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復讐劇

「ククククク……ハハハハハハハハッ!! ……どんな気持ちだ? 積み上げてきたものが全部奪われる気分は」


 ほんの数分後の出来事だった。

 駆けつけてきた援軍など全て斬り伏せ、頼みの綱であったのであろうあの訳の分からない深緑のマフラーを身に着けた男も細切れにしてやった。

 あのファランクスとかいうガトリング銃もバラバラに斬ったおかげで使い物にならない。

 辺りにはできたのは深紅の水たまり。そしてその上にへなへなと腰を抜かして座り込む姉一人だけ。


「……どんな気分だと聞いている」

「あは、あははは……まさか弟くんがここまで強かったなんて……あれれ、私の予定とは違うんだけど……?」


 突きつけられた残酷な現実を前に、姉は受け入れることが出来ずに壊れかかっていた。

 完璧が崩れ去る――そんな事などつゆほどにも思っていなかったのだろう。

 さて、こうなるまでの経緯なのだが――



     ◆ ◆ ◆



「――さてさてー、どう蹂躙するつもりなのかなー?」

『……二秒後に開始する』


 これはほんの数分前の話だ。まだ姉が調子に乗って俺をけなし、自分の方が上回っていると思っているところだ。


「そんなに悠長にしていていいのかなー?」


 姉の言葉と同時に、物陰から一斉にあらゆる職種が混じった混合部隊が飛び出す。見なくても分かる。いずれもレベル100を超える猛者共ばかり。そしてそいつらのレーザーサイトが俺の頭部に集中している。だが、二秒後には壊滅することは目に見えている。

 二、一――


『……《大殺界だいさっかい》、起動開始――』


 そういえば以前この技を使った時にベスから言われたのだが、この技を使用している間は俺の瞳の色が蒼に変わるらしい。


「……殲滅を開始する」


 俺は宣言と同時に刀を抜くと、辺りは俺の目の色が変わったことに警戒を強め、改めて俺に銃を構えなおした。

 だがもう遅い――


「……ククッ」

「……?」

「あの男、何故笑う……?」

「――ククク、マジかよお前等……斬られたことに気がつかないのか?」

「なっ――」


 部隊の一人が自分のLPを確認したが、そこにある数字は――


「ぜ、ロ――」


 どさどさと音を立てて倒れる仲間を前にして、姉は少しだけ顔の表情から余裕というものが消え始める。


「おかしいなぁ……お姉ちゃんの目論見だと、ここで弟くんが泣いて許しを請うはずなのにさぁー!」

「残念だったな。雑魚ばかり揃えていた姉さんが悪い」


 俺は籠釣瓶についた血を振るい落とし、切っ先を改めて姉に向ける。


「……今回泣くのは姉さんだな」

「それは……無理だと思うけどぉー!?」


 俺の予想通り、姉は両手に《ファランクス》を装備し、勢いよく構えた。

 独特な回転音うなりごえをあげ、銃口を俺へと向ける。姉は計画が狂い始めていたことに苛立ちを隠せなくなっていた。


「大人しくお姉ちゃんの言うこと聞きなさぁーい!!」


 一分間に一万発の銃弾×2。つまり一分間に二万発の銃弾が俺に向かってくる計算となる。

 だが――


「――えぇっ!?」


 飛んでくる弾丸を目の前で全て弾き飛ばし、相手に圧倒的な絶望を見せつける。

 最も信頼していたのであろう自分の武器を、技を、あっけなく破られる気分はどんな気持ちだろうか。

 ――少なくとも俺は、今まで何度も味わってきた。


「……もう終わりか?」


 とはいえ銃身が熱を持ち過ぎた状態で撃てるはずもない。本来ならガトリングというものは弾丸を撃つ筒の部分を入れ替えることで一つの銃身が熱くならないようにしているものだが、それでもこれだけ長い間撃ち続ければ、オーバーヒートは免れないだろう。


「何で……何で剣が銃に勝ってんの……?」

「これはゲームだ。現実とは違う」


 《血の盟約ブラッドアサイン》を超えた先――特定条件下で発動する真の《辻斬り化》、それが《大殺界》だ。

 常時抜刀状態の上に全ての抜刀法が使えなくなるが、攻撃が常に神滅式かみごろしとなる――つまり剣を振るう動作がゼロ秒となる。

 故に一分間に一万発だろうが百万発だろうが、全て簡単に切り捨てることができる。


「……諦めたらどうだ」


 銃弾を落とすついでに銃身を斬っていた俺は、ガトリング銃が解体される様子を前にそう提案をする。


「……な、なんで……」


 とうとう自慢の武器であったガトリングも破壊され、完璧だった理想像は目の前で崩れ始める。


「…………」

「そ、そうだっ!」


 姉は何を思ったのか、敵前で無防備に無線をかけて助けを呼び始める。


「もしもし!? い、今地下に刀王がいるんだけど!? えぇっ? う、上は上で忙しい……? ちょ、ちょっと待ってよ! 刀王が一人でいるんだから、討ち取るチャンスじゃ――」


 そして俺の目の前で、助けを呼ぶ声は無情に切られる。


「……さて、どうする?」


 頼みの綱が無くなった今、姉に何ができるというのであろうか。


「……こうなったら」

「逃げるとは、姉さんらしくもないな」


 とはいえ、退路を断てば済む話だが。


「――ッ!」


 逃げようとした先の道を、天井ごと切り刻んで封鎖する。


「さて、次はどうする?」


 決して姉自身には手を出さない。だが周りは徹底的に潰しとおす。

 それが俺の復讐だ。


「〜〜ッ!!」


 声にならない悔しさが漏れだす。いい気味だ。


「……誰か、助けて……」


 漏れ出た弱音を聞き流し、俺は一歩一歩と足を進める。


「……どんな気持ちだ?」


 俺は姉に切っ先を向け、敗北を認めさせようとしたが――


「――チッ!」


 不意に飛んできた弾丸よこやりを斬り落とし、俺はその方を向きなおす。


『……誰だあんたは』


 俺の視線の先に、深緑のマフラーを携えた男がいる。両手にはリボルバーが握られており、その風貌からまるで西部のガンマンのように思える。


「……っ! ち、ちょうどよかった! 助けてよ!」


 姉がなりふり構わず助けを求めたが、男は返事を返さずに姉に銃口を向ける。


「え――」


 部屋に一発の銃声が鳴り響く。

 静寂な部屋に、薬莢が落ちる音が響き渡る。

 

「――っ、あれ?」


 銃弾は誰にも命中しなかった。その代わりに地面には真っ二つにされた弾丸がコロコロと落ちている。


「……何故斬る?」


 そいつは貴様にとっての敵だろう――と言葉が続くのであろう。だが――


『――俺の邪魔をするな』

「……いいだろう」


 マフラーの男は俺の言葉の意味を理解したのか、姉に向けていた銃口をそのまま俺へと向ける。


「……貴様を殺してから粛清を始めるとしよう」


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