39話 ストーカー扱いされました
「メイソン君、君は娘と付き合っているのかね?」
お父様からそう言われたメイソンは、一瞬だけ固まってから、すぐに立ち上がって深々と頭を下げた。
「…はい、チェルシーさんとお付き合いさせていただいております。恩を仇で返すようなことをしてしまったこと、深くお詫び申し上げます。申し訳ございません」
「メイソンは何も悪くありません!私からしつこく迫ったんです。ずっと彼に付きまとって無理やり私のものにしたんです。貴族の娘だから、本当は婚姻で家の役に立つべきだってことは分かってます。でも、私はメイソン以外の人との結婚なんて考えられません!もし交際を認めていただけたら、魔法で必ず家の役に立ってみせます。死ぬ気で頑張ります!もちろん、家を出ていけとおっしゃるのでしたら、それにも従います。だから…」
「……少し落ち着きなさい?チェルシー」
いつの間にか立ち上がってものすごい勢いで話し続ける私を、お母様が窘めて落ち着かせてくれた。確かに興奮して話が支離滅裂になっていたね…。
私たち二人がお父様の指示で席に座り、その後私が少し落ち着いたタイミングを見計らって、お父様はメイソンとの話を再開した。
「メイソン君、君は今いくつかね?」
「…?25歳、ですが……」
急になんで年齢を?と思ったのか、少し戸惑った表情でメイソンが答える。
「…うむ。娘はもうすぐ18になる」
ああ、あれか、身分を理由にするんじゃなくて、10歳近くも離れている年齢を理由に交際を反対するということか。
「そして君は、娘のことをどう思っているのかね?」
「…チェルシーさんのことを心から愛しています。自分の命よりも大切な存在だと、本気で思っています」
メイソン……。ありがとう。私もよ!
「…そうか。ならばそろそろ、決断すべき時期ではないかね?」
決断…?何を?私のために身を引く決断をしろってこと?そんなのダメだよ。
「そうよ。私、実際にはまだチェルシーの片思いのようなものなのかと思っていたわ。もう二人が両想いなら、これ以上先延ばしにする理由はどこにもありませんわ」
「うむ。その通りだ。…ということで、まずはチェルシーの18歳の誕生日パーティーの場で、二人の交際を正式に発表するという形でかまわないかね?」
「「…えっ?」」
私とメイソンの声が、綺麗に揃った瞬間だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私たちが正式に交際の報告をしてくることを、お父様とお母様はずっと待っていたらしい。その背景にはいろんな事情が複雑に絡まっているけど…とにかく私たちの交際は無事認められた。というか、知らない間にとっくに認められていた…。
経緯はこうだった。メイソンがローズデールの屋敷にやってきてすぐに、私のメイソンに対する並々ならぬ好意は、うちの屋敷の関係者ほぼ全員に知れ渡ったらしい。もちろんお父様とお母様を含めて。
まあ、私、別に隠そうともしなかったし、確かに24時間恋する乙女モードだった(「だった」というか今もそう)からそりゃ誰でも分かるよね。
で、最初はみんなメイソン本人と同じ感想で、私の想いは「幼い少女の年上の男性に対する一時的な憧れ」だと思ってたし、メイソンが12、3歳の公爵令嬢に手を出すとはとても思えなかったから、「ほろ苦い片思いで終わる予定の、幼いご令嬢の初恋」をみんなで生温かく見守ってくれていたらしい。
でも何年たっても私の気持ちが変わることはなく、そうしているうちに私の魔導士としての腕がどんどん上がって、積極的に冒険者活動をしていたこともあっていつの間にか名の売れた魔導士になってしまった。
学園入学前から魔導士としてかなり注目されるようになった私は、段々政略結婚の駒として他の家に出すにはもったいない存在になってきたらしい。
言われてみれば確かにそうだ。「魔法がよくできるやつが無条件でえらい」という偏った考えがまかり通っているこの国において、今や私は王国No.2の魔導士と評価されることもある、割とよくできる子なのだ。自分で言うのも恥ずかしいけどね。
だからもちろん、ローズデールの本家と親戚筋を隈なく探しても、私と同等のことができる魔導士などいない。だったら、私を政略結婚の駒として他の家に出すよりも、ずっとローズデール家にいてもらった方が家としてはメリットがある。
それに加え、お兄様とお姉様の件もあった。お姉様はラインハルト公爵家の一人娘。もし彼女がローズデール家に嫁いでくるとなると、ラインハルト家は跡継ぎのために養子をとらないといけなくなる。
しかも私が「王国No.2の魔導士と評価されることもある」レベルに過ぎないことに対し、お姉様は「誰もが王国No.1の魔導士と認める」存在である。
ラインハルト家としては絶対嫁に出したくないし、しかもその相手が長年のライバルのローズデールだなんてもってのほか。だからお兄様とお姉様の結婚はお兄様が婿入りする形の方が現実的。となると、私は婿をとってローズデールの家を継ぐことが求められる。
で、私のお婿さん候補だが、いつの間にか「そりゃもちろんメイソン・ベックフォードしかいないよね」という空気になっていたらしい。本人の人柄や能力が申し分ないというのもあるけど、決め手はやはり私の執念。
私の数年間の言動を見守っていた両親は、私が絶対にメイソンを諦めないだろうってことを理解してくれていたらしい。
メイソンを私から引き離そうとして私が暴れだしたり、メイソンと駆け落ちでもしてしまったりしたら大変なので、私のお婿さんは大人しくメイソンにしといた方がみんな安全でハッピーという結論に達したと。
そういえばいつ頃からかな?一時期うんざりするほど大量に入ってきていた婚約の話が少しずつ減ってきて、いつの間にか一切なくなっていたけど、あれも別に婚約の話自体が届かなくなったわけではないとのことだった。
「どうせチェルシーはメイソン以外眼中にないから」ということで途中から私に相談することもなく全部お父様が断ってくれていたとさ。
ということで、私のお婿さん候補はメイソン一人に絞られ、あとは私たちが正式に婚約でもすれば、その後すぐにでもお兄様とお姉様を結婚させるというプランになっていたのだが…。
そこには一つだけ問題があって、私がずっとメイソン一筋なのは誰が見ても明らかだったけど、メイソンが私のことをどう思っているのかがはっきりしなかったと。
学園やお兄様・お姉様から入ってくる情報によると、二人が交際しているのは間違いなさそうだけど、もしかしたらそれは私があまりにもしつこいし、またメイソンの立場からすると私は冷たく突き放せる相手でもないから、嫌々ながら仕方なく私に付き合わされているだけかもしれないと思ったらしい。
で、今日の呼び出しはメイソンの気持ちを確認して、両想いなら速やかに婚約に向けて準備を始める、そうでなく、表面上付き合っているように見えるだけで、実際にはメイソンは私に好意を持っているわけでもなんでもないということが判明したら、メイソンを説得することが目的だったらしい。
ちなみにメイソンの説得のために…
「ずっとしつこく付きまとわれて迷惑だったかもしれないが、娘の君に対する愛情は間違いなく本物だ。娘ほど君のことを愛してくれる女性はそう簡単には現れまい」
「客観的にみても娘は器量、能力、家柄のどれをとっても素晴らしい結婚相手ではないか」
「この子は顔だけじゃなくて性格も私にそっくりだからよくわかるけど、あなたはもうこの子からは逃げられないわ。地の果てまで逃げようが海の底に隠れようがこの子はあなたを追いかけて必ず見つけ出す。諦めて、少しずつでいいからこの子を愛してあげて」
……といった感じのセリフを用意して今日の話し合いに臨んだらしい。…いや、お父様、お母様、実の娘をめちゃくちゃ危険な女ストーカー扱いするの、やめてくれませんか…特にお母様。心当たりは大いにあるけど。
……てかお母様もヤンデレ体質だったんですね。
…いずれにしても、今日でメイソンと私が両想いであることが無事確認され、しかもメイソンの実家は弟さんが継ぐことがすでに確定しているから、メイソンがローズデール家に婿入りすることには何も問題がないことまで判明した。
だから明日から早速私たちの婚約と、お兄様とお姉様の結婚に向けた準備が始まるらしい。お母様が目を輝かせながら「明日から忙しくなるわ」って嬉しそうに言ってた。
……いや、何これ?今までの駆け落ちの計画とか準備とか、全部無駄だったじゃん。てかどうして誰も何も言ってくれないの?あと、これから私はどうすれば良いわけ?卒業後は国を去るつもりだったから、卒業後の進路とか何も考えてないんだけど。
…とりあえず引き続き冒険者でいい…のか?
てか、…えっ?ええええ?私メイソンと結婚してこれからもこの屋敷で、彼と二人で幸せに暮らしていけるの?本当にこれ、現実なの?実はこれ全部夢で、目が覚めたらセント・アンドリューズ行きの船に乗っていて次の瞬間大きな衝撃が走って船が沈み始める…とかないよね?大丈夫だよね!?
私の隣ではメイソンが、あまりにも予想外の現実を受け入れられないといった顔でボーッとしていた。…きっと私も同じ表情をしているんだろうな。
明日で本編完結します…!
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