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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第四章 〜王都血盟編〜
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16:マキア、昨晩の事を思い出す。

*二話連続で更新しております。ご注意ください。



ユリシスが朝早くに見舞いにきてくれました。

彼は少しして今日の公務のための準備に向かいました。私は彼が持って来てくれた教国の、地下庭園の花を見つめます。


神聖な空気が部屋を漂い、とても気分が良い。

私は本を読んでいました。1000年前の、歴史の本です。


今まで勉強なんて、与えられたものしかして来なかったけれど、私はもっと知りたいと思っていました。

1000年前、青の将軍が何を野望とし、藤姫が何を成し、聖灰の大司教が何を創ったのか。


何を大業とし、死んでいったのか。


そう思えたのは、昨日の晩、藤姫に話を聞き、勇者と“取り引き”をしたからです。

でも、それはユリシスとトールには秘密でした。








これは、私が悪夢にうなされ、目覚めてトールに泣きついた後の事です。

トールがこの部屋から出て行って、しばらくした夜の事。


心を落ち着かせ、まず私がしなければならない事は、勇者にちゃんと呪いの事を聞かねばならないと言う事でした。


青の将軍の呪い……それがいったいどのようなものなのか、知らなければどうすれば良いかも分からない。


私はマントを羽織って、部屋の外の庭園から王宮を抜けました。

夕方、勇者に聞けなかった事を聞く為に。





夜の港はとても静かで、見上げた空の上のヴァルキュリア艦が、赤い点々とした光を点滅させています。不思議な光景です。

ルスキア王国には無かった空気が、今、港の上に存在しているのです。

あの戦艦に、勇者が居る。


「とは言え、ここからどうやってあの場所に行くか、よねえ。そもそもこんな時間に尋ねて迷惑じゃないかしら。既にパーティーは終わっているはずだから、帰ってきているとは思うんだけど……」


勇者に対し迷惑かどうかを考えるのも違和感がありますが、一応。

勇者、寝てるんじゃないかしら。そもそも勇者って寝るのかしら。あいつ人間なのかな。


ここまで考えました。


「……どうかいたしましたか?」


いきなり、背後から声をかけら、私はビクッと反応してしまいました。やましい事をしている訳じゃ無いのに。

振り返ると、黒いローブを着た鉄仮面の男が一人、立っています。


ソロモン・トワイライトでした。


「あ……ああ、えっと、レピスのお兄さん」


「はい、レピスの兄です」


ソロモンは笑顔で手を胸に当て、頭を下げました。

レピスがいないからかとても落ち着いていて、物腰柔らかで紳士的ではありますが、体を動かす度に金属の擦れる様な音が聞こえるので、やはりトワイライトの者だなと、私は瞳を細めます。


「ヴァルキュリア艦からあなたの姿を確認したので、お迎えにあがりました。カノン将軍と、シャトマ姫がお待ちです」


「……はは、あっこから私が見えたの?」


「ヴァルキュリア艦は最新型の戦艦です。トワイライトの空間魔術を駆使した結界が、一帯を見張っております。あなたの存在はすぐに見つける事が出来ましたよ。特別赤くセンサーが反応しましたから」


「……そう、はは」


魔力でも察知するのかしら。


ソロモンはニコリと笑って、私に手を差し出しました。

雰囲気こそ違えど、やはりとてもトールに似ていて、若干複雑です。随分大人っぽいですけどね。


「お手をどうぞ、マキア嬢。転移致します」


「………」


差し出されたほうの手には黒い手袋がはめられていましたが、見える手首の部分は鋼色をしていて、やはりその手を取るととても冷たく人肌の感触はありませんでした。


手を取った瞬間、パッと変わる視界。

四角いガラスの箱に入った様な、透明の板を挟んだような歪んだ目の前の世界に、私は思わず瞼を閉じました。


ふわりと浮遊感に襲われ、足が再び平らなどこかに着いたと分かってから、私は目を開きます。


「着きましたよ、マキア嬢」


「………」


ソロモンが手を離します。私が彼に「ありがとう」と礼を言うと、彼はニコリと微笑みました。

私は一歩前に進もうとすると、ふらつきました。


「酔いましたか?」


「い、いいえ? 別にそう言う訳じゃ無いけれど、変な感覚よね転移魔法って。昔から得意じゃないのよ」


「ははは、トワイライトの者はこう言った魔法を常に使うので慣れています。マキア嬢の様な反応は新鮮ですね」


彼が再び手をかしてくれました。私はやっと、周囲に意識を向ける事が出来ます。


そこは白く開けた空間。

つるんとした素材の壁が、所々青白く光るライトに照らされています。


私がぼんやり、その一風変わった場所に目を奪われていると、いつの間にやら前方に人が。


「ようこそ、紅魔女。我がヴァルキュリア艦へ」


鈴の様にコロコロとしていて、でもどこか凄みのある声。

既に軍服を脱ぎ、フレジール風の透けた薄布を重ねたドレスを着たシャトマ姫が、扇子を口元に当て、私を待っていた様でした。

藤色の長い髪を緩く二つに結って、いつもの雰囲気とは少し違います。


後ろには、変わらず軍服を身につけた勇者……カノン将軍が。


「そなたがここへ来た理由は分かっている。カノンに、聞きたい事があるのだろう? そなたがやってくるのではと思って、妾も舞踏会からさっさと帰ってきたのだから」


「……ええ。青の将軍の呪いについて……教えて欲しい事があるの」


私はシャトマ姫をまっすぐ見て、答えました。

シャトマ姫は瞳を細め、クスッと笑い扇子で顔を隠します。


確か、シャトマ姫は1000年前の魔王クラス。青の将軍と同じ時代を生きた存在です。


「こっちへ、紅魔女」


彼女は私を連れ、長い廊下の奥にある部屋へ案内しました。

廊下の途中、小さな窓の様なものがありそこから外を見ると、ルスキア王国の夜の街を見下ろす事が出来ます。まだぽつぽつと灯がついていて、祭りの週の賑わいを感じられます。


通された部屋は、東の大陸風の、どこかエキゾチックな装飾の多い、不思議な匂いにする部屋でした。


「ソロモン、お前は控えておれ」


「は、シャトマ姫」


ソロモンだけは、扉の前で控えろと命じられ、部屋へ入ったのは私とシャトマ姫と、カノン将軍。

魔王クラスの3人だけでした。








「さて、紅魔女。聞きたい事があるのだろう?」


「ええ。私は夕方、そこのカノン将軍に、青の将軍の呪いにかかっていると言われたのだけど、私は何もかも訳が分からないのよ。青の将軍なんか、会った事がないもの。それに、その呪いが本当なら、私はいったいどうなってしまうのか……正直に教えてもらいたいの」


「………」


甘い蜜のような香りが、部屋に漂っています。それは、シャトマ姫の体からいつも香る甘い匂いでした。

丸い、細かな彫刻の施されたテーブルの上には、透明の椀に注がれたジャスミンのお茶が。

シャトマ姫はそれをスッと飲んで、チラリとカノン将軍のほうを伺いました。


「懐かしいのお、カノン。青の将軍の呪いだと。……1000年前の妾の、真の死因だな」


「……え」


シャトマ姫がクスクス笑いながら、隣のカノン将軍の腕をちょいちょいと突きました。カノン将軍はちらりとシャトマ姫を見ただけで、特に何も言わず。

私は思わぬ事を知り、呆然。


「紅魔女、青の将軍に会った事が無いと言っていたが、奴は人の精神を崩し、肉体を乗っ取る事が出来る嫌らしい魔術師だ。お前が今まで会った者の中に、一人、青の将軍が居ると言う事になる。それも、ただすれ違う様な存在ではない。言葉を交わし、体に触れる事が可能な者……。呪いをかけることができる条件は、その大きさによって違うけれど、主に“言葉の条件”と“接触の条件”、そして最も難しい“精神の条件”がある」


シャトマ姫は私に、どういう意味か分かっているかと言いたげな瞳です。

私は少しだけ考えてみました。しかし、良く分からないと言うのが正直な所。


「青の将軍の呪いは……要するに死んじゃうの?」


思いきって、聞いてみました。

シャトマ姫はさっき、自分の1000年前の本当の死因が、青の将軍の呪いだと言っていました。


「いいや……確かに死をもたらす呪術もあるし、妾にかけられていた呪いはそちらに近い。だが、紅魔女……お前の呪いは……」


「肉体を乗っ取る呪術の方だ」


勇者がいきなり、断言。

シャトマ姫が「お前はいきなり喋るな」と、少々驚いています。


「肉体を? どういう事?」


「……言った通りだ。青の将軍はお前の肉体を乗っ取り、その魔力、能力ごと手に入れるつもりだ。……奴の最も厄介な能力は、自身の意識を7つに分け、常に7人の肉体を乗っ取り意識を分散させる事が可能な力だ。本体がどれなのか、それを知っているのも本人のみ。乗っ取った肉体を殺しても奴を殺した事にはならない。乗っ取った体の場合、その本体の名を使うため名前魔女によって暴く事も不可能。奴の本名も不明。常に捨て駒としての肉体を3つは用意していて、それらは定期的に別の肉体に乗り換えている。……7つの肉体に分けた自身の意識によって、奴は世界中に散らばり、世界を動かしているのだ」


「………」


絶句。

青の将軍の能力は、他人の体を乗っ取る事だとトールに聞いていましたが、改めて聞くと本当に厄介で、ある意味最強の力なのではと思ってしましました。

ジワジワと、体の奥底から浸食されている様な感覚に、私は震えそうになり、息を飲みます。


勇者は続けます。


「奴の呪術で、代表的なものは、殺人を目的とする呪殺。これの条件は主に相手に“好意を抱かせる事”。もう一つの呪術……肉体を乗っ取るための条件は、相手に自分を“信頼させる事”。……これらは特定の言葉を必要とし、呪いを相手の肉体にかける条件でもある。相手に触れながら、自分を好いている、信頼している……という旨の言葉を、嘘偽りで無い精神状態で言わせる事。これにより、呪いの種を相手の体に埋める」


「…………好意……信頼……」


ドクン……と、胸が高鳴りました。

記憶を遡り、それらを私に求めた人物を探します。


「種が芽吹くまでに、ひと月からふた月、場合によってはそれ以上時間がかかる。この間、相手に呪いの事を悟られてはいけない。呪いの潜伏期間であれば、この呪術は簡単に破る事が出来る。条件や時間差など厄介な点が多く、この呪術は色々と面倒事も多いが、種が芽吹いてしまえばもう手遅れだ。どのような大魔術師にも、術を解く事は出来ない。この呪術を解く事が出来るのは、青の将軍本体のみだ」


「………」


それは、ほぼ術を解く事が不可能である……と言う事を意味していました。

本体は、この世界のいったいどこに居ると言うのでしょう。青の将軍の能力は、解術まで難しいよう手を打たれています。


種が芽吹いたか芽吹いていないか……それは私には良く分かっている事です。

その感覚は、確かに私を襲ったのですから。


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