27話 残る疑問
「団長、洞窟の調査。及び、周辺の探索が終了しました」
「結果は?」
「邪教徒は全て捕縛、あるいは討伐しました。念の為に周囲の探索をさせましたが、漏らしはないようです」
「敵の索敵能力については?」
「……邪教徒は、全て、元は一般人。さほど、大した能力を持っておらず、私達の行動を事前に把握できたとはとても」
「なるほど」
ライラックの報告を受けて、ユースティアナは考える。
邪教徒は、明らかにこちらの動きを把握していた。
でなければ、あのように待ち構えることなど不可能だ。
情報が漏れていた。
しかし、どこから?
第三騎士団に内通者はいない。
少し前、ジークのおかげで、全て掃除することができた。
再び潜り込んでくる可能性は十分にあるが……
あまりにも期間が早い。
つい先日、入団したフェルミーは、その背景が真っ白であることは確認済みだ。
「団長。この件、もしかしたら他の……」
「そこまでです」
ライラックの言葉を途中で遮る。
「憶測で言っていいことではありません」
「しかし、他に説明が……」
「なにもしない、とは言っていません。密かに、悟られることなく。水面下でひっそりと探るように」
「はっ」
第三騎士団の内部ではなくて、外部を疑うべき。
ユースティアナの考えを理解している様子で、ライラックはしっかりと頷いてみせた。
「それと、邪神ですが……」
「見つかりましたか?」
「いえ……ただ、酔ってしまうほどの濃密な魔力が、跡形もなく消えていました。状況を考えると、消滅したと考えるのが正しいかと」
「……消滅……」
ユースティアナは、邪神との戦いを思い返した。
最初は互角。
徐々に押していくものの……
仲間を巻き込まれる戦法にペースを乱されてしまい、逆転されてしまう。
そこに様子を見に来たフェルミーが現れて、そちらに気をとられてしまい……
自らの不覚を恥じて、痛烈な一撃をもらうことを覚悟したのだけど、それはいつまで経ってもこない。
振り返り確認すると、邪神はどこかに消えていた。
「転移した、という可能性は?」
「ありません。その場合も、魔力の痕跡が残るはずなので」
「そうなると……何者かがあの場から邪神を引き剥がして、そのまま倒した?」
「まさか。そのようなことを成し遂げられるなど、ありえません」
「……そうですね。バカなことを考えました」
とはいえ、現実に邪神が姿を消したのは事実。
その痕跡を追えていないことも、また事実。
「水や食料の具合は?」
「現地調達を含めれば、あと1週間は問題ありません」
「では、あと5日、ここに滞在します。その間に、邪神に関する情報を徹底的に調べるように。討伐されたというのなら、その証拠をできる限り集めるようにしてください」
「了解いたしました」
「……ふぅ」
自然と吐息がこぼれてしまう。
無理もない。
邪教徒、邪神との戦いで、ユースティアナは誰よりも奮闘した。
今頃になってその疲労が襲ってきて、全身が重く、気だるい。
「団長はお休みになってください」
「しかし……」
「後のことは、私達だけでも十分です。団長が倒れてしまう方が問題です」
「……わかりました。お願いします」
「はっ」
ライラックは一礼して、天幕を出ていった。
一人になったユースティアはベッドに横になる。
「……私、なんで助かったのかな?」
今回の件だけじゃない。
以前、ドラゴンと遭遇した時もそうだ。
死んだ、と思うような場面は何度かあった。
しかし、こうして生き延びている。
誰かが助けてくれている。
「いったい、誰が……」
ユースティアナは枕を抱いた。
「……ジーク、なのかな?」
ふと、こぼれたつぶやき。
そこに根拠はない。
ただの直感だ。
なんとなく彼が助けてくれたような気がした。
「……ジーク……」
「呼んだか?」
「ぴゃあああ!?」
本当にジークの声が聞こえてきて、ユースティアナは奇声をあげつつ飛び起きた。
「どっ、どどど、どうして!?」
「俺がここにいるのか、って? 様子見と見舞いの両方だよ。ほら」
ジークは、手に下げた袋からりんごを取り出した。
「りんご、好きだろ?」
「う、うん……」
「剥いてやるから、ちょっと待ってな」
ジークは椅子を引っ張ってきて隣に座り、足を組んで、その上でりんごの皮をナイフで剥いていく。
ユースティアナは、その姿をじっと見つめて……
「えへへ♪」
破顔した。
「どうしたんだ?」
「ううん、なんでもないよ」
「なんでもない、って顔じゃないんだけど……」
「なんでもないの! ほら、早くりんごを剥いて。それから、あーん、してほしいな」
「わがままだなあ」
ジークと一緒の穏やかな時間を過ごして……
(まあ……今は、なんでもいいか♪)
一時、難しいことを考えるのは止めて……
ユースティアナは、大事な幼馴染との時間を楽しんだ。




