照れ隠し
その後剣王から改めて協定に関する話を聞いたところ、一時的な停戦はできたもののいつまた戦いが再開されるかは分からないといった状況だと言われた。
しかも再戦の際はマシンバラも本格的に参戦してくる恐れもあるとのこと。流石のベヨシュタットといえど、二つの国を相手にキッチリと立ち合えるかというと怪しい所。
そこでキャリカ卿が提案したのが、導王の治める国に一時的な同盟を打診してみるということ。魔法職であるなら遠距離だろうがお構いなく渡り合って行けるだろうというのが彼女の考えだ。
『とはいえまた俺がお使いかよ……』
そう愚痴りながら円卓のある部屋へと戻ると、既にギルド会議は解散されているようで、六人いた円卓も今や暇そうに欠伸をするキリエ一人だけとなっている。
『……他の奴等は?』
「……とっくに仕事に向かったわ」
手鏡片手に話すキリエによれば、シロとグスタフの二人は俺の提出した報告書から敵がベルゴールを奪還したいと考えているということを知るなり、いまだに復興が進んでいないベルゴールを早く盤石にするべく向かったそうだ。
そしてベスとイスカの両名はというと、しばらくはベヨシュタットにとどまっての警固の任を任せられているとのこと。
そこで何で俺に留まらせてくれなかったとキリエに聞くと、「あんたは《殲滅し引き裂く剱》では常識人の部類に入るでしょ? 外に出る時はあんたが出た方が色々と印象がいいって剣王様もおっしゃっていたわ」と言われた。
それは遠まわしにベスのような性格破綻者には国内ですらイスカのような常識人をつけておくべきだと言っているようなものじゃないのか?
そんなことを思いながら、俺は空いている椅子に腰を下ろして次の任務に向けての準備に取り掛かる。
『今回は《籠釣瓶》を置いていくとして、キャリカさんから貰った刀を持っていくべきか……?』
呪文カットができる唯一の刀。キャリカ卿から貰った《破魔ノ太刀》だけが、刀という武器種となかで唯一魔法攻撃を叩き斬る事ができる。刀身は真っ白であり、刃紋の代わりに反呪文の魔法文字が刻まれている。
この魔法文字というものは文字通り、魔法を意味する言葉の文字列らしい。だがINT(知力)をそれなりに上げていないと解読ができないらしく、現に全くINTにステータスを振っていない俺にとっては何となくかっこよさそうに見える謎の文字列にしか思えない。
『……まあいい。今回は魔法と取り扱う奴等との会合だから、魔法が使えてINTも高いラストさえ連れて行けば何となるか』
俺はそう考えを至らせると、早速支度をするべく席を立とうとした。すると――
「えー、コホン」
キリエは相変わらず手鏡を見つめているが、俺が外に出ようとドアノブに手をかけるなりわざとらしい咳払いをする。
「……?」
その意図がよく分からなかった俺は風邪でも引いたのかと思い、『風邪か? のどを痛めると辛いよな』と言いながらそのまま出て行こうとドアノブを掴んでいる手をねじる。するとまたもやわざとらしく大げさにキリエは咳き込み始め、俺は面倒だと思いながらキリエの方へと身体を向ける。
『一体どうしたんだ? 風邪が辛いのか?』
そもそもゲーム内で風邪をひくのか……? あっ、一回だけ過去にベスが地方の流行病にかかったことがあったな。あの時のベスはやけにしおらしかったが、後でそのことを問うなり「あらぁー? 突き殺されたいのかしらぁー?」と言って槍を俺の喉元につきつけてきやがった事は忘れない。
「ゴホ、ゴホン!」
『辛いなら医者を呼んで来てやろうか?』
「違うでしょ!? あんた流石に鈍いんじゃない!?」
普段他の人に向ける様な比較的上品な振る舞いとは違って、キリエは俺に対してはやけにこうやって突っかかって来る。イスカはイスカで面倒だが、こいつはこいつでまた違った面倒くささがある。
『そんなこと知るかよ……別に俺は病人じゃねぇし』
「そっちじゃなくて、あんた《ブラックアート》に行くんでしょ!? ……だったら私を連れて行った方がいいんじゃないの?」
確かに魔法剣士である彼女を連れて行った方が何かと便利かもしれない。だが――
『別にラストがいるし――』
「だぁから! あの魔族の女に魔法文字が解読できるの!? 道中罠とか張ってあるかもしれないでしょ!?」
いや、その辺は別に【魔法感知】があるから関係ないのだが。
『……分かった! お前実は一緒に来たいだけだろ?』
「なっ!? 何を言っているのよ!?」
その割にはズバリと言い当てられた様子で顔を真っ赤にしているぞキリエさん。
『ったく、ついてきたかったなら最初から正直に言えよ……』
「……う、うるさい! バーカ!」
恥ずかしさゆえに顔を真っ赤にしながら、それをごまかすようにののしるなんて一部の人間には需要がありそうだが俺には必要ないかなあ。
『とにかく、一緒に来るんだろ?』
「……分かっているなら最初からそうしなさい。それと……あの魔族の女は私がいるから来なくていいから」
『ん? どうしてだ? 対魔法要員ならいくらいても――』
「いいから! 私一人で十分なの!」
猫が爪を出して威嚇するかのように、キリエは俺の目の前でナイフを取り出して脅しにかかる。
『……ハァ、分かった。ラストには留守番するように言っておこう。だがラストがついてくるといった場合は、ついて来させるからな』




