停戦協定
『停戦協定……だと?』
「はい、その通りです」
ベスとともに首都ベヨシュタットに無事帰還、その後の最初のギルド会議で聞いた言葉がこれである。グスタフにキリエ、イスカはまだ遠征中のようで、今この場にいるのは俺とシロ、そしてベスだけだ。
「なんでもあのゲイズ部隊を潰されたことが痛手だったようで」
シロの説明によると、あの《飛空艇バロン》を持つゲイズ部隊を壊滅させたブライトチェスター防衛戦の結果が決定打の様で、械王治める《マシンバラ》が間に入って停戦協定を結ぼうと提案が来ているらしい。
『確かに一部隊が持つにしては大きすぎたものだが、それが戦争を止めるほどか?』
「あの飛空艇は一部隊の財だけで運用しているとはいえ、キャストラインでもそこらのTM以上に重要な代物らしかったそうで」
『TM以上に、か……ラストの上級呪文二連撃で沈んだけどな』
それにしても大規模な【死刻塵顛陣】はやり過ぎだと思うが。
『じゃあまず停戦のための使者を送らないと』
「まあ、確かにそうですが――」
「嫌だわぁ。戦えないなんて意味がないじゃないの」
停戦の場に戦闘狂を送り込んでみるのも一興と思ったが、両国を敵に回すのは面倒だ。
『シロさんが行けばいいんじゃない?』
しばらくこの首都から出たくなかったので俺はシロを推薦したが、シロはその考えに対し難色を示している。
「剣王はこの件について、全権を我々にゆだねています。そしてボク個人の考えとしては……このまま両国を相手にしても押し切れると考えています」
『だがそれだと仮に勝ったとしても、尋常じゃない被害をこうむるぞ』
「尋常じゃない被害と引き換えに二国も潰せるなら、僕はやりますけどね。キャストラインもマシンバラに頼らなくてはいけないくらい弱っているようですし」
あんまり好きじゃないなそういうのは。効率重視だからって軍から簡単に犠牲を出していいわけがない。
『その後の処理を考えられないから俺は反対だ』
「あら、私は賛成よ?」
「ベスさん、やはりそうですよね。二国を同時に潰した国ともなれば、敵も手をだしづらいと思いますけど?」
「私はいっぱい殺せるほうに一票入れるわ」
だからその後間髪入れずに他の国に攻め込まれた場合――ってまずい。このままだと押し切られる可能性がある。
『分かったわかった! 俺が行けばいいんだろ?』
「……少なくとも和解案を出した人が、行くべきでしょうね」
行けばいいんでしょ行けば。
『全く……』
下手したら遠征以上の遠出となるのか? 期間はそこまでかからないとしても。
『で、どこで停戦協定を結ぶ予定だ?』
「《マシンバラ》領にある《グランデカシノ》だそうで」
グランデカシノといえばこの世界でも有数な娯楽都市との噂。その地ではシンボルカラーなど関係なく、あくまで娯楽を求める場所などと言われているが――
『……敵領地内かよ』
「そうですね。ついでに偵察代わりに国の様子を見て来て下さい」
そう簡単に言うなよ。下手したら罠で殺されるかもしれないのに……まあその時は残りの奴等が相手になるだけか。
『……念の為、あの刀を持って行っておくか』
絶対に抜く気はないけど――
◆ ◆ ◆
「あら、貴方様おかえりなさいませ!」
帰ってくるなりラストのお出迎えだが、今の気分からしてため息を返すしかない。
『ただいま……ハァ』
「? どうにかなさいました?」
どうしたもこうしたもない。
『……また遠出しなければならなくなった』
その言葉を聞いて、ラストは心配すると同時に寂しそうな表情を浮かべる。
『……俺一人じゃ心もとないからお前にもついて来てもらうつもりだ』
「っ、はい! このラストの力をもって、我が主に尽くしたいと思います!」
まあ個人のTM連れてくるなとは言われていないし、別にいいだろう。俺だってそう簡単に抹消されたくないもんね。
『明日の明朝に出発だ。国境付近までミャリオに【転移】をしてもらって、そこから馬に乗っていく……敵地を通る事になるから、お前も気を引き締めて行け』
「心得ました」
こう考えると久々に二人での旅になる訳だが、停戦協定だからそこまで戦闘意識を張らなくてもいいだろう……多分。
『今回はあの《グランデカジノ》に向かうことになる』
「世界最大の娯楽園……私も一度は訪れてみたかったのです」
こいつは魔族のくせに世俗的だな……。
『あくまで仕事だ……だが、仕事が終わったら少しだけ羽を伸ばしてもいいかもな』
実を言うと、俺も少しだけ楽しみだ。ゲーム世界内でゲームという少々首をかしげるところかもしれないが、ささっと締結して羽伸ばしをするとするか。




