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抜刀法奥義

 白日の下にその異常性を露わにする者。

 ――デイウォーカー。太陽に抗える吸血鬼は、そう呼ばれるそうだ。

 俺は少し考えが甘かったようだ。仮にも七つの大罪セブンス・シンと位置付けられる吸血鬼が、日の光程度でやられるはずもないことは少し考えればわかるはずだった。

 だが裏を返せば、相手もそこまで手札を見せるほどに追い詰められているということ。


『せっかく街に溶け込めていたというのに、これでは計画は丸つぶれじゃないか?』

「もういい。ついでにこの街を頂くとしよう」


 計画はまだ準備段階だったようだが、俺が刺激したせいで中途半端な状態で発動される。


「……生きとし生けるものへの渇望を吐き出せ――」


 プライドは空中で両腕をクロスさせると、静かに開放の呪文を唱える。


「――【開錠オープン・セサミ】」


 その言葉は、地下牢の全ての折を開放する言葉。そして――


「ククククク……フハハハハハハハハハッ!!」


 屋敷の何処に貯蔵されていたのであろうか、屋敷跡から多大な量の血液がプライドの方へと向かい、その身体を包み込み、空中に血の球体を形成し始める。


「ククククク……我が身をここまで追いつめた事は褒めてやろう……だがその快進撃もここまでだ……!」


 プライドは全ての血液を吸収することで、見た目は変わらないもののさらに強靭な肉体と邪悪なオーラを見に纏う。その赤々としたオーラは近づく者の生命力を奪いにかかり、長時間触れているだけで死に至るオーラだ。

 だが俺はそれに対し、怯むことなどしない。


『……仮にも俺は貴様と同格の七つの大罪セブンス・シンの一人、ラストを相手に勝っている。見くびってもらっては困るな』

「確かにそうかもしれないが……私とあの小娘を一緒にすると、血を見ることになるぞ!」


 プライドの言葉と同時に、屋敷跡から異形軍団最後の切り札が現れる。


「グガガガガガ……コカカガガガガアアアァアアアァアァ!!」


 ドラゴンゾンビ、起動開始――俺の目の前で、絶望が上乗せされる。


「フハハハハ!! 貴様等冒険者が言うには、このドラゴンゾンビの討伐はSランクなのだろう? Sランクと言えば、軍団で向かうのが通例とも聞く……だが今の貴様は一人だ……ククク……おっとすまない、憐れみを通り越して笑ってしまった」


 敵は既に勝ち誇ったかのような表情で、こちらを見下している。


「安心しろ。貴様が唯一私に抗えたという功績を讃えて、その身体を剥製はくせいにしてやろう」

『……ククククク』


 俺も思わず笑ってしまった。


『……それで? それが貴様の隠していた手札全てか?』

「何……?」

『だとしたら、俺の勝ちだ』


 俺は静かに刀を抜き、その切っ先をプライドへと向ける。


「……状況について行けず、頭を狂わせたか」


 狂っちゃいねぇよ。最初から。


『……《辻斬り化》』


 抜刀法・死式ししき――


『――絶釼たちはがね

「ッ!?」


 大きく刀を振り切ると、空間を断絶する斬撃がそこに発生する。もちろんその斬撃には、破魔ノ太刀による退魔の効果も上乗せされている。

 つまり――


「グゴ…………ァ……」

『……ちょろいもんだな。ドラゴンゾンビ』


 斜め一閃。二つに分かれるドラゴンゾンビと、ついでに斬り伏せられるプライドの姿が。


「ぐ、ギ……貴様アアァ――――――――――――――――――!!」

『ほう、破魔ノ太刀でもっての即死技ですら死なないとは』


 俺は敵に賛辞の言葉を送ると共に、そっくりそのまま言葉を返す。


『だが安心しろ。貴様が唯一俺の即死技に抗えたという功績を讃えて、抜刀法の奥義で葬ってやる――』


 俺は《辻斬り化》を解除し、静かに納刀を始める。


『抜刀法・神滅式かみごろし奥義――』


 ――黄泉帰よみがえり・往路復路ゆかずもおよばず


 ――生きとし生けるものは死に至り、死にたもう者は甦る――


「――バカ、な…………」


 それは不死であるはずの者にも、平等に来たるもの。

 終わりなき者に終止符を打つもの。


『……終わりだ』


 対象を殺すのに、何も幾重もの斬撃が必要だという訳ではない。

 たった一閃で、終わらせることもできるのだ――



     ◆ ◆ ◆



『――そっちも終わったみたいだな』


 俺が丁度肩をぐるぐると回していた時に、ラストとキリエも屋敷前に戻ってくる。

 どうやら所持金も奪還して来たようで、俺のステータスボードに百万という数字が浮かび上がる。


『トロール兄弟はどうした?』

「全部吐かせた後始末したわ。あいつ以前にここの街の子どもをさらって喰っていたみたいだったし」


 キリエはまるで下衆を見て来たかのような言葉の吐き出し方をしている。


『マジかよ……金を集めていた理由は?』

「どうやら地下の別室にて、人間の骨を用いた錬金術で金をつくっていたそうなのですが、それだけでは安定した収入にはならないからと街でスリも行っていた様で」


 どっちにしろ安定した収入とは程遠いと思うが……


「あとはこの街に来た冒険者を家に留めては、所持品と命を奪っていたそうで」

『なるほどな……』


 ラストの情報通りなら、恐らくそっちメインで錬金の素材となる人骨も集めていたのだろう。しかし人骨を使っての錬金術とは、魔法のことは知らないがかなりの上位の魔法になるんじゃないか?


「錬金術なんて禁呪指定されているものがあるほどに危険なものなのに、こんな倫理観ぶっちぎりな事をしていたなんてね……」

「あら、錬成くらいなら私にもできるわ」

「な、何ですって!?」


 おーおー、ラストは毎回さりげなく怖い発言をするよな。


『お前の錬金自慢は置いておいてだ。俺は今になって一つ気になる事がある』


 俺は、確かにプライドを討ち取ったはずだ。


『――何故プライドがTMになるようなイベントが発生しない?』


 確かにラストの時はLP寸止めでイベントが発生したが、この場合LP寸止めなんてやってられる状況ではない。

 だが確実にあの《七つの大罪セブンス・シン》は倒している。どういうことだ。


「……確かに不思議よね。あんたのレベルは上がっているから経験値とかは貰っているみたいだけど、肝心の七つの大罪セブンス・シンのTMが引き入れられないならあんまり意味ないよね」


 というかさり気なく俺Lv98から一気にLv100までキリよく上がっているのね。ステータス振り分けしておかねば。


『…………俺の経験からして考えられるのは二パターンだ。一つ目は俺が不死のプライドを殺してしまったことによるバグか、もしくはゲームの仕様。二つ目は……あんまり考えたくはないが……』


 このプライドは既に、誰かのTMだったということ。


「えぇー……でも誰かのTMなら、この街を乗っ取るなんておかしなことはしないはず」

『それはあくまで同じブラックアートの人間ならおかしな話に……ならないのか?』


 確かに七つの大罪セブンス・シンクラスのTMを持っているのなら、国を乗っ取るなんて大それた考えを持つのも不思議ではないのか?


「…………」


 うーん、謎は深まるな……とにかく、今回のことは一応この街を管理しているミリアにも報告を入れておくべきか。


『もしかしたら反応次第で……』

「ん? どうかしたの?」

『何でもない。キリエ、もう一度ミリアの所に向かうぞ』

「どうして? 私は早く買い物を――」

『買い物より重要な案件だ。しかも遅れれば遅れるほどこっちが不利になる』


 もし仮にミリアのTMだったとしたら、ミリアはブラックアートに反逆しようとしていると今度はブラックアート本国の方に報告ができる上、それにかこつけて協定を結べるかもしれない。

 同時にミリアのTMだった場合、自分の切り札であるTMを失った時点で何か動きを入れるかもしれない。


『とにかく先手を打つために、ミリアへの謁見が先だ』


 俺はそう言って、恨めしそうに見るキリエを無理やり連れて急いで山の頂上を目指し始める。


七つの大罪セブンス・シンのTMを潰したのなら、どこかで絶対にアクションが出るはずだ』


 そう、それが俺の知らない地であったとしても――



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