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拝啓 自分様  作者: 荒川 晶
秘密の日
13/43

秘密の日 2

 同じ頃、新選組の頓所である八木邸では隊士達がざわざわと落ち着かない様子で口々に話していた。

「あの桝屋の喜右衛門だろ。怪しいって言われてたところの」

「長州の間者ってのは本当なのか」

「結局、武器弾薬が見つかって、血判書も見つかったって話しだぞ」

「今は前川邸の方で副長が聞き出してるってなぁ」

「拷問かね」

「ああ、鬼のような拷問って話だ」

 男達はその拷問を想像して眉間にシワを寄せるものもいれば、イイザマだと言ってニヤつくものもいた。

 そこに副長、土方歳三が顔を強張らせて現れた。

「ふ、副長」

「噂話とは関心しないね」

「すみませんっ」

「まぁいい。今はそれどこじゃねぇ。そこのお前、幹部に局長の部屋に集まるように言ってこい」

 それだけ言うと土方は踵を返す。ただでさえ鬼のようだと言われん彼の背中からは、身の毛がよだつほどの怒りのオーラを纏っていた。


幹部が局長、近藤勇の部屋に集まった。

「奴の名前は古高俊太郎。長州の間者だ。簡潔に言う。よく聞け。近々やつらが京の町に火を払い、そしてどさくさに紛れて会津公と中川宮を討ち、帝を奪うんだとよ。俺達はなんとしてもそれを止めなきゃならねぇ。恐らく古高捕縛の報をきいて今夜には会合があるに違いない。俺達は今夜その会合を突き止め奴らを捕縛する。だが場所がわからねぇから怪しい所を中心にしらみ潰しに捜すしかない。さっき捜索部隊を編成した。今からそれを発表する。いいか、今夜は寝れねぇもんだと思え」

 そう土方は言い放つと編成表と京の地図を畳の上に広げた。

「運がねぇことに怪我や体調崩して戦力にならねぇ奴が多い。まともに動けるのは三十三人だけだ。それを二手にわける」

「待ってくれよ、副長。たった三十三人を二手に分けるのか。相手は火を放つ計画をしている奴らだぞ」

 と、横から顔を出し、土方の案に口を出したのはあの原田だった。

 土方は目線だけ上げ原田の顔を見る。土方も原田も両者共に眉間にシワを寄せている。

「無謀だって言いてぇのはわかるが時間がねぇんだ。最良の判断をしたまでだ」

 土方は冷ややかな目線を送った。それからその隣にいた近藤が口を開いた。

「スマン、わかってくれ。今回は一刻も争うんだ」

「まぁ、局長がそう言うなら仕方ねぇのか……」

 申し訳なさそうになりながらも、真剣な目をして自分を見つめる近藤に、原田は苦虫をすり潰したような気持ちになった。

 危険は承知のはずだ。

「続けるぞ。奴らの集まる可能性の高い東側の方に捜索部隊の人数を多くした。西側の方は局長率いる近藤隊、東側が俺の率いる土方隊だ。近藤隊は沖田、永倉、藤堂、以下六名だ。あとの奴らは俺とこい」

 編成表と地図を指差しながら確認していく。

 幹部らはその話を聞きながら額から汗を垂らした。頬と顎を伝い、ぽたりと落ちるとそれは畳に吸収される。暑さによるものなのか、違う理由からくる汗なのかは彼らにもわからなかった。

 鴨川を挟んで西側は局長の近藤、新選組きっての沖田と永倉を含め十人。東側は土方含め二十三人。恐らくだが敵は二十人はいると思われる。ぎりぎりのラインだ。

 土方は立ち上がると付け足すように言い放つ。

「会津藩にも加勢のための早馬を出した。だけど余計な期待はするな。準備にかかれ」

 土方の整った顔からも汗がたれ、半紙の上に落ちたのだった。



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