35話 封印が解けた件
メイソン視点です
頭が痛い。少し気持ちが悪い。完全に二日酔いだな…。昨日あれだけ飲んだんだから仕方がない。まあいいか、今日は休日だし、一日部屋でゆっくり休もう。
…ってダメだ、すぐにでもチェルシーに事情を説明しにいかないと、昨日の件を含めて…。
……俺、昨日ウェストウッドさんと一緒に帰ってきたところをチェルシーに見られたんだよね。夢じゃないよね、あれ。でもなんでチェルシーはあんな夜遅くに俺の部屋の近くにいたんだ?
てか昨日のチェルシーはヤバかったな。何年も一緒にいるけど、あんな姿初めて見た。もしかしたら剣を持ったうちの母や姉よりも迫力があったかもしれない。いや、「かもしれない」じゃなくて確実にそうだな。
『それでも浮気は許しませんからね。手を出すなら私にしてください。浮気がバレた瞬間、それこそ魔道王国を敵に回すと思ってくださいね』
『いいえ、ダメなものはダメです。私、独占欲強いのでちょっと本気で無理です』
昔、彼女に言われたセリフを思い出す。うん、当時から彼女は十分注意喚起してたね。それなのに誤解を招く行動をした俺が全面的に悪い。
信じてもらえるかどうか分からないけど、ウェストウッドさんとのこと、釈明して謝らなきゃ。そして俺のここ一週間の行動についてもちゃんと謝罪しよう。うん、そうと決まれば早速…
ベッドから体を起こす、そして隣で寝ているチェルシーを起こさないようにそーっと…
…
……
…………えっ?
俺は慌てて自分の服装の状態を確かめた。あ、よかった。ちゃんと昨日の夜と同じ洋服で、乱れてもいない。
そ、そうか…そういえば、昨日、酔っ払ってフラフラしている俺をベッドに寝かせてくれて、なんとか話をしようとする俺に「明日話そう、おやすみなさい」って言いながら優しく微笑んでくれたっけ。
泥酔していた俺はその後すぐに眠ってしまったけど……彼女、そのまま俺の部屋に泊まっちゃったのか。アイリーンが心配しているだろうに。
チェルシーの寝顔を見つめる。心の底から深い愛情と抑えきれない好意が湧き上がってきた。彼女のすべてが愛しい、絶対に失いたくない、彼女のことが世界で一番大切だと、自分がそう強く思っていることに改めて気がついた。
怒りと絶望に染まった昨日の彼女の表情を思い出す。彼女をあれほど悲しませて、苦しませて、追い込んだのは他ならぬ自分だということを改めて痛感し、深く後悔した。
彼女の寝顔にはまだ涙の跡が残っていた。彼女を苦しめたのは、間違いなくウェストウッドさんのことだけではないと思う。一週間続いた俺の自分勝手な行動のせいで、きっと彼女は深く傷ついて何度も何度も泣いてたんだ。
もし逆の立場だったら俺はたぶん耐えられなかったと思う。チェルシーが急に落ち込んでしまって何度聞いても理由を教えてくれず、ずっと俺を避けるような態度をとっていたら。
たぶん今頃俺は、それこそ姉さんのところにでも向かっていたはずだ。最愛の人に自分は耐えられそうにない辛い思いをさせるなんて……俺、本当に最低だ。
「ウェストウッドさんとは何もなかったよ。誤解させて、悲しませて本当にごめん。…愛してるよ、チェルシー」
小さい声で独り言のようにそう呟きながら、右手の親指でチェルシーの目の近くに残っている涙の痕を拭うように撫でる。こんな時にも言い訳じみたセリフが最初に出てくるあたり、俺はもしかしたら筋金入りのクズ男なのかもしれない。
「……本当?」
瞑ったままのチェルシーの目からは、また涙がこぼれていた。
…えっ?起きてたの?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後、チェルシーは俺に抱きついてしばらく泣き続けた。俺はずっと彼女の頭を優しく撫でながら、彼女が落ち着くのを待った。
しばらくして彼女が落ち着いてから、俺は机の前の椅子に腰をかけ、ベッドにちょこんと座っているチェルシーに向かって今までのことをぽつぽつと説明した。
偶然、旧校舎の屋上でチェルシーがカイル王子にプロポーズされている場面を目撃してしまったこと、カイル王子が片膝をつくところまでは見たけど、チェルシーがどう返事するのかを見るのが怖くて逃げ出してしまっていたこと、それが原因で落ち込んでしまって酒に逃げていたこと。
チェルシーは俺がカイル王子との場面を見ていたことには「えっ、どこから?」と驚き、チェルシーの返事を見るのが怖くて逃げ出したということについては「見るなら最後まで見ていってよ。ちゃんと断ったのに」と頬を膨らませた。ヘタレでごめんと平謝りした。
もちろん、一週間チェルシーを避けるような態度をとったのも謝罪した。彼女は拗ねたような口調で「本当はすぐに許しちゃダメだと思うけど、惚れた弱みがあるから今回だけは特別に許す。次はないからね」と言って許してくれた。……天使かな?
自分が思っていたことも包み隠さず全部彼女に伝えた。最初は「自分のせいでチェルシーが王子の妃になるチャンスを逃したかもしれない」「自分がチェルシーの輝かしい未来を奪ったかもしれない」という気持ちもあったけど、それはすべて偽善だってことに気づいたこと。
結局俺を苛んでいたマイナスの感情は、自分よりチェルシーに相応しい男が現れたことによって、チェルシーの心が変わってしまうかもしれないという恐怖と、自分よりチェルシーに相応しい条件をすべて持っているカイル王子に対する嫉妬だったと。
チェルシーは前半の言葉は苦い顔をして聞いていたが、後半の言葉を聞くときは少し驚いたような表情になっていた。表情がコロコロ変わるところがとても可愛い。
ウェストウッドさんとのことも言葉を選びながら丁寧に説明した。理由は分からないけど、どうやら彼女が俺に好意を持っているらしいということ、でも昨日会ったのは本当に偶然で、やましいことは何もなかったこと、そして彼女には俺がチェルシーと付き合っていることを説明するつもりであること。
…まあ、おそらくウェストウッドさんは、俺から改めて説明する必要もなく、もう俺の「彼女さん」がチェルシーであることを理解していると思うけどね。
ちなみに「ウェストウッドさんが俺に好意を持っているらしい」のくだりでは、またチェルシーの瞳からハイライトが消えてしまった。
どうやら俺の彼女は、ヤンデレな一面を持っているらしい。マイルドな方だとは思うけどね。……もしかしたらマイルドな方というのは俺の願望に過ぎないかもしれないけど。
……いずれにしてもこれからはチェルシーに誤解されることがないよう、さらに行動に気をつけようと自分自身に誓った。俺の行動のせいで怪我人や死人が出てはいけないし、何よりもこれ以上チェルシーのことを傷つけたくない。
そして自分のヘタレすぎる行動や10歳近く年下の少年に対する幼稚な嫉妬心まで包み隠さずチェルシーに伝えた俺は、まるで封印が解けたかのように、自分の素直な想いをチェルシーにストレートに伝えることができるようになっていた。
「俺、チェルシーのことが大好きだよ。心から愛してる」
「…!?…えっ、ありがとう。私もだよ」
「誰にも渡したくない。相手が王子だろうと、魔王だろうと」
「…うん、心配しなくても、私は、ずっとメイソンのものだから」
「…ありがとう。一生大事にするね。だからずっと俺のそばにいてね?どこにもいかないで」
「……はい」
真っすぐチェルシーの目を見て好意や愛情を伝え続ける。昨日までとは別人のようにストレートに愛情表現してくる俺の言葉に少し照れた表情で頬を赤らめながらも、嬉しそうに返事をしてくれるチェルシー。
…最初からこうすればよかったんだ。別に学園卒業まで「恋人未満」の関係にしておく必要などなかったんだよ。
駆け落ちするのが学園卒業後だからって、別に付き合うのもそのタイミングからにしないといけない理由がどこにある?いや、というかもう、このまま駆け落ちしてしまおうか。
…まあ、最初は本気で「俺が彼女の未来の可能性を奪って良いのか」って考えてたからね。偽善者だったね、バカだったね。ヘタレのくせにカッコつけようとして。
とっくにチェルシーがいないと生きていけないくらい、彼女のことが大好きになってたくせに。いや、それを認めようとしないからこそ、真のヘタレなのか。
でももう、チェルシーのことに関しては、ヘタレは卒業しよう。姉さんはどこかで野垂れ死にするよりはヘタレが良いって言ってたけど、俺、チェルシーのためなら喜んで野垂れ死にするよ。いや、死なないけどね?ずっとチェルシーと幸せに生きていきたいから。
椅子から立ち上がって、彼女が座っているベッドの前で片膝をつく。少し驚いた顔でベッドから立ち上がるチェルシー。右手で彼女の左手を軽く握り、彼女を見上げる。
「遅くなってごめんね。……チェルシー・ローズデールさん、俺と付き合っていただけませんか」
「……はい。喜んで」
指輪がなくてごめんね、今日か明日買いに行こうね。心の中でそう謝りながら立ち上がった俺は、そのままチェルシーを抱き寄せ、彼女と唇を重ねた。
「マイルドヤンデレ」というタイトルのフラグ回収に35話かかってしまいました…。すみません…。
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