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天墜

『さっきの【空間歪曲エリアルディストーション】……装填時間リキャストとかあるのか?』

「いえ、特には。ですが先ほどのせいでTPをかなり消費してしまったので、できればしばらくは通常攻撃でしのぎたいものです」

『お前の通常攻撃は魔法弾マジックミサイルか……ホーミング性が高いのはいいが、攻撃力が落ちる、か』


 それでもレベル50代の敵を一撃で葬り去れるほどに強力だが、敵本拠地だけあってそれだけだと心細い。


『……シロさん、どうしますか?』

「そうですね……当初の通りラストさんが攻撃担当にまわった所で、ジョージさんがあれだけの砲弾をさばききれるかというと――」

『出来るにはできるが、ラースほどの巨体を丁寧にカバーできるほどの技は無い。FFフレンドリーファイアがあるこの世界で、俺の技はラースに届いてしまうからな』

「そうですか……ちなみに先ほどの技で砲門はどれほど潰せましたか?」

『十門くらいか』

「パッと見る限りだと砲門は百以上……となると、まだ小破程度といったところでしょうか。せめて中破させてから下に降りたいものですけど……」

『ラースの火炎息ブレスはどうだ?』


 あの時歩兵を一気に消し去ったブレスならば、あるいは――


「ブレスはあの時だけの一発芸みたいなものですし、本国でしかも砲台を扱う要塞の外壁に耐火製が無かったらお笑いだと思いません?」

『……まあ、そうだな』


 出せる手札カードの少なさのあまりに、無理に考え過ぎたか。

 ならばどうする、一度撤退をして再度向かうべきか?


『……なんて、六人がいる状態の俺ならそう考えているか』


 何のためにベスを理由に三人を帰したのか。それは他の人間にこれ以上卑怯な戦術を知られたくなかったからだ。


『……ラスト、このポーションを使え』

「主様……初めて薬をお使いに?」

『ああ。しゃくだがな』


 これは俺の個人的なこだわりだが、戦っている最中に回復薬やTPを回復する薬は使わない主義だ。卑怯だというのもあるが、何より勿体無く感じてしまうタイプだ。

 そんな俺が個人のこだわりを捨てて勝ちに向かうというのだ。


『更にこの薬も使え。INT(知力)を一時的に底上げする。更にこれもだ』

「こんなにたくさん……本気なのですね」

『ああ……俺も飲む』


 瓶のふたを開け、次々と中身を一気に飲み干す。体には様々なバフがかかり、力がみなぎってくる。


『シロさんは……もう飲んでるのか』

「ええはい。ボクはそんなことが卑怯だとは思っていませんから」

『そうですか……じゃあこういうのはどうです』


 俺は籠釣瓶カゴツルベを左手の甲に突き刺し、LPが1になるまで深紅の刀に血を吸わせる。


『……《血の盟約ブラッドアサイン深度死デプスフォース》』

「……諸刃の剣ですか。そしてそれは――」

『《籠釣瓶カゴツルベ》。レアリティレベル120の妖刀だ』

「隠し玉を持っていましたか」

『ああ。できればシロさんにも見せたくはなかった』


 そしてここでこれも使いたくもなかった。破魔ノ太刀ハマノタチの抜刀が難しくなった今、精神汚染がどこまで進んでいくのか。


「…………」


 まあいい。最速で終わらせれば済む話ダ。


『――《辻斬り化》』


 強制的な抜刀。そして血に飢えた人間が次にとる行動は決まっている。


『……クヒャハハ……血だ、血が欲しイ……』

「主様、無理は――」


 俺は無意識に、異を唱えるTMに向かって刃を向けていた。


『……ここカら先は、俺ノ独断場ショータイムだ』

 俺は数歩前に歩き、下に見える要塞に目を向ける。

 そして――

『――《人斬り》ジョージ、惨劇に舞ワせてもラう』

 吸い込まれるかのように、地上へと落ちて行った――



     ◆ ◆ ◆



 ――随分と高度はあったようで、降りていくまでに幾ばくかの砲撃が俺に向かう。

 だがその全てを斬り伏せ、更にさらに落ちていく。


『抜刀法・死式ししき――』


 この技は、高高度から落ちれば落ちるほど威力がます落下技。

 俺は籠釣瓶カゴツルベの切っ先を下に向け、狙いを定める。

 狙うは要塞の頂点、一点のみ。


『堕ちよ――』


 ――天墜てんつい


 ――刃は深く突き刺さり、不沈要塞は音を立てて瓦解を開始した。



《天墜》の補足説明としてこの場合、抜刀法・四式ではなく死式のため単純に高度が高ければ高い程、即死の効果範囲と破壊の伝達範囲が広いと受け取ってください。

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