32話 やりたいように
ユースティアナが狙われている。
犯人は、同じ騎士のクライブだ。
相手は、第四騎士団、団長。
狡猾でずる賢い。
中途半端な悪事の証拠を集めても、のらりくらいとかわされて、逃げられてしまうだろう。
それを許さないために、とあるものを用意しないといけない。
ただ……
「団長がデート?」
「はい!」
ふと、フェルミーからそんな話を聞いた。
「デートって……あの団長が?」
「あたしも、自分の目を疑ったんですけどね。あるいは、幻覚魔法をかけられたとか。でもでも、本当にデートをしていたんですよ」
「マジか……いや、待て」
『氷の妖精』であるユースティアナは、イメージを保つためにデートなんてしない。
それなのに、あえてこのタイミングでデートをするということは……
「相手は?」
「それが、聞いて驚いてくださいよ。なんと! 第四の団長だったんです」
「……そういうことか」
フェルミーの話で、すぐにピンと来た。
「えっと、それで……先輩? よかったら、今度、あたし達もデートを……」
「フェルミー」
「はい!」
「すまん、後は頼む」
「えっ、えぇーーー!? 先輩!?」
途中まで進めていた書類作業をフェルミーに託して、俺は、塔を出た。
――――――――――
どのような手を使ったかわからないが、クライブは、ユースティアナとデートすることに成功した。
ただ、こんなチャンスは滅多にない。
二度目はとても難しいだろう。
だから、一度目で最後まで……と、狙うはずだ。
そして、関係を持ったことで二度目、三度目を作り出して……
そのままずっと、ということを考えているのだろう。
「なかなかどうして……舐めたことをしてくれるな」
ユースティアナとクライブの行き先を調べる。
これは簡単だ。
二人はとても目立つため、いくらか聞き込みをして、街の噂に耳を傾ければ自然と答えは出る。
結果、貴族に人気のあるレストランに向かった、という情報を手に入れることができた。
「さて、ここからどうする?」
中の様子はわからない。
ユースティアナが、今、どんな状況に置かれているのか、それもわからない。
普通に考えて、様子を見るの一択だろう。
俺は、騎士だ。
迂闊な行動を取ることはできない。
慎重に、ミスのないように動くべきなのだ。
「……ってのが、模範的な解答なんだろうけどな」
世の中、正しいことで全ての問題が解決するということはない。
正しい故に間違えてしまうということもある。
だから俺は……
「やりたいようにやらせてもらう」
――――――――――
「……」
ユースティアナは、両手足を拘束されてベッドに寝かされていた。
特殊な枷で、本来の力の十分の一も出すことができない。
『氷の妖精』も、今は、そこらにいる少女となにも変わらない。
「ふふ、良い眺めだ」
「このようなことをして、問題にならないとでも?」
「大丈夫。キミはこれから、僕の手で調教されて、生まれ変わるのさ。僕を主と慕うように……ね。だから、問題になんてならないんだよ」
「そのようなことはありえません」
「……このような状況でも震えることなく、逆転の手を探り、まったく諦めていない。良い……とても良いね。キミは、本当に素晴らしい女性だ。でも……下手なことをすれば、部屋の外にいる人達がどうなるか? ……わかっているね?」
「……」
ユースティアナは表情を変えない。
ただ、内心で舌打ちした。
枷をハメて、本来の力を出すことができない。
さらに人質も取られている。
どう考えても、ここから逆転する術はない。
それでも諦めるわけにはいかない。
ここで諦めたら、本当にクライブのものになってしまいそうな気がして……
最後の最後まで抗う決意を固めた。
「その目、たまらないよ。屈服させて、僕の色に染めて、愛欲にまみれさせる……あぁ、その時のことを考えると、ものすごく興奮してしまう。今すぐに、乱暴にキミの全てを奪いたくなってしまう」
「……」
「ただ……それは、つまらない。せっかく、色々と小細工をして作り出したチャンスだ。じっくりと楽しむことにしよう」
ユースティアナは無表情を保っているものの、それも限界が近い。
体の震えは強引に抑え込んでいるものの、やはり、それも限界が近い。
怖い。
怖い。
怖い。
騎士団長の仮面が剥がれてしまいそうになる。
涙がこぼれてしまいそうになる。
……強く見せているだけで、彼女は、どこにでもいる一人の女の子なのだ。
(……ジーク……)
心の中で愛しい人の名前を呼んで……
ドガァッ!
それに応えるかのように、部屋の扉が吹き飛んだ。




