新手の騎馬部隊
真名鶴様よりレビューいただきました! ありがとうございます
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1062年9月下旬 イタリア北部 サルマトリオ男爵領 アデライデ・ディ・トリノ
私たちの前方に傭兵と思しき歩兵が50名。
騎馬で突撃するには少し遠い場所に展開しています。
一方、私の部隊は100名強。幸い私たちの方が人数は多いのです。
しかも騎士と従騎士があわせて30騎もいます。
歩兵を蹴散らすだけなら容易いことでしょう。
しかしこちらには絶対に守り切らなければならないジャン=ステラがいます。
傭兵達がジャン=ステラの殺害だけを遮二無二狙ってきた場合を想定し、守りに人員を割かなければ。そうなると、わが軍にそれほど余裕はありません。
それでも早急に前方の敵を打ち破らなければ。
時間をかけていたらサルマトリオ男爵率いる反乱軍と挟み撃ちされる危険がある。
それだけは避けなければ。
焦る気持ちを抑えつつ、いざ騎馬突撃の命令を下そうとした時、さらなる悪い知らせがやってきました。
「伝令! 敵軍歩兵の後ろにさらに一軍あり。その数50。うち半数は騎馬」
「所属は?」
トリノの町まで援軍要請の早馬は出しましたが、到着するには早すぎます。
どう考えても合流できるのは明日になるはず。
トリノの常駐部隊でないとすると、一体全体どこの軍隊なの?
ーー やはり敵なのでしょうか
騎馬交じりの軍が敵だった場合、わが軍の数的優位性、騎馬という質的優位性の両方が失われてしまう。
動揺が態度にでないように気を付けつつ、誰の軍隊なのかを問いました。
「軍旗はあれど、所属不明」
ーー また? また所属不明なの?
女性のような叫び声をだしそうになるのを意思の力で押しとどめました。
指揮官は泰然と構えていなくては。
傭兵と思しき前方の歩兵と同じく、騎馬部隊も所属不明とは何たる事でしょう。
やはり所属を隠した傭兵部隊なのかしら。
いえ、待ってください。
軍旗が掲げられているのですよね。
それにもかかわらず所属不明とはどういう事でしょう。
「軍旗があるのに所属不明とはどういう事ですか!」
思わず伝令を叱責していました。
「も、申し訳ございません。見たことがない軍旗が掲げられているのです」
「見たことがないとは何事? 説明を!」
「掲げらえていた軍旗は、空を模した青地に黄金の太陽と4羽の鳥。その下に雲海。
神聖ローマ帝国内の軍旗、南イタリアの軍旗、フランス王国の軍旗ではありませんでした」
そうでした。
敵情を視察する伝令が軍旗を知らないはずがありません。
記憶を辿りましたが、そのような軍旗は私にも覚えがないのです。
ーー 一体どこの諸侯軍なのか……
不安が高まり、喉が痛いほどの渇きを覚えます。
ですが、時間を浪費するわけにはいきません。
犠牲は出るかもしれませんが、前方の歩兵を蹴散らし、そのまま騎馬部隊を突破するしか手はなさそうです。
それにしても、この規模の謀反ならサルマトリオ男爵一人の企てではないのでしょう。
生き残ったら全員に血の制裁を加えることを神に誓います。
「前進開始!」
未だ敵陣は遠すぎます。
馬が敵陣にたどり着く前に失速しては意味がありません。
騎馬突撃で混乱した敵陣に歩兵が突入できなくてはなりません。
ーー まだまだ遠い。
騎馬突撃が有効な位置まで、ゆるゆると軍を進めます。
敵歩兵の顔が見え、その遠く後ろに軍旗を掲げる騎馬部隊も見えてきました。
ーー おちつけ、おちつくのよ、アデライデ。敵陣はまだ遠いのです。
自分自身に呼びかけては、逸る気持ちを抑え続ける。
ーー 弩の射程圏までもう少し…
幸い敵からの射撃はなく、投石もない。
ーー あと10歩。9、8、7……
心の中で数える。
ーー 3、2,1!
「射撃と投石!」
弩と弓を持つ者はボルトと矢を放ち、持たない者は石を敵陣へと投げつけます。
ーー 敵陣が乱れあり。 今です!
「神の栄光は我らにあり! 敵を切り裂けー 騎馬隊突撃ぃ!」




