つかの間の休息
鋼鉄の騎士団訓練所での講義も終え、夕暮れ時ということもあって腹の虫が鳴り始める。
『……そういえばここ最近まともに飯も食えていなかったような』
ブラックアートとの協定の話から対七つの大罪のプライド戦。そして極めつけにキャストラインとマシンバラの混合軍一万を相手に大立ち回り。その間食事をゆっくりととる時間などあるはずもなく、むしろ食事を削って立ち回っていた気がする。
そんな俺の呟きを耳にしたラストは、にこやかな様子で俺にある提案をし始める。
「主様、それならば――」
「それならば、それがしがガッツリと食べられるいい食事処を知っているぞ」
「ッ……筋肉ダルマ風情が、主様は今お疲れになられており、家でゆっくり食事をとりたいということが察せないのか――」
『ラスト! 勝手に人の考えを代弁するなよ! すいませんグスタフさん』
「いやいや、構わんよ! それがしの考えが至らなかったばかりに――」
『どっちにしろ家には今まともな食材もストックされてないから、よければその場所に連れて行ってもらえますか?』
「そうか? よし、ならば向かうとするか!」
『その前に、どうせなら他のギルドメンバーも誘って行きません?』
流石にシロさんやキリエ、イスカもこの時間帯なら首都圏近くにいるだろう。
それにベスも話を聞く限りそこまで遠出をしていないはずだから、久々に《殲滅し引き裂く剱》で集まって食事ができる気がする。
『じゃあ俺はベスとシロさんに連絡を取るので、グスタフさんはイスカとキリエを呼んで下さい』
「ギルドでは若輩者のそれがしが呼んで来てくれるだろうか?」
『その時は《殲滅し引き裂く剱》の全員を集めると言ってくれれば』
「よし、分かった」
グスタフは了解すると早速ステータスボードを呼び出し、一覧の中から《連絡》を選択。もちろん相手はイスカとキリエだ。
連絡は音響石と違って盗聴される可能性があるものだが、別に重要案件でもない上首都内でそのような事をする者などいないだろう。
「……もしもし? キリエ殿であるか?」
「“……ハァ、何よ?”」
明らかに不機嫌そうなキリエの声が微妙に漏れ聞こえる。グスタフはその様子に少し焦ったが、ここは呼び出すためとキッチリ連絡を取りにかかる。
「今晩、食事でも一緒にどうかと――」
「“あんたと食事? ハァ? 寝言は寝て言いなさいよ”」
断り方がひでぇ。
「…………《殲滅し引き裂く剱》の全員を呼び寄せての食事会なのだが」
その言葉を聞くなり、連絡の向こう側にいるキリエが焦った様子で聞きなおし始める。
「“えっ!? ちょ、ちょっと待ちなさいよ! それってジョージとかその辺も来るワケ!?”」
来るワケ!? っていうより今グスタフさんの隣にいます。
「あ、ああ。現にそれがしの近くにジョージ殿が既に到着してい――」
「“早く言いなさいよバカ! 私もすぐに行くから、その場から離れないで頂戴!”」
「っ……切れたんだが」
『……ま、まあ来てくれるみたいだしいいんじゃないか……?』
気を取り直して、イスカの方に連絡を取ってみる。
「……もしもし。イスカ殿であるか?」
「“はい……あれ? グスタフさんですか?”」
「そうだ。それがしだ」
「“グスタフさんから連絡なんて珍しいですね。どうかしたのですか?”」
よし、こっちはまだまともな会話だ。
「実は今夜食事でもどうかと……」
「“夕食……ですか? すいませんけど私、別の用事があって――”」
「《殲滅し引き裂く剱》での食事会なのだが……」
「“えっ! ギルドでってことですか!? ってことは、今全員に声掛けをしているってことですか?”」
「ああ。現にそれがしの隣にはジョージ殿がいるが、別の用事があるなら――」
「“よ、用事は大丈夫です! 別の日にまわします! どこに行けば――”」
よし。イスカの方も話はつきそうだし、俺は俺で連絡を行おう。
『まずはここから遠いベスの方から連絡を取ってみるか』
連絡欄からベスを選択すると、俺は早速呼び出しにかかる。
『……そういえばあいつ気づくのか?』
ベスは時々目の前のことだけに集中してこういった連絡に気づかない時があるからなー、っと思っていたらつながった。
「“あらぁ、ジョージじゃないの?”」
『ベスか。今どこにいる?』
「“とりあえず仕事も終わって首都に帰還しているところよぉ。いっぱいいっぱい殺せて満足だわぁ”」
最後の部分の報告はいらないのだが。
『……実は今夜食事でもどうかと思ってな』
「“し、食事……?”」
ん? もしかして忙しいのか?
『用事があるならそっちを優先してもらって――』
「“別に大丈夫よぉ、後は剣王に報告するだけだからぁ。それより、その食事ってもしかして私とジョージだけ?”」
『いや、違う。久々にギルドメンバーで集まって食事でもできないかということだ』
「“……そうなの”」
『声のトーンが落ちたがどうかしたのか?』
「“っ! な、なんでもないわぁ! それより何処に行けばいいのかしらぁ?”」
『俺達は今中央広場にいる。お前がどれだけ時間がかかるかは分からないが、もしかかるのなら先に俺達だけでもレストランに行って、場所を改めてお前に伝える』
「“分かったわぁ。じゃあ、後でねぇー”」
『……よし。これでオッケー』
最後は――
『シロさん、出てくれるだろうけど来てくれるのかねぇ』
俺は最後に連絡欄にある#FFFFFを選択し、連絡を取り始めた。
『……あ、シロさん。今暇ですか?』
「“ボクですか? 今は……一応暇ということにしておきましょうか”」
暇ということにしておくってどういうことなの……。
『実は《殲滅し引き裂く剱》の皆で夕食でも食べないかとグスタフさんが考えていて』
「“食事会ですか? ふむ……食事でのバフ効果は重要視している私にとって、下手な食事はとれないのですけど……”」
ここまできて効率重視かよ。めんどくさいなあ。
『そういえばグスタフさん、シロさんから質問だそうですが』
「ウム、なんであろうか?」
『明日に向けてDURを高めるバフがかかる食事はあるかと訊いていますけど』
「それなら、あそこは何でもあるぞ! もちろんバフがかかる食事も当たり前にある!」
『なるほど……あるみたいですよシロさん』
「“そうですか、分かりました。僕はもう少しだけ狩りをしておきたいので、先に言っておいて下さい。後で場所さえ教えてくれれば向かいます”」
『分かりました。じゃあ後でもう一度連絡してください』
そう言ってシロさんとの連絡は終了。はぁ、このゲームに入ってから長い付き合いだからこそ、正直一番疲れる相手だ。
『じゃあ、俺達はしばらくここで待機と』
「うむ、そういう事になるな」
「主様……」
ここで今まで黙っていたラストがおずおずと俺に話しかけてくる。
『どうした?』
「私めはどうすれば……」
『ん? お前もついて来るんじゃないのか?』
「来てよろしかったのですか?」
確かにギルドメンバーじゃないが――
『俺のTMだからいいだろ』
当たり前のことを聞くなよ。
「ありがとうございます!」
ったく、面倒なTMだ。だがそこがいいのかもしれないが。




