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王の誇り

「ククク、どうしたのじゃ? 大言を叩いておきながらこの様とは」

『それは攻撃を当ててから言ったらどうだ?』

「ッ、減らず口をッ!!」


 防戦一方。時間稼ぎにしかなっていない。

 戦場は天守閣、そして屋根の上へと移っていく中、俺は何かできないかと辺りを見回していた。


『せめて手ごろな武器さえあれば……』


 全てのTPを四鬼噛流につぎ込んでいるため消費が少ない分生きながらえているが、それでも王の猛攻を前に長続きできるほどの余裕は無い。

 かといってこんなところで残りの技を見せたくはない。


「それにしても面妖な……本当にハンゾウを思い出すわ」

『何……?』

「その技……相手を前に枯葉の様に舞うその技、ハンゾウがわらわに従う前から好んで使っておったわ。まあ結局のところいえば、わらわはその技を見抜けたが」


 まずい――


「ッ!?」


 俺は自分の脇腹から流れる血に、驚きを隠せなかった。


「やはり、な」


 暗王は狙い通りといった様子でニヤリと笑い、鉄扇で口元を隠しながら再び余裕の表情を浮かべる。


「貴様の技、確か四鬼噛流といったか? 絶対防御ゆえに、敵は手も足も出せぬというが、そのからくりはこうであろう?」


 攻撃の際に生じる微量の風圧。それに身を任せることで、最小限の動きでもって敵の攻撃を回避する――


「まさに、小心者が考え付いた児戯というべきか」

『……ッ! ……児戯、ねぇ』


 児戯と呼ばれたら仕方がない。

 それに、そろそろ遊びも終わりの時間のようだ。


『だったら子どもの遊びを止めて、本気で行こうか――』


 俺は構えを解き、まるでさよならを告げるかのように暗王の方へと手を振る。


「ッ!? 何だその構え――」


 暗王は最後まで喋る前に、とっさに鉄扇で自分の後ろの空を切った。


『今のは構えでもなんでもない。ただの合図だ』

「……奇襲なぞ、ふざけおって!!」


 暗王の足元には真っ二つにされた弾丸が、そして暗王の視線の先――俺のTMの範囲浮遊呪文によって浮かぶ突撃部隊の女性の姿が。

 そう、俺が手を振っていたのはこの二人の方だった。


『……なんで姉さんがここにいるかは知らないが、今は助かったとだけ言っておこう』

「狙撃ならお姉ちゃんにまっかせなさーい!」

「主様! 確かにお届けいたしました!」


 俺の姉――シーナは手元にある大口径スナイパーライフルをぶんぶんと振りながら、暗王の一瞬の隙を作り出せたことに喜んでいる。

 そしてその隙に俺が装備しているのは――


『……《破魔ノ太刀ハマノタチ》に――』


 ――タイラントコート。


『ようやく、対等に戦えそうだな』


 ラストに転送してもらった装備を身に着け、フードを目深にかぶり、今度こそ俺は名乗りを挙げる。


『《殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション》……《刀王》ジョージ、参る!!』

「ざ・れ・ご・と・をぉおー!! おのれらぁーー!!」


 計画が狂った暗王は、とうとう本性を露わにする。


風蛇ふうじゃ闘牙迅とうきじん!!」


 暗王は狂ったように巨大な竜巻を集中して呼び出し、城の天守閣を破壊しつくす。


「どうじゃ!? ここまで風を呼ばれてしまっては、貴様も流れに逆らうどころかバラバラに引き裂かれ――」

『抜刀法・四式ししき――風刃斬ふうじんざん!』

「何ッ!?」


 一太刀で竜巻は消え、そして空が見える。外から丸見えとなった部屋にて、俺は刀の切っ先を暗王の喉元へと向け、そして挑発の一言を発する。


『随分と生ぬるい風だな』

「……貴様、わらわを天狗と、王と知っての所業であるか!?」

『知ったことか。俺だって王だ』


 それにしても、嫌な予感を覚える。

 実を言うと、先ほど俺は抜刀法の壱式・弐式・参式のいずれかを出そうとしていた。しかしとっさには出せなかった。

 なぜなら破魔ノ太刀ハマノタチを抜く際、とてつもない力を入れなければならなかったからだ。

 まずは抜刀をし、そこから改めて四式を打ち出す。それをこの時は何とかしてやってのけていた。

 

『……どうした? 早く来るがいい』

「……あれ? ジョージくん納刀しないのかな?」

「まさか、主様……」


 そう心配そうな目で見るなラスト。まだ抜刀はできている。


「……くっ」


 暗王は己との格の差を察したのか、何もできずにいる。

 鬼に金棒と言ったわけではないが、刀王に刀を持たせた時点でお前の敗北だ。


『弱者しかいたぶれないとは……王を名乗るには、頂点に立つにはふさわしくない。さっさと消え失せろ』

「だ、黙れ……黙れ黙れ黙れぇッ!!」


 鉄扇を振るい、幾つもの竜巻を俺に向かわせる。だがすべて無駄だ。

 刀を振るい、竜巻を斬り、敵対する者の全てを否定する。


『竜巻は効かない。ならば次はどうする? 他に手はないのか?』

「おのれぇえええええええええッ!! 龍蛇りゅうじゃ陸連迅ろくれんじん!!」


 風は六頭の龍を象り、そして一斉に襲い掛かる。暴風は咆哮のような唸りを響かせ、俺の方へと真っ直ぐに向かう。


『……もういいだろう……抜刀法・四式――』


 ――断鋼たちはがね


「ッ!?」


 ――龍の首を刈り取り、俺は瀕死の一撃を暗王に喰らわせた。



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