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矜持 ①

「以上がケレルマン閣下からの報告であります!」


 師団から送られてきた伝令から報告を聞いた昼食中のランヌは、焼いた鳥の足とマッシュポテトを自ら皿に盛って伝令に差し出す。


「早馬に揺られて疲れたじゃろう。腹ごしらえをしたら師団に戻りなさい」


「ありがとうございます! いただきます」


 ケレルマンからの報告を聞いたランヌは、直ちに第一軍団の主力を率いて、バルトロメウ要塞の東側へ密かに迫った。

 耳に手をあててみれば、西の遠方から激しい砲声が聞こえてくる。


「帝都の建国祭を思い出すわい……」


 瞼を閉じるランヌの脳裏には、色とりどりの花火が打ち上がる年に一度の祭典が思い浮かばれていた。

 

 辺境の農村から出てきた青年には刺激的すぎる華美さで、陸大の同期連中と年頃の少女をナンパしていったものだ。

 宮殿のバルコニーから民衆に手を振る先帝の凛々しい姿も、強く印象に残っている。

 陸大を次席で卒業した後は前線勤務に志願し、砲兵士官として各地の鎮圧任務やらに従事した。

 このとき首席で卒業した秀才が、現在の統合参謀総長カールハインツである。

 数年経つ毎に順調に階級も上がってはいったものの、武功らしい武功は実のところあまり無い。

 というのも帝国内における諸民族の反乱などごく一部の過激派が声を荒げる程度であった上に、対外的な問題には海軍が幅を利かせていたのだから、陸軍としては活躍の場が殆ど失われてしまった。


 誰の目にも、海軍が主で陸軍が従という構図が映った。

 それが陸海確執の原因でもあるのだが、ランヌ個人としては、そんな確執などはどうでもいいことだった。

 むしろ、海軍が矢面に立ってくれるなら、手塩にかけて育ててきた陸兵たちを失わずに済むのだから、礼を言いたいくらいだと考えていたのである。

 このまま平穏無事なまま予備役に入り、晴れて名誉の退役をした後には、隠居して本でも書いて過ごそうかと思っていた。

 しかし、かくの如く戦時ともなれば、全身全霊を以って軍人の義務を果たさねばならない。

 ランヌから見れば孫娘に等しい君主の為に。


「いや、あのお転婆を孫にするにはちと持て余すのぅ。癇癪を起こされてはかなわん」


「は? 閣下、今何か仰られましたか?」


「いやいや気にするでない。それよりも、ケレルマン君を早く助けてやらねばなるまいて」


 あの要塞を攻略し、拠点とすることが出来るならば、エスペシア島を実質的に占領することが出来る。

 その間に海軍が制海権を確保してくれれば、他の島を攻略した第二、第三軍団と合力して、王国本島への侵攻が可能になるのだ。

 そうすれば帝国の勝利は疑いない。

 故になるべく要塞を傷つけず、帝国軍にとって即戦力となるように奪取せねばならないのが、最も彼の頭を悩ませる点であった。


 聞くところによると、あのヘンリー・レイディンが攻略したサン・フアン要塞は彼が完全に破壊して瓦礫の山にしてしまったが為に、海軍は帝国本土から南方王国まで休みなく移動せねばならず、かなりの不満が沸いているらしい。

 件のヘンリーはそのような不満など何処吹く風で、今もエスペシア島へ往来する補給船団の妨害に勤しんでいる。


 ランヌも彼についての評判はよく耳にしていた。

 大体のところは宮中で囁かれているような、粗暴で野卑な成り上がり者、といったところではあったのだが、出身が平民であるランヌからすれば些か貴族連中の妬み僻みが過ぎる噂だと思った。

 是非一度会ってみたい、とすらランヌは考えていた。

 さぞ面白い人物に違いない、と童心のような無邪気な期待があった。

 ともあれ、今は目の前の仕事に専念せねばならない。


「なるほど。見るからに堅牢じゃのう」


 望遠鏡でバルトロメウ要塞の砲塁や城壁を観察したランヌは、白髯を撫でる。

 同時に城壁に駐留する兵士の数が少ないことにも気がついた。

 どうやら敵はケレルマンの陽動にまんまと釣られたらしい。

 要塞内にどれほど残っているのかは分からないが、増援を送り出す様子も無く、要塞内の兵力が一個師団にも劣ると判断したランヌは、攻撃の開始を決断した。


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