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敬意を表せ

『――刀王を相手に補正の無い武器を振るう……蛮勇ばんゆうだな』

「クク、そう言わないでくれ」


 口ではそう言ったが、そこらのナイフ使いとは格が違うことくらい俺でも理解できる。

 下手すればキリエを上回れるか……? いやいや、あいつは元々魔法との二足のわらじを履いているから短刀使いとしては上の下くらいといえるか。

 だとすると、今俺の目の前にいるのは上の中か。

 ――はたまた上の上か。


「…………」

「主様、私が支援を――」

『いや、いらない。一対一サシでやらせてくれ』


 久々に興味がわく相手だ。一対一でじっくりと楽しませてもらおう。

 俺は黒刀・《無間ムゲン》の柄に右手を這わせ、相手の出方をうかがう。

 シャドウと名乗る男はひたすらにナイフの切っ先をこちらの顔から逸らすことなく向け続け、威圧感を出しながらもじりじりと距離を詰めてくる。


「…………」

「…………」


 居合の攻撃範囲まで残り十センチ。シャドウは更にじりじりと距離を詰めていく。


「……これ以上詰めると斬られるか」


 よく見切ったと褒めてやりたいが、そこからナイフで攻撃は――


「フッ!」

「うおっ!?」


 手首のスナップだけで放たれたナイフに俺は思わず驚いたが、すぐさま抜刀し飛んでくるナイフを打ち落とす。


「ッ!!」


 ナイフに気を取られている隙を見てシャドウは俺との間合いを一気に詰め、そのまま肉弾戦を仕掛けてきた。


『ナイフが得意じゃなかったのか!?』

「俺は接近戦が得意としか言っていないぞ?」


 確かにナイフに気を取られ過ぎていた。だがここからでも十分にリカバーできる筈。


『ハァッ!』


 鞘からの抜刀ではないため刀を振るスピードが若干落ちる。しかしその差でもって相手はギリギリの所で刀をかわし、こちらに打撃を打ち込もうと拳を突き出してくる。


「フッ! ハァッ!」

『クソッ! 面倒な奴だ!!』


 今度は避けられないようできる限り拳をひきつけて伸びた腕を切り落とそうとしたが、敵は対斬撃用に装備をそろえていたようで、防刃手袋でこちらの刀を両手で白刃取りしてきた。


『……中々やるな』

「伊達に接近戦が得意としちゃいないからな」


 確かに普通なら斬られることを警戒し接近するのに億劫おっくうになるが、この男は違う。

 自分から距離を詰め、ギリギリの戦いを楽しんでいる。


『ククク……敵じゃなければうちに来ないかとスカウトしているところだ』

「それは光栄だ」


 白刃取りされた刀を横にそらし、シャドウは俺に再度接近戦を挑んでくる。


「ハァッ!」


 攻撃を刀でしのいでいく中、不意にシャドウは腰元のホルスターから拳銃を抜き取る。


『無駄だ!!』


 突然の銃撃に俺は刀で銃弾を切り伏せたが、それを読んでいたかのようにシャドウは見事な角度でボディーブローを打ち抜こうと右手を振るう。

 重い打撃が向かってくる――そう思った俺はとっさに刀を捨て、流派の教えを実行した。


「《四鬼噛流しきがみりゅう》・うつろの構え。そして――」


 敵の打撃をすらりと避け、相手の腹部に回し蹴りをくらわす。


「《四鬼噛流しきがみりゅう》・すなわちの構え」


 攻撃したかと思えば即座に空ろのようにフラフラと舞う。四鬼噛流・即ちの構えとは四鬼噛流・空ろの構えから繰り出される一瞬の攻撃。そしてまた何もなかったかのように空ろの構えへと戻る攻防一体の構え。

 仕掛けた自分が逆に打撃を受けという謎の現象を前に、シャドウはたじろぎながらも後ろへと後ずさる。


『……どうした? 次はないのか?』

「まさか……お前さん、《四鬼噛流派》か?」


 このマニアックな流派を知っているとは意外だな。


『一発で当てるとは、流石と褒めるべきか』


 だが流派を知っているということは対抗策を持っているのか? ――と思っていたが、シャドウは相手の流派を理解するなりその場に膝をついて頭を垂れた。


「……俺の負けだ」

『……何故だ』

「四鬼噛流は俺が元々目指していた究極の防衛術を持つ流派…………門前払いを喰らった俺が、その流派に勝つなど無理だ」


 なるほど、知っているからこそ勝てないと理解できたわけか。

 俺は構えを解くと、特に刀も構えず静かにシャドウの元へと歩み寄る。


「……俺を斬るがいい」


 無防備に頭を垂れた男を叩き斬るなど、たやすいことだろう。だが――


「…………」

「……ッ!? 何故手を差し伸べる!?」

『……それはあんたが、ここで死ぬには惜しい男だからだ』


 少なくともあの状況で少しばかり俺を追い詰めることができていた。その実力だけは認めるしかない。


「俺をどうするつもりだ?」

『あんたを捕虜として本国に送る。どっちにしろキャストラインはもうすぐ終わる。あんたは新たにうちの兵士として雇わせてもらおう』

「……そうか、分かった」


 意外にもこの男は聞き分けが良いようだ。他のキャストラインの奴等とは違って祖国だのなんだのという様子はない。


『……意外と素直だなあんた』

「負け犬は、勝者に従うのみ」

『……そうか』


 俺は念の為ラストに頼んでシャドウの両手を捕縛の魔法陣で封じてもらい、首都の方へと転送してもらう事にした。


『向こうについたら、「刀王に現地徴用された」とでも言ってくれ。そうすれば少しは待遇が良くなる』

「……感謝する」


 歴戦の兵士が転送されていく中、俺は黙って男の前に立って敬意を表した。



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