ファーストコンタクト
『――昼間でも薄暗い点については、こちらに有利か』
俺はラストを引き連れ、特に防衛すべきポイントの視察にまわっている。
今のところは特に注意すべき点は見当たらない。なにぶん天然の迷路となっているこの樹海、コンパスもまともに効かないこの区域で目印無しで歩けば遭難は間違いない。
『……だからといって』
お前が持ち場を放棄していい理由にならないことくらい分かっているのかペルーダ!
「あたしは別にジョージリスペクトの遊撃専門だし! なんかあったらすぐに駆けつけるからいいもん!」
「羽・虫・風・情・がー!」
ラストが目下敵にしているのが金髪の野生児エルフ、ペルーダだ。彼女の戦闘スタイルは狂戦士であり、闘士の上位職である拳闘士の状態で特殊な条件を満たせばこれになれる。
得意武器は籠手に仕込んである爪。これで敵の喉笛をクリティカルに引き裂き、一瞬で戦闘不能状態に追いやるのが彼女の戦闘スタイルだ。
「……くんくん」
そんなペルーダが急に何かを感じ取ったのか、臭いをかぐような動作を始める。
『どうしたペルーダ? まさか敵でも――』
「ぅーん、ジョージの臭いがするっていいよなーと思ってさ」
俺ってそんなに臭いのか?
自分で自分の服を臭ってみても分からないが、ペルーダには分かるようだ。
「暖かい匂いがする。安心できる匂いだ」
『……何だそりゃ――』
「分かりますわその気持ち!」
変なところで同調したのは、うちのTMであり問題児のラストだ。
「とにかくひたすらに、落ち着きますのよね!」
「そうそう! ジョージを抱き枕代わりにして寝るとどんだけ快眠できるかって話だよね!」
「あら、私は毎晩一緒ですわ」
「ずーるーいー! あたしにもよこせー!」
不穏な会話が後ろで繰り広げられている――ってかラストはあれから毎晩俺のベッドに侵入しているのかよ!?
『……頭痛くなってきた』
「主様!? どうかされたのですか!?」
「村に一旦引き返すか!?」
お前等のせいだよ……全く。
『……ん?』
風がなびく音が、森のさざめく音を生み出す。だがこれは、自然的なものではない。
『……来たか』
「こっちだ!」
流石に森林で遊撃専門を名乗るだけあって、ペルーダは足取り軽く木々を跳び移り、問題の個所へと走っていく。
『俺達も向かうぞ!』
「承知しました!」
俺とラストもまた、地面を足早に駆け抜けてペルーダの後を追う。
『早速来るか……何とかして食い止めなければ……!』
◆ ◆ ◆
「まさか探索隊として我が《魔剣同好会》が行くことになるとはな!」
黒い甲冑に規格外の大剣。あの暗黒騎士ゴウ率いる《魔剣同好会》が、この立ち入り禁止区域へと足を踏み入れている。
「まさか元老院の提示する《亜人強制追放案》が通るとは……刀王がいない間に随分と屈折した法案が通ったものだ」
「あの女貴族が先導して発起したやつだっけ?」
「その通り……刀王が行方不明、そして刀王関連でとらえられていた者の脱獄……これらが示すものとは一体……」
『……マズいな。随分と悪い噂が先行し始めている』
森の中、道なりに直進するギルドのメンバーの会話を耳にして、木の上で様子をうかがっていた俺達に焦りが生じ始める。
「《亜人強制追放案》……なんてひどいことを」
「あのヤロー、喉笛引き裂いてやる――」
『待て、基本は追い出すことだっただろうが』
「くっ……」
このまま直進すれば、村に到着してしまう――
「あっ! あっちに綺麗な花が咲いていますよ!」
「本当か! よし行ってみよう!」
……バカだあいつ等。




