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(自称)岩窟王、グスタフ

『俺は木刀、グスタフさんは木の斧でいいか』

「ああ、そうしよう」


 俺達は訓練生と同じ条件になるように、木を削った模造品の武器を手に取る。


『ラストは半径十メートルの円柱型の【超防衛壁ハイディフェンスフィールド】を張ってくれ』

「仰せのままに」


 円柱型の防護壁が、中庭中央に設置される。こうして簡易的だが、中庭に決闘場が完成した。


『どうする? どこまでやるか』

「ふむ、ジョージ殿も病み上がりであるからして、ここはさっきと同じ一撃を加えた方の勝ちとしようではないか」

『本当にそれでいいのか? それだったら圧倒的に俺の方が有利なんだが』

「ガハハハ! 後輩の前でいい所ぐらい見せたいのだがな!」


 単純な相性の話で言うと、つば競り合いや刃を交えるとなると刀の方は不利になる。だがまともに刃を交えずにテクニカルに戦うとなると、振りが遅い斧の方が今度は圧倒的に不利になる。

 一撃の重さは言わずもがな、斧の方が重たい――まあ俺には即死技があるから関係ないが。対して刀は手数の多さと振りの速さが長所であり、このように一撃で決着となると明らかにこっちが有利だ。


『まあ、俺もハンデとは言わないが木刀だと常に抜刀状態だから抜刀法の壱式・弐式・参式が使えないもんな』

「……ふむ、だったらそれがしも何か技を封じて――」


 そんな余裕そうなグスタフの喉元に、俺は《縮地しゅくち》という特殊な技で一気に距離を詰め、刀の切っ先をつきつける。


『なーに、俺には抜刀法が無くてもまだまだあんたを倒せる技はいっぱい持っている……グスタフさん、本気で来て下さいよ』

「……ガッハハハ! 面白い!!」


 グスタフの豪快な撫で斬りをかわし、俺はまた元の定位置へと戻る。


「ヴェイルよ、早く試合開始の合図をせんか!」


 ヴェイルは今の一瞬のやり取りですら信じられないといった様子で呆然としていた様で、グスタフから催促を受けて、ようやく我に返ったようだ。


「――ハッ! はい! 試合開始!!」


 開始と同時に先手を打つのが早かったのは、グスタフの方だった。


「《覇裏仙流はりせんりゅう》!! 大震脚だいしんきゃく!」

『い!? マジかよ!?』


 グスタフは開幕こちらの動きを制限するために、地面をその大足で踏み割った。

 大地が大きく震え、地面がヒビとともに落盤らくばんを開始する。

 それにしても流派持ちだっけか……面倒といえば面倒だな。


「うわわっ!」

「きゃあ!」

「あの髭、なんて馬鹿力……!」


 ラストが【超防衛壁ハイディフェンスフィールド】を張っていたため場外にまでは被害がおよばなかったものの、それでも闘技場内が土煙で視界が悪くなっている。


『縮地が無きゃ死ぬっての!』


 揺れが収まった所で着地したはいいが、平らに整地されていた地面が見事に岩場と化している。


「グハハハハ! それがしはこんな荒れ地で戦ってきた男、自分の土俵に引き入れさせてもらった!」


 それはマズいな……探知系スキルを使ってもいいが、どうしてもそれは後手に回る。


『ならば――抜刀法・四式ししき


 ――風刃斬ふうじんざん

 本来なら致死ちしの刃を風に乗せ、遠方を斬るという絶空ぜっくうのような使い方をする技だが、今回は違う。視界悪の原因である土煙を払うべく、俺は誰もいないはずの空へと斬撃を放った。


『――ッ、どこにいる?』


 視界は晴れた。だがそこにグスタフはいない。

 俺はとっさに上を取られたかと空を見上げたがそこにもいない。

 となると――


『下か!』

「覇裏仙流! 地裂割波ちれつわっぱ!!」


 下から突き上げられる斧をかわし、俺は別の岩場へと足を乗せる。

 元いた場所には土まみれとなったグスタフが、一本取ったと言わんばかりににやりと笑って立っている。


『言っておくが、当たってないからな』

「それくらい分かっている。何せLPが削れておらんからな」


 だが依然として俺の方が地理的に不利。相手は荒れ地で百戦錬磨の男、このままかわし続けられるともいえない。


『チッ、抜刀法・壱式・居合いあいが使えるなら勝負ついているのだが、如何いかんせん今は使えないからな……』

「ジョージ殿、弱音を吐くくらいなら今からでも武器を変えたらいいのでは?」


 カッチーン。頭にきました。


『……武器なんて変えなくてもあんたくらい倒してやるよ!』


 木刀で《辻斬り化》――は大人げないからやらないとして、宣言したからにはなんとしても勝ちたい。


「では次はこれでどうだ……? 覇裏仙流! 弾岩烈波だんがんれっぱ!!」


 斧で豪快に岩を砕き、大きな破片を散弾銃のようにこちらへと叩き飛ばす。


『チッ!』


 技は持ち合わせていなくとも、それくらい持ち前のPRO(器用さ)だけで打ち落とせる!


『この程度か覇裏仙流は――ッ!?』

「無論、これはあくまで捨て駒だ――覇裏仙流奥義!! 砕牙竜塵戟さいがりゅうじんげき!!」


 ありったけの力を纏わせた戦斧が、俺の頭上へと振り下ろされる。

 唯の木刀で押し返せるはずもなく、俺は木刀とともに叩き潰されるだけ――

 ――と思っていたが、俺はまだある技を出していないことを忘れていた。


『――《四鬼噛流しきがみりゅう》・うつろの構え』


 俺は全身に入っているを脱力させ、相手の攻撃の際に生ずる風に合わせて、草木が風になびくかのようにすらりと攻撃をかわした。


「何と!」

『何も流派持ちはグスタフさんだけじゃないっての』


 単なる剣術でも、通常の動きや攻撃などにさまざまなバリエーションが存在する。もちろん我流でもいけるが、ここベヨシュタットの半分くらいの者はどこかしらの流派に属している。

 もちろん俺も、四鬼噛流しきがみりゅうという型の流派を体得している。あんまり使わないけど。

 しかし今回ばかりは、四鬼噛流が役に立った。


『――色即是空しきそくぜくう空即是色くうそくぜしき


 これが四鬼噛流の教えの基本であり、全てである。


「むう、知らぬ流派だ」

『まあ僻地の流派だからメジャーじゃないが、かなり使えるぞ』


 特に防御に関しては。


「ならば! 覇裏仙流奥義・風雅王刃衝ふうがおうじんしょう!!」


 強烈な風を戦斧に纏わせ、その身と共に打ち振るう。

 だがすべて無駄。風に合わせてそよぐのみ。


『中々に涼しい風だ』

「……ッ! 何故それがしの技がきかぬ!?」

『さぁ? それを試合中に教えるほど俺はお人好しじゃねぇよ』


 吹き荒ぶ風を読み、縮地を組み合わせた最短距離を見定める。そしてタイミングを見計らい、急接近を行う。


『――そうこうしている内に再度喉元だ』


 最後は四鬼噛流以外の技を使うことなく、グスタフの喉元に再度切っ先を突きつけることが出来た。


「っ……負けを認めよう……!」

「勝負あり!」

『……あっぶねー』


 正直言って思い出せなかったら勝てなかったぞ普通に。技のラッシュ厳し過ぎるだろ。


「いやはや、あっぱれだった」

『グスタフさんこそ、あの暴力的なラッシュにはジリ貧にさせられましたよ』

「はっはっは! それこそが覇裏仙流の真骨頂だったのだがな! こうも見事に破られると清々しいわ!」


 勝負の後腐れも無く大笑いで笑い飛ばすグスタフを見て、俺はやはりこの人が剣王に気に入られるだけのことはあると肌で感じた。


『さて、今のを見ただけでも技が重要ではないと言い切れるか? どんな状況であろうとそれ一つでひっくり返せる技を、お前達にも身に着けて欲しい』

「勉強になります!」

「素晴らしい試合でした! ありがとうございます!」


 今日はこの位でいいだろう。ラストにもハラハラさせすぎた。


「主様、御無事で――」

『まさか俺がやられると思っていたのか?』

「いいえ滅相も御座いません! あのような肉ダルマを前に、優雅に舞う貴方様の姿を見て、このラスト、惚れ惚れとしてしまいます」

『……あぁ、そう』


 何というか、俺のTM通常運転だったようだ。


「……それにしても、それがしは本当にあれで強さの信頼を得られたのだろうか」

『大丈夫ですって! 大丈夫ですから隅っこでいじけないで下さい!』



岩窟王(自称)なので王の称号の効果などありません。

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