25話 仲間外れ感が半端ない件
メイソン視点です
魔道学園で剣術を教えている。…うん、俺も正直、意味がよくわからない。「魔法」を教えるはずの魔道学園にどうして「剣術」教科が新設され、その講師として騎士でもなければこの国の出身でもない俺が選ばれてしまったのか。
どうやらお嬢様…じゃなくてチェルシーとラインハルト様が裏で動いた結果らしいが、いくらなんでも強引過ぎないか。そもそも魔法を学ぶための学園に剣術科目を設置したところで、そんなもの受講する生徒がいるのだろうか。
……まあ、チェルシーは受講してくれるんだろうけど。
俺が学園で講師として働き始め、チェルシーが生徒として同じ学園に入学することになったので、俺たちは今までの呼び方を改めることにした。
彼女の希望は「チェルシー」の呼び捨てで、俺は「チェルシーさん」でどうかと提案したが、今度こそは譲れないということで、二人きりの時やアイリーンと三人でいる時は「チェルシー」と呼び捨てにすることになった。しかもその流れで敬語もやめることになった。未だに慣れない。
もちろん、男性講師が特定の女子生徒のみをファーストネームの呼び捨てにするのはまずいので、他の生徒の前では「ローズデールさん」と呼んでいる。
彼女は俺のことを「先生」と呼ぶようになった。他の生徒と一緒の時以外は基本的に今まで通り「メイソン」だが、あえて少しだけ舌足らずの「せんせ♡」って呼び方にするのが気に入ったらしく、二人きりの時もよく「せんせ♡」と呼んで甘えてくる。
……あざと可愛いやつである。
ちなみにチェルシーのことを呼び捨てにすることになったタイミングで、チェルシーの専属メイドとして一緒に学園に来ているアイリーンとも呼び捨てで呼び合うことになった。
彼女としてはずっと前から呼び捨てでよかったとのことで、チェルシーの呼び方を変えたこのタイミングでついでに自分の呼び方も変えてはどうかと提案された。彼女とは同性の親友のような間柄だから、こっちはしっくりくる。
で、心配した剣術教科であるが…意外なことに、割と人気教科になってしまった。元々卒業後の進路として軍や冒険者の道を考えている生徒たちにとって、接近戦の基礎を学べる講義はニーズがあったらしい。
また、今までローズデール・ラインハルトで魔物討伐に精を出していたことにより、俺の名前は地元だけじゃなくて王国全域でそれなりに売れていたらしく、「あの有名人の剣技を生で見られるなら、それだけでも見学に行ってみる価値はある」とのことで、見学希望者が殺到した。
…チェルシーとパーティーを組んでたから有名になっただけなのに。
そして、見学に来てくれる生徒たちのためにはエンターテインメント的な要素も必要かと思い、アイリーンに協力をお願いし、俺とアイリーンで実際に手合わせをしてみせたのもよかったんだと思う。多くの生徒が感嘆の声をあげながら、夢中になってみてくれていた。
…ボロ負けしなくてよかったよ。なんとかまだ互角の実力でついていけている、あの天才に。俺から彼女に教えられることはもう何もないけどね。
デモンストレーションが効いたのか、見学に訪れた生徒の中には軍や冒険者志望でもないのに受講を決めてくれた生徒も結構いた。たとえば、この国の第二王子のカイル殿下もそうだね。いや、王子はある意味、将来は軍の指揮官でもあるのか?
…それにしてもまさか王子に剣術を教えることになるとは思わなかったよ。人生何があるかわかんないね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
とまあ、剣術教科には思いのほかたくさんの生徒が集まり、指導自体も順調に進んでいるものの、正直、俺は学園でかなり居心地の悪さを感じていた。
考えてみてほしい。この学園は基本的には魔法を学ぶ学園である。ということは、教員も生徒も基本的に全員が魔導士。そしてこの国の魔力保持者は多くの場合、貴族なので、教師も生徒もほとんどが貴族出身である。
そんな中、俺は魔力を一切持たず、出身は平民でしかも外国人。まるで白鳥の群れに迷い込んだカラスだなと思ってしまう。仲間外れ感が半端ない。
チェルシーは暇さえあれば俺のところに来てくれるし、アイリーンもローズデールの屋敷にいる時よりも仕事が少なくなったのか、前よりも頻繁に雑談や手合わせに付き合ってくれるようになった。でも、はっきりいってこの学園で俺の心が休まる時はその二人と一緒にいるときくらいだった。
そんな中、入学テストで筆記でも実技でもトップの成績を叩き出したチェルシーは、生徒会執行部に選ばれた。
この学園の生徒会執行部には王族か有力貴族の生徒か、圧倒的に高い魔力を持つ生徒、あとは入学テストで極めて優秀な成績を残した生徒が選ばれるとのことで、チェルシーは文句なしでどの条件も満たしているので順当な選出だった。
で、その生徒会執行部というものは、単なる学園の生徒会の仕事を取り仕切るメンバーなわけではなく、それに選ばれることによって将来は魔道王国のエリートコースに入ることが約束される、いわゆる「インナーサークル」に該当する集団らしい。まあ、いずれにしてもチェルシーが選ばれるのは当然といえるが。
それに選ばれてどうなったかというと、チェルシーはかなり忙しくなってしまった。普段の授業や研究に加えて、執行部の仕事もやらないといけなくなったわけだから。
多忙な中でも俺との時間を最大限確保するために睡眠時間を大幅に削ろうとしていたから、それはやめるようにとやんわり注意した。
「でも…」って食い下がってきたから、珍しく「俺の言うことは何でも聞くんじゃなかったの」って少し強めに言ってみたら、なぜかちょっと嬉しそうに「…はい」って答えられてしまった。
……前から少し思ってたけど、もしかしたらチェルシー、少しMっ気があるのかな?
とはいえ、正直心のオアシスでもあるチェルシーとの時間が減ってしまったことを誰よりも残念に思っているのは俺自身だった。しかも、彼女と一緒に仕事をしている生徒会執行部というのが美男子揃いというところも…正直気にならないといえば嘘だった。
もっとも目立つのはやはり第二王子のカイル殿下だろう。ラインハルト様の男版とでもいうべきか。一言でいうと完璧な美少年だった。
嫌味なまでに整った顔に紳士的で物腰柔らかい性格、気品と威厳に満ち溢れたオーラ。能力面も申し分なく、入学テストの結果は筆記でも実技でも2位だったらしい。そんな彼がなんと王族にしては珍しく、15歳になった今も婚約者が決まっていないと。
もう一人女子生徒の憧れの的になっているのが、2年生のルーカス・ヴァイオレット。ローズデール家と同格の「三大公爵家」のご令息である。無口な一匹狼タイプで、女子からの評判は「どこか危険な香りがする冷血系イケメン」だそうだ。
他にも「お色気担当の遊び人」とか「知的なイケメン生徒会長」とか、生徒会執行部にはいろんなタイプのイケメンが揃っているらしい。
なんかね…生徒会執行部のメンバーのプロフィールを聞いていると、やっぱりチェルシーがいるべき世界はあちらであって、俺の隣じゃないって感じがして、とても惨めな気持ちになる……俺、やっぱ身の程知らずだよなって。…カイル殿下とチェルシーなんかもうめちゃくちゃお似合いじゃん。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そんなストレスフルな学園生活の中で、俺は一つだけ楽しみを見つけていた。それは、ジャンクフードの買い食いだった。
ローズデールの屋敷は繁華街から少し離れたところにあったし、一応、俺はチェルシーの専属護衛という立場だったからなるべく彼女のそばにいることを心がけていた。だから気軽に庶民の味を楽しめる環境ではなかった。
でも学園はなんと正門から5分も歩けば地元の商店街が出てきて、しかもさすが王都というべきか、数々のグルメが揃っていて、中には俺の生まれ故郷の郷土料理を出す店まであった。
久々にジャンクフードをたっぷり堪能できるようになった俺は、最近はチェルシーと一緒に食事をとる時以外は専ら商店街の店を利用していた。
俺が庶民の味を楽しむお気に入りの方法の一つは、ジャンクフードをテイクアウトして、学園のベンチに座って一人でそれをまったり楽しむというものだった。もちろん、お店で食べた方がおいしいものはそうするけど。
で、この学園の運河側のベンチは景色が良いとあって、ランチタイムは非常に込み合うが、ほとんど人が来ない山側にある旧校舎の近くには、まるでぼっち飯のために存在するかのようなベンチがいくつか並んでいて、そこが俺のお気に入りのランチの場所になっていた。
その日も俺は商店街に出かけ、最近ハマっているフィッシュアンドチップスをテイクアウトしてきていつものベンチに腰をかけた。
次の休日はチェルシー、アイリーンを誘って久しぶりに三人でクエストにでも出かけようかなと思いながら最初のポテトを口に運ぼうとした瞬間、誰かから声をかけられた。
「…ベックフォード先生?」
どこかで聞いたことのある女性の声だな。誰だっけ?
「…?あー、ウェストウッドさん」
そこには、俺の剣術授業を受講してくれている生徒の一人で、確か聖属性だっけ?光属性だっけ?とにかくチェルシーと同じくらい珍しい属性の魔法を操るということで校内から注目されているレベッカ・ウェストウッドさんが立っていた。
「こちらでお食事ですか?」
「…はい。ウェストウッドさんも?」
「はい、これから。……ってああっ!フィッシュアンドチップス…!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
気がついたらフィッシュアンドチップスに興奮したウェストウッドさんが俺と同じベンチに居座っていた。
どうやら彼女は平民出身らしく、入学以来ジャンクフードを食べていないのでそろそろ食べたくなっていたとのことで、どこに行けばフィッシュアンドチップスが買えるのかって質問してきた。
正門から徒歩5分の商店街です、他にもいろんなジャンクフードが買えますよと説明して、俺としては話を終わりにしたかったのだが、なんと彼女はそこからこの学園で平民としてやっていく難しさや受けたカルチャーショックについて話題を広げてしまった。
まあ、確かに話の内容は共感できる部分も多々あったけど…。
このままだと彼女は成り行きで持ってきた弁当を広げて食事を始めてしまうな…。うーん、誰にも邪魔されないぼっち飯を楽しむつもりだったのに。
てか俺が他の女子生徒と二人で飯なんか食ってる姿をもしチェルシーが見たら、いい気はしないと思うんだよなぁ。こんなところに来ないとは思うけどさ。
ということで、ウェストウッドさんに失礼にならないよう、少しだけ話に付き合った俺は、タイミングを見計らって昼休みのうちに片付けないといけない仕事があったことを忘れていたフリをして、その場から退散した。
うう、数少ない楽しみだった俺のぼっち飯が…。
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