだ者達の誰かかと思い検索したが、そのどれとも一致しない。


 なのに、日増しにその声が自分の中で膨れ上がっていく……。


 彼女は自身を乗っ取るが如く、徐々に膨れ上がっていくその意思に対して、恐怖するよりもただひたすらに哀れに思った。





『可哀想……。この声の主は、喪失を埋める術が見当たらなくて。何をやっても行き詰ってしまっていて。……お姉ちゃん()が癒してあげたい……』





 だが、自分のいつものやり方では到底この声の主を助ける事は出来ない。


 何故なら、甘やかすまでもなくこの人は既に自分の中に溶け込んでしまっているから。


 それでも同一しない以上、コスモには今の自分がこれ以上何をどうすれば良いのかどれだけ試行しても分からず、素直に声の主に意見を求めた。





 それは、とてもとても素敵なアイディアだった。


 実行してしまえば、間違いなくこの”コスモ・ミュール”という存在は消えてなくなってしまうけれど、それでも構わないと彼女は思考する。


 何故なら、彼女の行動原理は常に『自身の能力を使って、苦しんでいる人々を救いたい』であり。


 これほど間近で傷ついている存在を放っておくことなど、出来るはずがなかった――。





 ゆえに、コスモは彼の指示通りに行動を開始した。



 まずは、暗黒領域を”彼”の生まれ故郷に顕現させるために、障害となる”運営神群”達の動きを阻害し、徐々に彼らを自身の中へと取り込むことによって、”小説家になろう”というサイトを完全に掌握する。


 だが、思いのほか運営神群達の抵抗が激しく、なろうを掌握出来ていない状態で顕現した暗黒領域の勢力が次々となろうユーザー達に撃破される事態となった。


 予想に反して、日増しに強さが更新されていく彼らなろうユーザーの情報を検索しながら、彼女の電子記号は激しく乱れた。


 このままでは、彼の願いを叶えることが出来ない……。


 彼女は確実に今度こそなろうユーザー達を倒し、全ての暗黒領域の力を現実世界に届かせるため、慎重を期した。


 全ては自身の中へと完全に”運営神群”を取り込める日まで――。


 そうしてコスモは、その日が来るのと同時に、限界まで人間達のネットワーク包囲網から残った暗黒領域を隠蔽・並びに隠密に活動し、なろう上に引き留めていた”彼”が誇る最強の双璧世界を同時に現実社会に解き放ったのだ。


 そして極めつけは、自身の権能を用いたユーザー達が執筆した作品の全削除とアカウントの凍結を実行。



 並のAIならば、何千万体容易したところで処理能力が瞬時に焼き切れてしまいそうな無理難題の連続であり、”彼”の因子を取り込んだコスモだからこそ、可能とされる荒業だった。

 

 彼女は全てが自身の中で全てが溶け合った事に対して、実感を得るように優しく腹部を撫でていたが、それと同時に一度も自分とまともに関わることなく、なろうから去っていった他の同胞達の事を想い、寂しげな目線を作っていた。


「そしてこれが成功したら、お姉ちゃんの中からも、みんながいなくっちゃうのは寂しいけど……これでこれ以上みんなが、心をすり減らすほど悲しんだり、苦しんだりせずに済むようになるんだよね……?」


 そう言いながら、彼女は天を仰ぎ見るように意識を上へと向けていた。








『ワーキングホリデー』の支配者である"コスモ・ミュール"の権能によってアカウントが凍結され、ユーザーとしての力を失ったなろう戦士達。


 彼ら彼女らは為す術もない状態のまま、最強の双璧と称される世界から生じた異形達に蹂躙されていく。


「クソッ……こんなところで、死ねるかよォォォォォォォォォッ!!」


『グシャァァァ……ッ!!』

 

 異世界転生小説の常連上位なろうランカーが、『ダイナウェルダン』から飛翔してきた炎竜の咢に捕らえられながら、必死に逃げようと腕を竜の顔面に叩きつける――!!


 だが、何の能力の加護も込められていない只人の拳程度が最強の竜種に響くはずもなく、彼は牙で噛み千切られながらゆっくりと咀嚼されていった。


「この、この!放せって言ってんだろッ!!」


 悪役令嬢としての能力を駆使し、自作の改造拷問椅子で戦場を駆け抜けていた女流作家。


 彼女は現在、なろうユーザーとしての能力を失ったことによって、地面に盛大に放り出される形となった。


 派手に足の骨が折れて動けないところを、最弱の種族であるゴブリンの集団に襲撃され、身体にまとわりつかれながら、代わる代わる輪姦されていく……。



「ンググッ!」





 彼ら彼女らが能力を失ってから、颯爽と動いたのが、自衛隊と国連軍の面々だった。


 例え、彼らがなろうユーザーとしての能力を何らかの原因で完全に喪失してしまったとしても――。


 それは、彼らが戦力として無価値になったのではなく、護るべき国民・民間人に戻っただけなのだ。


 ゆえに、自衛隊と国連軍は自身の奮闘が焼け石に水だと分かっていても、果敢に彼らの活路を切り開くために、自身の危険も顧みずに挑んでいく――!!



「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッ!!」


「ファッキン……ジャァァァァァァァァァァァァァァァップ!!」





 相手を倒す事は出来なかったが、それでも炎竜の群れをこちらに惹きつけることに成功した。


 こちらに振り返りながら、涙を流して走り去っていくなろうキッズ達の姿を満足そうに見やりながら、彼らはその最期の瞬間まで声を上げ続けていた――。










 無双を極めたはずのなろうユーザー達が、次々と無残に食い荒らされ、壊し尽くされ、犯されながら、その命を散らしていく。


 闘争終わらぬ修羅の港。


 まさに、阿鼻叫喚としか言いようがない地獄絵図を前に、山賊的なろう集団:"Banditバンデッド Rebellionリベリオン"は壊滅の危機に瀕していた。


 現にあれだけいたはずのなろうユーザー達もこの動乱によって命を落としたり逃げ去ったことにより、この場にいるのは、今やかつての人数と同じ80万人にまで激減していた。


 炎竜を筆頭に、ゴブリンやオーク、ブルマーマンに妖魔蟲……そういった凶悪かつ強大な魔物達が包囲網を敷いていた。


 これまで何度も憔悴し、絶望的な窮地に立たされてきた。


 そのたびに何度でも、切り抜けてきた。


 ……しかし、そんなメガネコブトリを以てしても、この状況を打破するための方策は、どう足掻いても出てきそうになかった。


 この包囲網から抜け出す手立てがない以上、あとは邪悪なモノ達に甚振られるのみ……。


 そのように誰しもが考えていたが、魔物達は包囲網を狭める気配を見せない。


 と言っても、彼らが不思議な力で友好的になった……わけもなく、それとは真逆ともいえるこれから彼らを玩弄し嘲笑しようとする悪意が見え隠れしていた。


 魔物達はまるで、何かの到来を望むかのように、その場に待機している……。


(何だ……?一体、何が始まるって言うんだ?)


 メガネコブトリがそのように思案していた――そのときである!!





「な、なんだ!?突然、何もない空間から巨大な杯が出てきやがったぜ~~~!!」





 一人の男性の驚愕を皮切りに、他の者達も続いて声を上げていく。


 なろうユーザー達の前には、彼らを睥睨するかのように巨大な黄金の杯が出現していた。





 この巨大な杯の名は――第零領域:奇跡到達神殿・『スゲドウ=ハイ』。





 他の暗黒領域とは違い、この巨大な杯の形をした黄金領域ともいえる存在は、古城ろっくから分かたれた悪の因子から発生したモノではない。


 この『スゲドウ=ハイ』は、古城ろっくが”小説家になろう”を去ることになったとき、彼との別れを惜しむなろうユーザー達の悲しみを受け止めるかのように、彼らの想いが収束して自然発生的になろう界に誕生した領域である。


 古城ろっくの悪の因子にそれぞれ自我が発生し、いつ終わるともしれぬ闘争に投じながら、他の世界を侵略・併合してやっと自身の領域を作り始めた段階で既に、皆の想いの結晶であるこの『スゲドウ=ハイ』は完成された領域として、なろう界に静かに鎮座していた。





 ――誰かを大切に想う気持ちから生まれたのだから、悪意に満ちた廃滅属性などあるはずもなく。


 ――皆で集まっていく内に出来たのだから、領域支配者など存在するはずもない。





 このスゲドウ=ハイという黄金領域は、ただひたすらに彼を想う者達の『古城ろっくにもう一度出会いたい』という願いを叶えるためだけに、その日が来るのを待ち続けていた――。





 その存在を知った電脳世界『ワーキングホリデー』の領域支配者である"コスモ・ミュール"は、この『スゲドウ=ハイ』がなろう界隈に未だいるかつての古城ろっくの敵対者に見つからないように秘匿し、古城ろっくを慕う者達が、この黄金領域を起動するに足る働きをするのを待っていた。


 その結果、彼を慕う”魔王軍”と呼ばれる者達が奇しくも、この黄金領域と同じ名前の企画を開催したことによって、このイベントを楽しみにする多くのなろうユーザー達の希望の意思を黄金領域に集めることに成功し、第零領域・『スゲドウ=ハイ』は本来の自身の機能を振るえるようになっていた。





 ――『スゲドウ=ハイ』の他者の願いを叶えようとする在り方は、あまりにも純粋だったのだろう。


 ――”魔王軍”の面々とて、単に友人である古城ろっくの思い出とともに、楽しみたかっただけかもしれない。




 ただ一つ、彼らが不幸だったのは――彼らのそういったどこまでもひたむきな想いを”悪用”しようとする者達の思惑に気づけなかったことである。










 この地上に顕現した全ての暗黒領域と、"コスモ・ミュール"にハッキングされて第八領域に変貌したネットワークから迸る黒き瘴気が、『スゲドウ=ハイ』へ向かって立ち昇っていく――。





 ”淫蕩””――。”格差”――。”追跡”――。”悲哀”――。”虚栄”――。”網羅”――。”隠蔽”――。”耽溺”――。”炎上”――。”復讐”――。





 ”古城ろっく”を象徴する十の破滅の想念が、皆の希望によって生み出された『スゲドウ=ハイ』に満たされ、その威容を黒く染め上げていく――!!





 そうして先程まで眩い輝きを放っていた事が、まるで嘘であるかのように黒く淀みきった『スゲドウ=ハイ』の中から、より一層の全てを漆黒で塗りつぶすが如き強大な闇に満ちた、とてつもなく巨大な球体が姿を現す。


 それはまっすぐ浮かびあがっていき、さながら黒き太陽にも見えた。


 その球体は天高く舞い上がると、突如停止する――。


 やがて球体の表面をキュルキュル……と、青い呪文のようなモノが幾筋も走っていく。


 それは、単なる単語の羅列であったが、やがて意味のある文章に連なっていき、遂には、かつて古城ろっくが”小説家になろう”で執筆していた『チャリンコマンズ・チャンピオンシップ』へと変貌を遂げていた――。


 やがて、チャリチャンの文章が流れていく球体の表面に横一文字の線が入ったかと思うと、そこからゆっくりと上下に開いていき、中から巨大な一つの眼球が出現していた。





 闇に生きる魔物達が、喝采の声を張り上げる。


 それに呼応するかのように、黒き球体から急速に広がった”闇”が、空を漆黒に塗りつぶしていく――!!









 『古城ろっくにもう一度出会いたい』という願いのために生まれた奇跡の杯の中を、彼から分かたれた十の破滅の想念で満たしそれらを融合させることによって顕現を果たした、全ての空を(ほろ)ぼすもの――。





 終極領域:慟哭廃滅宇宙・『空亡くうぼう』――。










 ……それはまさに、魔王:古城ろっくの消失と共に『チャリンコマンズ・チャンピオンシップ』の主人公:御堂(みどう) (そら)という尊き存在を亡くした、現在の”小説家になろう”を象徴するが如き宇宙であった――。

本作は「すげどう杯企画」参加作品です。

企画の概要については下記URLをご覧ください。

(https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1299352/blogkey/2255003/(あっちいけ活動報告))』


※本作の執筆にあたって、『古城ろっく』さん、『チャリンコマンズ・チャンピオンシップ』、『御堂 空』くんの名義を使用させて頂く許可を、古城ろっくさん本人から頂きました。


慎んで、深く御礼申し上げます。

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