無礼奴
「まさか、お前の方から討伐の任務協力を頼まれるとはな」
今喋っているあいつがスヴェンか?
立ち入り禁止の森の入口。俺はラストの【幻体変化】を活用して気配を断ちつつ、俺はシロ率いる《ソードリンクス》のメンバーの様子をうかがう。
「あの針金のようなゴミが、主様を……!」
『落ち着け。ここで下手に出るとシロさんにまで被害が及ぶ』
「ですが主様の敵であるのなら、一刻もはやく討ち滅ぼさなければなりません!」
怒りに身を震わせるラストをいさめるために、俺はラストの肩を持って抱き寄せる。
『ここで失敗すれば、それこそ終わりだ……今は好機をじっと待て』
引き続き森へと足を踏み入れる一行を見張りながら、俺は最高の奇襲の機会をじっと伺い続ける。
「とうとう《殲滅し引き裂く剱》ですら手に負えなくなったのか。それとも、剣王からも抹消命令が出たとでもいうのか?」
スヴェンの嘲るような問いかけに対し、シロは一瞬だけムッとした表情を浮かべたものの、すぐにいつものにこやかな表情に戻って何とか応対を続ける。
「まあ、お恥ずかしい話ですが我々でも手が追えなくて。一応彼は我が《殲滅し引き裂く剱》でも強い方ですから、ボク一人の討伐ですと確実性がありません。それに――」
そこからは言葉巧みに、シロは相手の欲望を煽り立て始める。
「我々《殲滅し引き裂く剱》も、斜陽になってきたのでしょうか……ジョージさんが行方不明になって以降、色々と業務の方もはかどりませんし、このままだと剣王直下のギルドの看板は下ろさなければならないでしょうかねぇ」
「フハハッ! だから業務跡継ぎも兼ねて、今回の刀王討伐を依頼したというワケか!」
「お恥ずかしい話、そうなるかもしれませんね」
「ククククク……堕ちたものだな、《殲滅し引き裂く剱》!」
ソードリンクスのメンバーはシロの姿を情けないと思って嘲り笑っているが、それも数刻立てば絶望の色に染まるだろう。
「主様のギルドを侮辱するなど……ッ!」
『《殲滅し引き裂く剱》の名を笑う、か……』
まあ、もっと上にある裏のギルドを馬鹿にされるよりかはマシか。
――どっちにしろ、斬るがな。
「さて、参りましょうか」
シロさんのこの言葉が、俺達への合図だ。
『……移動開始。各自行動に移れ』
「“了解”」
事前に配っておいた音響石を使って、俺達は徹底的な殲滅作戦の開始の合図を森に潜む皆に送った。
◆◆◆
「――しかし、グスタフとやらがいっていた巨大モンスターだが……探知しても出てくる様子がないな」
それもそのはずで、この森にはエルフの中でも熟練した者しか配置していない。
平均レベル110。これこそがこの森のレベルの高さを表している。
まあ、基本だけを俺が鍛えて後は自主練に任せた結果、師匠の俺よりレベルが高くなってしまったことは予想外だが。NPCだとレベルアップしやすいのだろうか。
「それどころか、人っ子一人いないようだ……我々の優秀な探知スキルにも反応無し。どういうつもりだ?」
「おかしいですね……っ!?」
突然シロの足元に、一本の矢が放たれる。
「ッ、今のは!?」
「第三部隊は今の影を追え!」
「ハッ!」
予定通りリーニャがわざと見つかる事により、三つあるうちの部隊の一つを分けることが出来た。
更に――
「だっしゃぁ!!」
軍団を引き裂くようにペルーダがその爪でもって軍団の一部に致命傷を与え、再び茂みの中へと消えていく。
「今のは何だ!」
「第二部隊! 茂みの向こうだ!」
「ボクも加勢します!」
さて、これで第三、第二部隊は消えた。残ったのはスヴェン率いる第一部隊のみ。
『ラスト。お前は第三部隊の殲滅に迎え。リーニャ達を支援するんだ』
「仰せのままに……して、如何様に始末いたしましょうか?」
ラストは答えを知った上で、怪しげに笑みを浮かべて俺に問いかける。
『……お前に《殲滅し引き裂く剱》以前のギルド方針を言ったことがあるよな?』
「はい。存じております」
『その通りの意味だ。《どんなに汚い手を使ってでも殺せ。殺しつくせ》と』
「……承知しました」
ラストはボスモードの口調へと変化した上で、さらに七つの大罪としての信条を俺の前で宣言する。
「ではどんな手を使ってでも主様に甘美な勝利を捧げることを、このラストが保証いたしましょう」
俺はその言葉に満足すると共に、個としてではなくギルドとしての名乗りを静かにあげる。
『……《無礼奴》、いざ参る――』




