スロウス
『……結局あまり食えていない気がする』
ラストが頼んだ料理はゲテモノ過ぎて食えたものじゃなかったし。結局俺は中途半端にさるそばを食い、パンとシチュー、そしてベスが頼んだパスタらしきものを貰っただけとなり、腹はあまり膨らまなかった。
『……おっと』
皆の食事も終わりかけといったところで、今度はシロから連絡がかかる。
『シロさん遅かったですね。皆ほぼ食べ終わった所ですよ』
「“それは丁度良かった。食事を終えたら皆さんを連れて一度城へと戻って来て下さい”」
『食事はいいんですか?』
「“それどころじゃなくなりましたからね。いち早く皆さんにお伝えしておきたいことがありまして”」
シロさんがそういうってことはほぼ百パーセント大規模戦の話になるのだろう。
『……具体的には?』
「“……簡単に言いますと、明朝に我々六人だけでキャストラインの主力部隊を完膚なきまでに潰すお話です”」
『……マジですか』
「“おお真面目です”」
ああ、なんというか、向こう側で満面の笑みでニッコリとしているシロさんの姿が目に浮かぶ。
『……じゃあ、食事が終わり次第すぐに』
「“ええ、お待ちしております”」
連絡を終えると、取りあえず今の会話の内容を皆に伝える。
『……とりあえず、夕食食べ終わったら城に来いってシロさんが――』
「ぶっ! 何それギャグ?」
『本人に言っておいてやろうかキリエ?』
「なっ! それはナシでしょ!?」
真面目な話だってのに。
『……とにかく、城の円卓に集まれとのことだ』
「それって、ギルドの話ですか?」
『正しくは、大規模戦の話だそうだ』
ベスは大規模戦と耳にしたとたん、妖しげな笑みを浮かべる。
「あらぁ、素晴らしいお話ねぇ」
『とにかく、飯を食い終わってからでいい。それからだ』
「あ、そういえばジョージ、円卓についてから外のお話をしておかないとねぇ」
あ、そういえば忘れていた。
外で感じた殺気について、皆に情報を共有しておかねば。
万が一俺達がいないところでベヨシュタットに何かあってもいけないし。
『そうだな。それも向こうで話すとしよう』
◆ ◆ ◆
「皆さん集まったようで何より」
『シロさん夕食は食べたんですか?』
「後で食べますよ。本当ならボクも一緒に夕食を頂きたかったのですけど」
少し残念そうな顔をしながらも、シロは改めて円卓の席に着く。
「――では皆さん、改めて此度は剣王から勅命を受けて発足された大規模戦についてお話を」
『大規模戦といっても、俺達六人だけだろ?』
「ですがまあ、剣王からの話によりますとベルゴール方面の地方全てを賭けての戦いになるそうですから、大規模と言っても過言ではないでしょう」
うーむ、グランデカジノの時もそうだったが敵はどうもベルゴールに妙な執着心があるように思える。
『だがなんでまたベルゴールだ? 大規模戦で狙う地方ならゴドルナ鉱山やテクナッチ領を狙うのが当たり前だと思うが』
ゴドルナ鉱山は鉱物資源が豊富な地、そしてテクナッチ領はベルゴール以上に交易が望める土地、いずれもベルゴール以上に価値がある地域だ。だが敵はベルゴールにいように執着しているようだ。
「それについては、以前ボクとグスタフさんがベルゴールを復興させている際に見つけたあるものを取り返しに来ているのが予測できます」
あるもの?
「それがし達が復興の指揮を執っている時、市民の一人が偶然見つけたのだ」
ベルゴール市民が見つけたとある家の残骸の下に隠された隠し扉。階段を下へ下へと下っていくと、明らかにこの街には似合わない機械が並んでいる。おぞましい空気の中、先へと進むと――
「――近代兵器満載の巨大ゴーレムがいた、ということですよ」
「…………」
またゴーレムかよ! キャストラインの奴らゴーレム好きだな!
『ハァ、なんだよゴーレムか』
「いいえ、ただのゴーレムではありません」
俺の反応を見てまるで期待通りの反応をしてくれたと言わんばかりに、シロはにっこりとしている。
「――そのゴーレムこそあの《スロウス》だった、と言えば分かりますよね?」
『《スロウス》……まさか』
俺は席を立って部屋を出て、入り口の外に待機しているラストを引き連れ、再び円卓のある部屋へと戻る。
「あ、主様!? 一体何用で――」
『《スロウス》という名前に聞き覚えがあるか?』
この名前を冠するということは、確実にそういうことだろう。俺は半分答えが分かりきっている問いを、あえてラストに問いかける。
ラストはその名を聞くなり厳しい表情となり、重々しい言葉で答えを返す。
「――《七つの大罪》に、その名を冠するゴーレムがいます」
『……当たり、か』
まさかまた《七つの大罪》にあたるとは。それにしてもこの前の《プライド》といい、相手は二体の七つの大罪を保有していたということか。
「……ジョージさんのおかげで、皆さんも状況がつかめたかと思います」
シロは予定調和といった様子で話を戻すと、改めてことの重要性と優先性について話を続ける。
「ボク達が動かそうにも起動法は不明、かといって破壊しようとしたところで誤作動でも起こされたらたまりません。このままベルゴールを我々の手中に収めるという形で、スロウスを封印したいと思っています」
『だが敵はそれを許さないということか』
「そういうことです。ですから敵も焦って大規模戦を申し込んできたのでしょうね」
プライドを倒しただけで一万の軍勢を送り込んできた。敵国としては二体目を失わないためにも、今度はより強力で強大な軍勢を送り込むつもりなのだろう。
「以前のキリエさんからの報告からすると、プライドの運用はかなり下手なものだったと思います。だからこそ残ったスロウスだけでも手元の切り札として回収しておきたいのでしょう……ですが、我々がそれをみすみすさせるワケではないでしょう、ねぇ……?」
その場の全員は黙っているが、考えは皆同一のものとなっている。
「敵がいくら精鋭を送り込もうが構いません。我々《殲滅し引き裂く剱》が、歓迎の意を込めて殲滅せしめて差し上げようではないですか」
ギルドの円卓の下、全ての意志が統一される。
「……明朝、ベルゴールより更に西にある山沿いに設置されたシュタイス観測所を拠点として行動を開始します。集合は現地に夜明け前、それぞれの最高戦力を投入する覚悟をしてください。何せ今回のクエストランクはSSと位置付けられているので」
ならば籠釣瓶を――おっと、ラストよそんなに睨むな、使わないから。
『……分かっているって』
「……ならばよいのですが」
「フン、この前みたいにあんたは前線に出過ぎて攻撃を喰らい過ぎないようにねっ!」
『分かっているっての』
以前の戦いで俺が倒れた後、キリエは心配すると共に突然倒れた事に不思議がっていたようだが、そこはラストがなんとか誤魔化してくれていたようだ。
「確かに、ジョージさんは抹消寸前まで行きかけたそうですから気を付けて下さいね」
だから籠釣瓶さえ使わなければ普通に死なねえっての。
『……気を付けておこう』
だがここで意地張って籠釣瓶をこいつ等に教えたくもないし、ここは黙っておくとしよう。
それよりだ。
『とりあえず、大規模戦についての話は終わりか。じゃあついさっき起きた気になる点について皆に報告しておきたい』
「それってもしかして、最近首都で暗躍している面々についてですか?」
シロさん把握していたのかよ。
「暗躍、とはどういうことか?」
「……最近、同じ青の袖でありながら反乱を起こそうという輩がいるようで」
「なんと! それは不義理な輩が!」
グスタフさん落ち着いて。あんたのSTR(筋力)で円卓を叩いちゃうと、壊れる可能性があるから。
「ですから一応我々がいない間に魔剣同好会と鋼鉄の騎士団、そしてソードリンクスの中でも特に信用できる方々に城の護衛を頼んであります」
他のギルドの精鋭を既に呼び集めているということか。
「……ならば、よかろう。それがしからはヴェイルという男を推薦しておく」
「その方なら既に声をかけていますよ」
確かに殲滅し引き裂く剱がいない今、反乱を起こす絶好のチャンスとなりえるだろう。だがそこはシロさんの方が一つ上手だ。
「ということでボク自身も手早く戻るために、此度の戦に《ラース》を投入するつもりです」
『……エッ』
「それって本気なのぉ? つまんないわぁ」
殲滅し引き裂く剱に加えて《ラース》も投入するとか戦いにならないんだが……。
「皆さん、異論はありませんね?」
一同黙ったまま。というよりあれを投入するとほぼ試合終了に近いワケなのだが。
「……では夜明け前、シュタイス観測所にて待機でお願いしますね」
NEXT QUEST ――大規模殲滅戦「Overkilling」――




