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「で、これで全員?」

『いいや、後はここにイスカが来るはずだが』


 呼出しの後、最初に集合場所に到着したのはキリエだった。いつも通りのゴスロリ服だが、食事の妨げにならないのか?

 そんな風に思いながら、俺はふとこの街の空を見やった。

 すると――


『……来たか』


 小型飛行種――ワイバーンが広場に降り立つ。辺りの市民がどよめく中、イスカは申し訳なさそうに竜から降りてくる。


「遅れてごめんなさい!」

『それよりこんなところにワイバーンを着陸させるなよ……』

「そうです、ね……」

「ふんっ、やっぱりあんたはどこか抜けているわね」

「キリエさん、そんな言い方は無いでしょう」


 おいおい、ここまで来てギスギスするのは止めろよ。ったく、キリエは口が悪いからなぁ……。


「それより、後のお二人は?」

『ベスは今剣王に報告しているところでもう少し時間がかかる。シロさんは遅れるみたいで、先に行っておいてほしいとのことだ』

「そうですか……じゃあ、先に行きます?」

『そうだな。イスカの言う通り先に行こう』

「では、それがしが案内しよう」


 イスカの提案に乗る形で、俺達四人は先に目的地となるレストランへと向かう事にした。

 日も暮れて、街の明かりが暗闇を照らす。外を出歩く人々も昼間と比べると少なく、閑散としている。

 グスタフが向かっているのは中央広間から少し外れたところ、少しばかり裏路地に入りかかっているところにある隠れ家的なレストランだそうだ。


「中に入って色々と頼むといい! それがしのおススメは鳥を一羽丸焼きにした料理だ!」

「ハァ? それって食べる時に手を汚しそうでイヤだわ」

「切って分ければいいだけではないか?」


 キリエとグスタフが会話を続ける間、暇だった俺はラストとイスカに食事について話しを振る。


『そういえば、お前は普段何を食っているんだ?』

わたくしなら、主様と一緒のものを頂いております」

『そりゃ分かっているっての』

「私は……うーん、あんまり重たいものは食べないですね」

『脂っこいものは嫌いということか?』

「そうですね。あまり脂っこいとお腹の調子が……」

『その気持ち、分からなくもないな……』


 ラストが家で作る夕食は妙に精がつきそうなものが多くて胃がもたれる時がある。まあ普段から戦っているからというのもあるのだろうが、別の意図がありそうで怖い。


『っと、そうこう言っている内に着いたんじゃないのか?』

「うむ。ここだ」


 木の看板には「OPEN」と記され、戸から漏れ出る光が辺りを照らしている。


「では、入るとするか」


 グスタフの体格からすると随分と小さな扉が、ゆっくりと開かれる。既に店は開いていた様で、グスタフの身体の隙間から先客がちらほらと見える。


「席は空いているか?」

「いらっしゃい――あっ! グスタフさん!」

「久しぶりだな。今日はギルドの友を連れてきたぞ」


 そして俺達が入るなり、レストランの空気が変わる。


「おいおい、もしかして殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーションのメンバーじゃないか?」

「マジかよ!? 俺本物を見るのは初めてだ!」


 俺達に対する様々な感想や噂話が飛び交う。それを無視して俺達は店の奥の方にある大きなテーブルへと案内される。


「後から二人来るから、その時はよろしく頼む」

「はい! 分かりました!」


 随分と元気な看板娘(?)だなあ。


『で、メニューは?』

「前の方に掲げてある」


 壁に掲げてあるメニュー表を見ながら、俺は何を頼もうかと顎に手を槍ながら考える。

 それにしても明るい雰囲気が漂ういい店だ。唯一気になるのはガラの悪そうな客がちらほらと見えるくらいか。

 まあ、それも流石に殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーションを相手に喧嘩を売れる訳がないか。


『さて、何にしようか……』

「うーん……」

『どうしたんだキリエ?』

「私、普段外食しないから何を頼もうか迷っちゃってさー」

「私も、普段は家で自炊しているので」

「えっ、あんた自分で料理作っているの?」

「キリエさん、料理しないのですか?」

「私はいつも下僕共にやらせているから」


 下僕って何だよとツッコミをいれたい。


『……ミノステーキってもしかしてミノタウロスのステーキってことか?』

「恐らくそうではないのでしょうか」


 ラストがニコリと笑みをこちらに向けながら、話に入ってくる。


『ラストはもう決まったのか?』

「はい♪ 気になるものが御座いましたので」


 早いな……俺もそろそろ決めなければ。


『……よし、決めた』

「む、ジョージ殿は決められたのか?」

『ああ。和食らしきものを見つけたからな』


 《ざるそば》ならぬ《さるそば》って所が俺に一抹の不安を抱かせているが。


「私はシチューとパンを頂きますね」

「いいわねそれ。私もそれにするわ」

「イスカ殿とキリエ殿は店特製のシチューと自家製パンだな。ではそれがしは、ミノステーキを注文しよう」


 グスタフが注文をしている間、俺に連絡コンタクトがはいる。


『……ベスか。今どこにいる』

「“中央広場よぉ。ジョージたちの姿が見えないのだけれど”」

『すまん、先にレストランに行っている。場所が分からないなら迎えに行くが――』

「“あらぁ、そこまでしなくていいわぁ。行き方さえ教えてくれればいいから”」

『そうか。そこから西の方の大通りを歩いてすぐ、裏通りにあるレストランだ。俺が表に立っているから見つけてくれ』

「“りょうかーい”」

『という訳で、俺はベスを迎えに行ってくる』

「ベスさん来るんですか?」


 イスカがきょとんとした表情でベスの名を出すと、レストラン内に妙な緊張感が生まれる。


「えっ、ちょっと待て。ベスが来るのか……?」

「俺まだ死にたくねぇよ……」


 どんだけ悪名高いんだよアイツ……ヤベェな。


『……食事中の皆に話しがある。我々殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーションは今回客として店に来ているだけだ。危害を加える気などないと宣言しておく』

「そうか……? 刀王が言うなら……」

「大丈夫なのか……?」


 外向けに喋るのってすっげー疲れる……もうちょっとフランクに話がしたい。


「ジョージ殿、すまない」

『いいんだ。もとはといえば俺が提案した話だ』


 グスタフと言葉を交わしながら、俺は店の外に出る。


『――ふぃー。ちょっと寒いか?』


 厨房で火を扱っているからか、レストラン内はほんの少し温度が高い。そこから外に出れば寒気を感じるのは当たり前なのか……?


『もうすぐ季節が変わるとはいえ、まだまだ寒さは残っている、か』


 そんな俺のすぐ後ろ、屋根の上から悪寒を感じる。


『――ッ!』


 とっさに腰元の刀を構えて後ろを振り向くが、そこには誰もいない。


『……気のせい、か?』


 いや、確かに殺気を感じた。


「あらあら、お出迎えありがとうねぇ」


 そんなオレの背中をツンとつついたのは、妖しげな笑みを浮かべたベスだった。


『場所は分かったか?』

「ええ、一発で分かったわぁ。何せ――」


 ――貴方が何者かに殺意を飛ばしたのを感じることが出来たもの。



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