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19話 秘密のデート

 次の休日。

 俺は、ユースティアナと一緒に街へ繰り出した。


「ねえねえ。私、どうかな?」


 ユースティアナはにっこりと笑い、その場でくるっと回ってみせた。


 そんな彼女の衣服は、白のワンピースを中心にまとめている。

 清楚なユースティアナのイメージにぴったりで、良い感じに魅力を引き立てていると思う。


 ただ、長い髪はまとめて、その上に帽子をかぶり……

 度の入っていないメガネをかけている。


「うん、良い感じに変装できていると思う。簡単なものだけど、髪を隠してメガネをかけるだけで、だいぶ印象が変わるな。これなら、たぶん、バレないと思う」

「そうじゃなくて」

「うん?」

「えっと……ほら。他に言うことがあるんじゃない?」


 ユースティアナは、きらー、っと笑ってみせた。

 モデルのように輝いている。


「……ああ、そういうことか」

「うんうん!」

「念の為、偽名を考えておかないとな」

「ジークのばか!」


 なぜか怒られた。


 ……なぜ?




――――――――――




「楽しかったね!」


 劇を鑑賞して、ユースティアナの機嫌は元に戻ってくれた。


「愛し合う二人……でも、そこに立ちはだかる障害。二人は運命に否定されているかのようで、でも、それでも諦めることなく前に突き進む……素敵♪」

「ティアは恋愛ものが好きだなぁ」


 ティアというのは、ユースティアナの偽名だ。

 安直なネーミングだけど、呼びやすさを優先した。


「当たり前だよ! 恋愛は人生の糧なんだよ? 生きる上で、絶対に欠かせない要素なんだよ?」

「言い切った」

「恋愛のない人生なんて、モノクロの世界と一緒。第一、私達、人間という種族が続いていくことができるのは、恋愛をしているからだよね」

「壮大な話になってきたな」

「……私も、あんな恋がしてみたいなー」


 ちらっと、ユースティアナがこちらを見てきた。


「ティアなら、できるんじゃないか? お見合いをしたいといえば、たぶん、百人以上から申し込みがあるだろう」


 うちの団長は氷の妖精として恐れられているものの……

 なんだかんだファンは多い。

 彼女と結婚したい! という人は多いだろう。


「そうじゃなくて……」

「打算を持つヤツがいるかもしれないから、それは嫌、ってことか? まあ、気持ちはわかるけど、それはもう、どうしようもないんじゃないか?」

「だから、違くて……お見合いを否定するつもりはないんだけど、それよりも、普通に恋愛をしてみたいなー、って」

「出会いを期待している?」

「えっと、すでに出会っているというか……もうっ、なんでジークはわからないの! ばかっ」

「痛い!?」


 再び怒られてしまう。


 だから、なぜだ……?




――――――――――




「あーむ」


 ユースティアナは幸せそうな顔でアイスクリームをぱくりと食べた。

 その瞳がキラキラと輝く。


「ふぁあああ、美味しい♪」

「確かに。露店だからあまり期待してなかったけど、これ、下手すれば店よりも美味いな」

「だよねだよね! 甘さがしつこくないっていうか、自然な甘さっていうか……うん。これなら、いくらでも食べられちゃいそう」


 ユースティアナは笑顔でアイスクリームを食べて……

 ふと、その視線がこちらに向いた。


 正確に言うと、俺が持つアイスクリームに向けられていた。


「……」


 おい、ちょっとよだれが垂れているぞ。

 氷の妖精がそんな姿を見せていいのか。


「あー……一口、食べるか?」

「いいの!?」

「そんな顔をしておいて……まったく。ほら」


 ユースティアナにアイスクリームを差し出した。

 彼女はにっこり笑顔になり、ぱくりと食べる。


「んーーー♪ こっちも美味しい!」

「遠慮なく、思い切りがぶりといったな……」


 三分の一くらいなくなったぞ。


「っと……ティア、そのまま」

「え?」


 そっと、ユースティアナの顔に手を伸ばす。


「えっ、えっ……じ、ジーク……?」

「いいから、じっとしてて」

「……ん……」


 ユースティアナが目を閉じて……


「よし、取れた」

「ふへ?」


 頬についていたアイスクリームを拭う。


「もっと綺麗に食べないとダメだぞ」

「……」

「ティア?」

「もうっ、もうっ、もうっ!」

「いたたた!? だから、なんでだ!?」


 三度、ユースティアナに怒られてしまう。


 ……女の子は謎だ。

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【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
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