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奇襲

今回区切りがいい所なので少し短めです

 ――深夜零時。草木が風になびく音だけが耳に届けられ、夜空に浮かぶ月がうっすらと平和な森を照らしている。


「…………」


 だが冷たい空気が伝えてくるのは、夜襲を仕掛けてくる大勢の気配。


『……遊撃部隊ゲリラか』

「そのようで」

『守りはお前に任せる』

「主様は?」

『……奇襲ゲリラには奇襲ゲリラだ』


 俺の考えは、既に外壁から足を降ろしているベスが実行へと取り掛かっていた。


「あらぁ、もしかして考えていることは一緒かしら?」

『そのようだな』


 俺はベスについて行くように外壁を降りて、辺りの様子をうかがう。幸いにもまだそこまで近くにはきていないようだ。


「……猟奇的に殺すなら、あっちのモードがいいんじゃないかしら?」

『断る』


 ベスが提案しているのは、俺がめったに使わないとあるスイッチスキルのことだ。


『この程度であれを使う必要など無い』

「あら、残念」


 ベスは期待外れといった様子で肩をすくませたが、俺は何と言われようが現時点で使う気はさらさらない。


「それにしても二人とも奇襲にまわったら誰が駐屯地ほんじんを守るのかしら」

『ラストに任せてある。あいつなら大抵のことでは沈むまい』

「……なら安心ねぇ……久々の共同戦線、胸が躍るわぁ」


 ベスは自分の持つ槍に舌を這わせ、敵を殺す狂喜に身をゆだねる。


『……相変わらずその武器、か』

「あら、これを手放す気はさらさらないわぁ」


 魔鎗まそう・《ゲイボルグ》――過度な装飾もされていない、パッと見は普通の槍にも見えるその武器、レアリティレベルはなんと破格の115。ちなみにレアリティレベルのMAXはプレイヤーレベルと同じ120。つまりいま彼女が持っているのは120とほぼ遜色ないレベルの武器だということだ。


「この武器ほど相手を痛めつけるのに最高な武器は存在しないわぁ」


 投げれば三十の棘となって相手に降り注ぎ、突き刺せば体内で刃が分散し内臓を破壊しつくす。神話通りの特徴を持たされているその武器は、確かにその条件を満たしている。


「さて、そろそろ敵さんも動き出すみたいよ?」

『だったらこちらも動くとするか』

「ええ、楽しんでいきましょう――」



     ◆ ◆ ◆



 ※(ここから三人称視点です)


「包囲戦前、各自時計を合わせておけ」

「ラジャ!」


 ゲイズの声に合わせて、各自腕時計を構える。


「5、4、3、2、1――零時ジャスト!」


 時計を合わせ終えると、一個大隊は東西南北それぞれに兵を割き、作戦の遂行を始める。


「――只今より本隊は作戦行動に入る! 迅速な行動を肝に命じよ!」


 先ほどまでの気の抜けたような態度が一気に強張ったものへと変わり、隊員各々もそれに応じて自ら課せられたミッションの遂行に取り掛かる。


「“2415、突撃開始。2420、TMを東西から突入させる。割り振りは事前に告げた通りだ。今回は相手に《殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション》もいる……心して掛かれ!”」


 マシンバラから技術提供して作り上げた無線で激を飛ばすと、ゲイズは自身率いる西方部隊を取りまとめる。


「さーて、そろそろ15分だ――」

「“ギャアアアアアアッ!?”」

「ッ!? “どうしたんだ!”」

「“こちらレンジャー2! 槍を持った女に襲撃を――”」


 ぐちゃり、と肉を断つような音を最後に無線は途切れると、ゲイズは事態の収拾に取り掛かり始める。


「“レンジャー5! レンジャー2の確認に迎え! 残りの部隊は身辺警備を固めろ! もう奴等は来てい――”」


 ガチャリ。


『“こちら《蒼侍》。東方部隊はTM含め全滅した”』


 無線からは聞き覚えのない声と、聞き覚えのある通り名。


「……“所属部隊を言ってみろ”」


 ゲイズは分かっていながらも、怒りに無線機を震わせながらも、声の主の正体を問う。


『“剣王直下ギルド、《殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション》の一人、《刀王》ジョージだ”』


 ゲイズは思わず無線機を握り潰し、こう呟いた。


「……俺の経歴に泥を塗る奴は、皆殺しだ」


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