物好き
「――でかいな」
城門前にて俺が最初に抱いた感想は、それだけだった。真上を見上げることで初めて見ることが出来る天守閣には、お決まりといった様子で金のしゃちほこが設置されている。
「ここに、貴様等が言っていたところの貴族の資料が隠してあるはずだ」
『どこにある?』
「五階に資料室がある。しかしここから先、捕虜は逆に地下の方へと進まなければ怪しまれるでござる」
『……つまりどうしろと?』
「……我らが監視を潜り抜けて、うまく立ち回れ。後は知らん」
後半投げっぱなしなのだが。
「……本当にこれで大丈夫なのか……?」
『……俺も何となくだが罠に思えて来たぞ』
「し、忍は嘘はつかん!」
何だそれは。
『……まあいいだろう。だがそうなると、ジョニーには残ってもらう事になるな』
「どうしてだ!?」
『……正直に言うと、ここから先PRO(器用さ)が必要になる事が予想できる。あんたは俺のPROについて行けないから、ここからはシロガネに預けるという形で待機してもらう』
「そ、そうか……」
『……という訳で、シロガネよ。こいつの面倒は頼んだ』
「仕方がないでござるなぁ」
そっちだって最後は投げっぱなしなんだ、面倒ぐらい見てもらおう。
「では、参るでござる」
◆ ◆ ◆
『……牢獄を見るとプライドを思い出すな』
いくつも立ち並ぶ地下牢を見て、俺は一人呟く。白骨化した死体につながれた枷に、血で塗りたく垂れた空の牢。見れば見るほどにおぞましさだけを植え付ける牢獄に、俺はプライドの時とは違った気味の悪さを感じる。
「……ここに囚われてもらう」
「まじかよ……」
「…………」
監視官はいるようで、定期的に三人の忍が巡回している。
『……監視官の武器は、忍者刀に手裏剣、そして煙玉か』
煙玉は恐らく脱獄者を足止めさせるガスが入っているのだろう。俺は道中すれ違う監視官の様子を観察し、脱獄のために利用できないかと考える。
「……貴様達が入る牢獄はここだ」
出口よりも遠いが、牢さえ出られれば見通しは悪くない。かといってこちらの姿もすぐに見つけられるが。
「……後はお主が答えを見つけよ。正当性があった場合、我も脱出を手伝おう」
『……互いにばれないようにな』
俺はシロガネと端的に言葉を交わし、ジョニーとともに牢屋の中へと閉じ込められていった。
さて、どうしようか。
「……忍王様! お疲れ様です!」
「うむ。あやつら二人の事だが――」
「件の男については暗王様より指示を受けております故、忍王様はお引き取りを!」
「どういう意味でござるか!?」
ん? 話が怪しくなってきたぞ。
どうやら聞き耳を立てている限りだと、こいつらの王である暗王が直々に俺達に対する支持をだしているようだ。
「刀王については我々《は組》の管轄下に置くという話では無かったでござるか!?」
「それがどうも、暗王様は刀王に興味をもたれになられたようでして……この後謁見したいとの旨をおっしゃっていました」
『……面倒だな』
武装無しで王の前に立たされるなど死と同じ意味。下手すればその場で抹消される可能性すら考えられる。
『あまり好ましい展開では無いな』
「だ、旦那、大丈夫で――」
『王と相対するとなると、現時点で生き延びることはできるだろうが勝つことはできない。これは向こうにとっても予定外だろう』
現にシロガネなどはこの状況に何もできず、ただこちらの方をちらりと見てどうしようもないということを伝えるばかり。
「という訳でございまして、至急刀王を上階へと連れて行こうと思います」
『いいだろう。俺を連れていくがいい』
「なっ――」
ジョニーはたじろいだ様子を見せるが、俺は逆に開きなおっている。
『会ってみようじゃないか。物好きな王様に』




