本物
今回冒頭から三人称視点です。
「――それは随分と、困りましたね……」
剣王直下ギルド、《殲滅し引き裂く剱》の長である青年、#FFFFF――通称シロは、首都ベヨシュタットにある城の廊下にて目の前に現れた貴族の発言に首を傾げると共に、困ったというような感想を漏らした。
「ぶほほほ、身内の失態は身内で拭うべきでは無いのかしら?」
「それもいえていますけど、まだジョージさんだと確定した情報ではないと剣王もおっしゃっていましたよね?」
シロのもっともと言える反論にいらだちを募らせているのは、頭身が三頭身ほどにしか見えないくらいにでっぷりと太った夫人。そしてそばにいる細身に鋭い目つきで睨みつけているのはあの《ソードリンクス》の頭領を務める男、スヴェン。
「ぐっ……でもいまだにあの男は行方をくらましたまま、出てこないわよ? それについてはどう弁明するつもり?」
「さあ? あの人は時々領地を見てくるとか言ってふらりといなくなる時がありますからねー。それかもしくは、剣王から指示を受けて独自に調査をしているかもしれません」
シロの言い分は最もで、この国で一番剣王の信頼を勝ち得ているギルドは他ならぬ《殲滅し引き裂く剱》。ゆえに何と言われようが極秘と言ってしまえば、それ以上の詮索は剣王に反するのと等しいことになる。
シロはそれを利用していつも通りのらりくらりと議論をかわしていると、しびれを切らしたのかスヴェンはシロに向かって怒りのこもった声でこう言い放った。
「あの男が裏切っているのは明らかだ! 現に我が領地内に同じ青色の袖で怪しい動きをしているとの報告が――」
「おやおや? その話はボク達《殲滅し引き裂く剱》と剣王しか知りえない情報のはずですが?」
「ハッ――」
「っこの馬鹿!」
太った夫人とスヴェンとの間で小さなやり取りがあったものの、シロは特に聞こえていない様子でニコニコとしている。
「……《ソードリンクス》も独自で調べているって意味よ。貴方達の方も調べているみたいだけど、こっちの方が情報は掴めているわ」
「へぇー、それはそれは是非とも、情報を共有していただきたいものですが」
「ダメだ」
シロの提言に対し、スヴェンは即座に返答を返す。
「言ったはずだ。俺達の情報だと、あの刀王が亜人を使って我々ベヨシュタットに反旗をひるがえそうとしていると。そして今、刀王と通じていたお前達にも元老院からは疑いがかかっている。最近ではお前達も、刀王のTMや親族を取り逃がしているではないか。その辺の言い訳はできているのか!」
「そもそも疑いをかけられている奴等をいまだに重用するなんて、剣王様のお気も知れないけど」
そう言ってシロの目の前で二人は笑っている。シロはただそれに対し、苦笑いだけを返すのみ。
「確かに貴方たちの中では処刑予定だったTMや、突撃部隊の女性をボク達は取り逃してはいます……ですがそれも立った一度の失態というだけで、ボク達には実際に剣王とともにこの国を大きくし、苦楽を共にしてきた長い付き合いがあるのですから、まだまだ信頼には足るのではないのでしょうか? それに――」
シロはそこからは笑顔を残したまま、殺気だけを込めた言葉でまるで二人に対して警告を言い放つかのようにこう言った。
「――もし誰かがこの国に反旗を翻すのであれば、身内であろうとなんであろうと《殲滅し引き裂く剱》ではない《本物の無慈悲なギルド》が、この国の敵対者を例外もなく必ず殲滅せしめるでしょうから」
その言葉を放った後もシロは笑ったままだったが、目の前の二人からはとうに笑みは消えている。
「……では、そういう事でボクは失礼します」
シロはそう言って礼儀正しく軽い一礼をしてその場を立ち去っていく。
「……あの危険な男も処分しなければ、この俺が剣王の座には就けない」
「ええ、分かっているわ。だからこそ、《殲滅し引き裂く剱》には退場してもらわなければならないわ」
そう、元老院による国会操作によってね――
これの次からは割と真面目と書いてシリアスな話になると思うので、季節ネタの番外編はこの次の話に仕込んでおこうかなーと思っています。




