22話 罠
予定よりも早く目的地に到着した。
邪教徒が潜むとされている洞窟の手前、100メートルほどの位置に陣を展開する。
「団長、目標の確認を完了しました。情報通り、目標は洞窟内に身を潜めているようです」
斥候の報告を受けて、ユースティアナは考えるような仕草を取る。
このまま突入するか?
あるいは、もう少し様子を見て最適なタイミングを探るか?
決めかねているのだろう。
この場合、どちらが正解ということはわからない。
俺も、どちらを選ぶべきかわからない。
「団長、どうしましょう?」
「……突入します」
ライラック副団長の問いかけに、ユースティアナは決断を下す。
「事前の作戦通りに、私率いる精鋭部隊で突入。私達は、敵の主力を叩くことを目的に。続けて、第二部隊も突入。こちらはサポートに専念。それと、討ち漏らした邪教徒がいた場合は、その討伐。残りは、外で待機。後方支援に専念してください」
「「「……」」」
騎士達が揃って頷いた。
敵地の近くなので、さすがに大きな声で返事をするようなバカはいない。
「各員、準備はいいですか?」
ユースティアナの問いかけに、突入する騎士達がしっかりと頷いてみせた。
それから……
ユースティアナは、ちらりとこちらを見る。
「……」
「……」
がんばれ。
がんばるよ。
視線と視線でそんな想いを交わした。
「では……突入します」
ユースティアナの静かな合図で、精鋭部隊が一気に動いた。
――――――――――
「……状況は?」
「……敵影は未だ。ただ、気配はしますね」
「……このまま慎重に進みます」
ユースティアナとライラックが率いる精鋭部隊が洞窟内を進む。
事前の調査で、ある程度の構造は把握しているものの、全体像までは不明だ。
また、邪教徒の巣窟となっているため、罠などが設置されている可能性も高い。
慎重な進行が求められた。
「……がんばらないと」
ユースティアナは小さくつぶやいた。
ここで邪教徒を壊滅させることで、王国を守ることができる。
そこに暮らす人々の平和を守ることができる。
そして、なによりも……
「……ジーク……」
大事な幼馴染を守ることができる。
もしも邪教徒を逃すようなことがあれば、第二部隊の出番だ。
その第二部隊も逃した場合は、後方支援の騎士達が戦うことになる。
そこにジークも含まれていて……
下手をしたら、最悪の可能性もある。
彼は強い。
勘も鋭い。
でも、邪教徒相手になると……
私が守らないと。
ユースティアナは強い決意を胸に、洞窟を進んでいく。
「……」
しばらく進んだところで、先行する団員が足を止めて、ハンドサインを送ってきた。
特殊な魔法を使用しているため、暗闇でも視界は開けている。
騎士が利用したハンドサインは、敵発見だ。
ユースティアナは一つ頷いて、攻撃準備のハンドサインを出した。
邪教徒相手に、のんびりと「逮捕する」などと言っていられない。
連中は話がまるで通じないため、実力行使以外ない。
もちろん、できる限り命は取らないようにするが……
相手の抵抗具合と乱戦になるかどうかで、そこの難易度も変わる。
いざとなれば己と仲間の命を最優先にして、邪教徒を殺しても構わない、と事前に通達していた。
3……2……1……
ユースティアナはハンドサインでカウントダウンを刻んで、
0と同時に駆け出した。
開けた場所に出る。
洞窟の壁に沿うようにして、簡易な木の小屋がいくつも建てられていた。
邪教徒の隠れ家だ。
その屋根には、ボウガンを構えた邪教徒達がいて……
「総員、散開っ!」
ユースティアナは、即座に危険を感じ取り、そう命令と飛ばした。
同時に矢が一斉に放たれる。
ユースティナは剣を抜いて、一閃。
たったそれだけで、全ての矢を叩き落としてしまう。
「……待ち構えられている?」
なぜこちらの動きが読まれていた?
奇襲をかけるつもりが奇襲されたのはなぜ?
情報が漏れている?
ユースティアナの頭の中にいくつもの疑問が思い浮かんでくるものの、今は、その全てを忘れた。
考えるのは後。
目の前の敵に集中する。
「敵の陣を打ち崩します、私に続きなさいっ!」
「「「はっ!!!」」」
ユースティアナを先頭に、騎士達が駆け出して……
本格的な戦闘が始まる。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
「面白そう」「続きが気になる」と感じていただけたのなら、
『ブックマーク』や『☆評価』などで応援していただけると嬉しいです!
皆様の応援がとても大きなモチベーションとなりますので、是非よろしくお願いします!




