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囚人のジレンマ

「皆に集まってもらったのは他でもない。此度は緊急性の高い議論をしなければならない状況に陥っているからだ」


 玉座から立ち上がった剣王は、両脇に並ぶ元老院と国民議会の前でそう大きな声で宣言をする。


「先の件で既に話題にあがっている刀王について、遂に結論を出さなければならない」


 以前の議会では既に話題にあがっていたのであろう、刀王についての話題が剣王の口から遂に出される。

 今まで剣王側からは触れられてこなかった話題に、元老院側からざわめきの声が出始める。

 そして元老院側にてほくそ笑む者が一人――マダム・グロリアはとうとう刀王が排除されるのだと期待を膨らませていた。

 しかし返ってきたのは予想外の答えだった。


「刀王はなんと、我々にとっては多大な手柄を立てて帰ってきた!」

「おおっ!?」

「なっ!? どういう事かしら!?」


 当然異を唱えたのはマダム・グロリアだった。重苦しい体を持ち上げ、元老院にて一人だけ立ち上がってその言葉がおかしいと言い張り始める。


「んん? 何か不都合でもあるのか?」

「い、いいえそういうつもりではないわ。ただおかしくはないかしらということだけよ! 現に我々の前にはあの刀王の姿が見えないじゃない! それに先に派遣した《ソードリンクス》の成果も聞かないままに――」

「《ソードリンクス》なら、既に反逆対象として殲滅したと俺の元に届いているが?」

「なっ――なんですってぇええっ!?」


 あーあー、裏にまで豚の醜い悲鳴が聞こえてきやがる。正直不愉快だ。


「まっ、詳細は実際に討伐したやつに聞けば納得できるだろう。てことで、出て来てもらおうか、《無礼奴ブレイド》」

『仰せのままに』

 

そう言って俺は静かに玉座の裏から、剣王の影から姿を現した。


「なっ、刀王!?」

『刀王ではない。今は唯の剣王に仕える刃の一つ、《無礼奴ブレイド》だ』

「そんな言葉遊びをする時ではないでしょうが! どういう意味か説明してもらおうかしら!?」


 いいのか? 本当に全てを話しちまうぞ?

 俺は内心ほくそえみながら、フードの奥で淡々と事情を説明していった。


『まずは最初に、俺は突然姿を消したワケじゃない。正しくは《ワノクニ》に売られたんだ』

「なんだと!?」


 国民議会側からは驚きの声が挙がり、元老院側からは焦りの声が漏れるのが聞こえる。


『武器の一つも持てないまま売られた俺は、状況を把握しようと売られた先の奴隷市場を抜け出してなんとか暗王と謁見した。そしてこんなものを貰ったワケだ』


 そう言って俺は例の売人リストを議会の前で大きく広げ、まざまざとその内容を見せつけた。


『まあここに名前が挙がっている奴等は後で検挙するとしておいて、問題はこれだ』


 俺は自身の異名である刀王と書かれた商品欄と、その売人の名前を丁寧に指さした。


『マダム・グロリア……一体どういう事だろうか』

「く、そ、そんなのねつ造に決まっているわ! 流石に都合が良すぎる――」

『……だそうだが、エンヴィー? お前はどう思う?』

「はてさて? わらわは暗王として、そしてそちのTMとして素直にリストを渡したにすぎぬはず、であるが」


 俺の影から誰もが知るであろう暗王の名を冠する天狗が現れる。そしてクスクスと元老院の面々を見て笑っている。


「ほうほう、随分と見慣れた売人の顔が揃っておるようじゃのう……」

『……まあその辺も《亜人強制追放案》を提唱した方々と照らし合わせてもらう事にして、まずは俺を、ベヨシュタットをはめようとしやがったクズの断罪を優先させてもらいましょうか』


 俺はフードの奥で誰にも見えない笑みを浮かべ、そしてマダム・グロリアへの追撃を続ける。

 この時点で元老院の一部の顔色は、真っ青を通り越して死刑を宣告されたような絶望の表情を浮かべていた。


『マダム・グロリア……確か貴方も《亜人強制追放案》の中心メンバーでしたよね? そして子飼いのギルドである《ソードリンクス》に俺の討伐依頼を下したようだが……まあスキル構成も甘いゴミクズ集団が俺に勝てるとおもっていたところがお笑いでしたね』

「ぐっ……」

『そして更に刑罰は重くなるわけだが……お前はよりにもよって刀王おれのTMであったラストを処刑しようと画策していたらしいな』

「そ、それは! 以前から亜人であり、《七つの大罪セブンス・シン》であった危険因子を《亜人強制追放案》が通った中で放置しておくのは――」

『あぁー、《亜人奴隷化法案》のことか』

「ち、違う! そうじゃないのよ! 何で誰も反論してくれないのよ!?」


 そりゃこっちに首根っこ掴まれていることに気づいているからだろうが。気づいていないのはあんた一人だけだ、豚女。

 さて、ここでもうひとつ面白いことをしてみようか。


『まあ流石に元老院側からこれだけ犯罪者が出たとなると、色々と立て直しが大変なことになる訳だが……こうしようか。お互いにまだ知られていない中で犯してきた罪を話し、多くの情報を持っていた者はこの国に残る権利をくれてやろう。それ以外は……財産全てを置いて国外へと追放させてもらおうか』

「なっ!? それは――」

「お、俺、こいつが領地内で亜人に必要以上に重課税をしているのを知っているぞ!?」

「はぁっ!? お前だって亜人を囲い込んで売りとばしたりしていただろうが!」


 さあさあ出ました暴露合戦。囚人のジレンマだねぇ。

 俺は国民議会側の書記官に全て書き記すことを命じ、後は剣王の判決に従うように言った後、その場を悠々と立ち去っていく。


「……随分と腐っていたみたいだな」

『下衆が権力を持てばこんなものだ。これからは国民議会側が強い力を持つことができる。これで本当の政治運営ができるだろう』

「感謝するぞ、朋よ」

『礼には及びませんよ、我が王』


 これが《無礼奴》としての最後の仕事だと願いたいと、俺はその場を静かに去っていった。

 まあ最後にやるべきことがまだ一つだけ残っているワケだが、それは俺個人でケリをつけるものだからな。


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