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隠密

 下水道は嫌いだ。汚れと臭いがきつすぎる。

 とはいえ、流石に女性陣を下水道に連れて行くのも気の毒だ。


『……だから俺一人で下を進んでいる訳なんだが』

「“もう少し先だから、我慢して”」


 【意思憑依テレパス】の魔法陣が描かれた羊皮紙越しに、キリエの指示が飛ばされる。

 俺はラストから嫌悪感のあるものを遮断する薄いオーラと、同時に気配も消す魔法をかけてもらい、一人汚れた下水道を歩いている。

 水の色はピンク色だったり青色だったりとカラフルだが、それらに決して触れてはならないと自分の本能が告げている。


「“そこら辺のはずだから、あんたは――”」

『ちょっと黙っていろ。ここから通話を切る』


 魔法を得意とする者が集まる街ゆえ、念の為相手に盗聴感知されないよう、俺は羊皮紙を破いて魔法を解除する。


『…………ん?』


 喉を潰したような声が下水道に響き始め、俺は物陰からその声を発する者の正体をうかがう。


「あ、兄貴ぃ、お、おでの腕が――」

「何と酷い……一体どうしたんだ」

「に、人間が、き、斬ってきやがった!」

「何!? お前の隠密スキルを見破った者がいるというのか?」


 なんだあの醜いゴブリンは? いや違うか? どうやらチビの方が盗みをやっていて、大きい方が此処で待ち構えていたらしい。


『……トロールか?』


 しかしトロールなら人語を喋れるほどの知能は無いと思うのだが……もしかして特別なモンスターなのか?


「…………」


 もう少し様子をうかがってみよう。


「――そ、そうなんだ! そ、そいつキレーな武器持ってたから、お、おでがコッソリ盗めば、お、お金の足しになると思ったんだ! で、でも、そ、そいつはおでに気づいて、き、斬ってきやがった!」


 そりゃPRO(器用さ)のステータスからの派生で、隠密に気づくスキルも伸びているからな。

 それにこの武器に手をかけようとした時点で斬られて当然だ。


「お、おではどうすれば――」

「安心しろ……あのお方なら、それも治してくださる」


 あのお方……だと?


『……どういうことだ?』


 謎がますます深まる中、二匹の怪物は下水道の奥へと移動を開始する。


『……追ってみるか』


 ここからはキリエのサポートも無く、ラストからかけられた魔法も長く持つとは限らない。

 だがこれを突き止めなければ、キリエの全財産も恐らく戻ってはこない。ならば示された道は一つ。

 俺はあのトロール(?)兄弟にばれないよう、足音を立てずに少しずつ後をつけて行くことにした。



     ◆ ◆ ◆



「ここだ、ここだ」

「お、おで、死なねえかな?」

「安心しろ。あのお方なら直してくださる」


 だからそいつは誰だよ――なんて俺が心の中でツッコミを入れている間に、トロール兄弟は目的地に到着したようだ。

 薄暗い下水道の中、トロール兄弟は梯子を上ってどこかへと消えていく。

 トロール兄弟が消える際下水道が明かりによって照らされていたところから、どこかの敷地内の部屋に通じているのだろうか。


『……一旦引き返すか』


 ここで敵陣に突っ込んでも戦局的に不利な状況からの戦闘になるだろう。それに――


『――あのお方とやらの実力がわからない今、適当にはつっこめないな……』



     ◆ ◆ ◆



『――という訳だ』

「……えっ? 私のお金は?」

『ない。というより俺の所持金もまだ向こうが持っている』

「……だ、だったら早く取り返しなさいよ!」


 そう怒るなよ……全く。


『待て、まだ敵の本拠地は――』

「私の探知魔法で既にわれているから、後は突っ込むだけでしょ! ……早く買い物しないと、せっかくいい品物見つけたのに!」

「主様、申し訳ありません。この下郎が勝手に――」


 見てまわっていたのは別にいいけど……だがまあこちらの戦力はこの三人。ラストもいるから攻略は不可能ではないだろう。


『……よし、行くか』

「サッサと倒して、お金ふんだくるわよ!」


 それもいいが、下手したらこの街の不祥事も見つかるかもしれないし。そう思いながら俺はキリエの後をついていく。キリエは自前で作った特殊な魔法を補佐するペンデュラムを用いて、お金がどこに消えて行ったのかを探知し続けている。


「…………」


 ん? どうしたんだ?


「ここよ」


 キリエがそう言って立ち止まったのは、貧乏とは縁がないような超豪邸の前――って、えっ?


『冗談だろ?』

「でも探知魔法はここを示しているわ」


 確かにペンデュラムが豪邸の方に向かって激しく揺れ動いているが……


『……うーん』


 もしここに住んでいるのがこの地の貴族で、しかも探知が間違えだった場合面倒なことになる。


『もう少し考えてから――』


 ――って門を堂々と開けて入らないでくださいよキリエさん!?


『おい待て――』

「何? 置いていくわよ?」

『ったく……』

「主様、どうしましょうか」


 確かにお金を取られて頭に血が上っているキリエに、まともな判断などできないだろう。だがここでキリエを放置してもベヨシュタットにかかる迷惑は変わらない。


『仕方ない、中に入るとするか』


 鬼が出るか蛇が出るか、知ったものか――


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