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六対十万 ―殲滅戦―

今回は最初から三人称視点となります。


「――皆さん定刻通りおそろいのようで」


 ギルド《殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション》の長である#FFFFF――仲間内からはシロと呼ばれる人物が、集まったメンバー五人に声をかける。シロはその呼び名の通り、全身を純白の騎士装備で包んでいる。


「ジョージさんも――」

『今回は遅れずに済んだよ』


 黒のフードを目深にかぶり、腰元には二振りの刀を挿げる青年、ジョージ。壁にもたれかかり、腕を組みながら一人皮肉を言う。

 今回戦場となる場所はシュタイス山の近くのコルタ砂漠。ジョージたちがいるシュタイス観測所からは、地平線まで広がる砂地を拝むことができた。


「……夜明け、か」


 神妙な表情を浮かべながら、グスタフは徐々に明ける地平線を眺める。暗い青だった砂漠が、徐々に徐々に本来の色へと戻っていく。


「今回は手加減はいらないのよねぇ?」

『手加減すれば挽き潰されるのは俺達だぞ?』

「あらそう?」


 神槍しんそう・《ゲイボルグ》――神器の名を冠するにふさわしい槍に舌を這わせ、ニコリと笑う少女、ベス。今回の獲物が多いことに、興奮を隠せずにいた。

 此度こたびの敵は、キャストラインとマシンバラで構成された混合の大軍勢。

 予想される敵対数はおよそ十万。対するジョージたち殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーションのメンバーは六人。

 十万対六。普通に考えれば、蹂躙されるのは六人の方だろう。

 その場にいるTMを合わせたとしてもせいぜい十数名。十万に比べれば誤差のようなものだ。

 だがTMの存在を、そして彼らの実力を誤差と考えるかはまた別の問題になるだろう。


「……来るみたいね」

『蜃気楼じゃないよな?』

「どっちにしろ来ているに違いないでしょ?」


 敵の姿を確認するなり、ゴスロリ姿の少女であるキリエは魔法陣を展開し始める。


「【大地防衛壁グランドウォール超弩級オメガ)】!!」


 観測所を拠点とすべく、土で観測所を覆い隠すことで外部から視認しづらくさせる。更に超弩級オメガクラスで唱えたことで通常の魔法以上に拠点のDEF(防御力)が上昇しているため、見つかったとしても早々に陥落はしないだろう。

 だがキリエという魔法剣士マジックナイトはそれだけで満足はしない。


「――【四顛守護方陣フォースフィールド召喚サモン・ガーゴイル】!!」


 今回はレベル80代のガーゴイルを四体揃え、更に守備を盤石なものへと変えていく。

 キリエは満足そうに詠唱を終えたが、ジョージは不思議そうに首を傾げている。


『あれ? 今回詠唱はいいのか?』

「は、ハァッ!? あんた何を言ってんのかしらぁ!?」


 ジョージからツッコミを受けたキリエは顔を真っ赤にしながら、まるで詠唱など最初からなかったかのような反応を示し始める。


『でも前回なんか言っていたよな? 確か――』

「あーあーあー! それはもうレベルが上がったから詠唱破棄できるの!」

『そうなのか……』


 キリエは何とかしてジョージを納得できたようだが、このゲーム内における魔法を知識としてかじっていたシロは、生暖かい微笑みを向けるだけだった。


「……まさかキリエさんが中二病だったとは……」


 誰にも聞こえない様に呟きながら、シロはキリエも確認したという敵の軍勢を改めて視認し確認する。


「……ふむ、シンプルに横陣おうじんできましたか」


 各部隊を横一列に並べ、進軍する陣形。平野で進むときの基本ともいえる陣形。恐らく相手方はベヨシュタット側もそれなりの大軍勢で来るのだと思っているのだろう。

 だが現実は違う。たった六人でこの軍勢を殲滅しようとしているのだから。


『どうする? 奇襲するか?』

「奇襲ならベスさん一人でいいでしょう。ボクとジョージさん、そしてグスタフさんで敵陣へと突っ込みます。イスカさんは全体の戦況を見て適宜てきぎ討ち漏らしを抹消してください」

「了解しました」


 右手にレイピア、左手に銃剣バヨネットを持つ少女、イスカは冷静に返事を返す。既に戦うための精神統一に入っている様だ。


「……ならばそろそろ、開戦と行きますか。最初は《ラース》を投入するので一拍置いての進軍を開始しましょう」


 敵は既にキリエの魔法陣を見てピリピリとした空気を纏っている。そしてその空気はそのまま観測所内へと届いている。

 一触即発。既に導火線には火がついている。

 そんな中ジョージは静かに腰元の刀を抜き、右手に黒刀を携える。

 そして静かにこう呟いた。


『…………これより、殲滅を開始する』



     ◆ ◆ ◆



「――止まれ!!」


 十キロ手前、進軍が突如停止する。停止した軍隊は皆精鋭というべきか、レベルがいずれも80代を平均としているプレイヤーやNPCばかりをそろえている。

 もちろん手にしている火器はいずれも現在生産できるものの中の最新装備。普通に考えてこれだけ揃えられれば、首都すら落とせるのではないかと思える兵士もいるほどである。

 そんな中、大将格と思われる深緑のマフラーを身に着けた男が、大軍隊に激を飛ばす。


「今回、我々キャストライン及びマシンバラの軍勢は、憎きベヨシュタットの軍勢と対峙する!! 敵を討ち倒し、我が軍に勝利を!!」

「勝利を!!」


 地鳴りに近い勝利の響きが、辺りに広がる。血気盛んな兵士の声が、それぞれの士気を上げていく。


「突撃ぃー!!!」

「うおおおおぉぉぉぉぉぉおおおお――――!!」


 そして一斉に進軍を開始。

 だが――


「――っ、な、なんだあれは!?」


 一部の兵士は気がついた。敵陣の山が変だ、と。

 更に一部の兵士は気がついた。 山は動いている、と。

 更にさらにごく一部の兵士は気がついた。動いているのは山ではなく、巨大なドラゴンだと――


「――ブレスが来るぞぉぉおおお!!」


 一人の兵士が声をあげたが遅かった。何故なら既に、爆炎は間近に迫っていたからだ。


「うわぁあああ―――」


 悲鳴をあげるまでもなく、軍勢の一部は消し飛んだ。ドラゴンにとっては、鼻息に近いものだった。


「敵TM発見せり!! 分類はドラゴン! そして…………馬鹿な!? ……訂正!! 分類は七つの大罪セブンス・シン!! 《ラース》が現れました!!」


 巨大な山に座していたのは憤怒を司る王。

 そしてこのゲームで最も強い種族とされるドラゴンの王――その名も《ラース》。


「ゴギャガガガ!! 我ニ戦イヲ挑ムトハ…………愚カ者共ガァッ!!!!」


 憤怒の咆哮が大地を揺らし、突風が巻き起こる。ラースの咆哮と先ほどの軍隊の掛け声を比べるとすれば、ライオンの咆哮に対してネズミの啼く声とでもいうべきだろうか。それほどにまでに人間の出す声など霞み、王の吼える声が響き渡る。


「“対ドラゴン用部隊!! 第二十一部隊、三十二部隊行け!! 他の者も手が空いているなら狙撃をしろ!! 1でも多くあのドラゴンにダメージを与えるのだ!!”」


 指揮官の指令により皆の注目はラースへと集められるが、それは愚策としか言いようが無かった。


覇裏仙流はりせんりゅう奥義!! 砕牙竜塵戟さいがりゅうじんげき!!」


 謎の掛け声とともに、大地が真っ二つに割れる。もちろん、地を割る衝撃波にあたったものなどひとたまりもなく抹消されてゆく。

 これで敵陣は物理的に二つに分けられた。

 そして――


「“敵兵発見! ひ、一人――ぐわあああぁああ!!”」

「“どうした!?”」

『抜刀法・三式――絶空乱舞刃ぜっくうらんぶじん!!』


 大軍の中から突如、死を纏った斬撃が飛び散る。上から見れば丁度円形上に攻撃範囲は広がり、軍勢に大きな穴を空ける。


「た、“大変です!! 刀王が現れました!!”」

「“刀王だと!? ラースに続いて刀王だと!? ならば先に刀王を片付けよ!! ラースはその後でも――”」

「主様に手出しはさせません」


 無線越しに指示を出していた指揮官の目の前に、突如魔性の幻魔が現れる。


「……ば、バカな……ラストまで――」

わたくしの名前を着やすく呼ばないでもらえるかしら」


 ――次の瞬間に指揮官は、取るに足らぬ灰へと姿を変えていた。



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