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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第三章 〜王都要塞編〜
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31:トール、あえての話。



トールです。月明かりに照らされた雪を眺める庭先での事。

俺は、何故か一生一人身だと信じ込んでいるマキアに、あえて聞いてみた。


「そうは言うが、俺とお前と言う選択肢は無いのだろうか。……か、勘違いするなよ、一つの例として聞いているだけだからな……」


「え、それは無いでしょう?」


「………」


あっさり否定された。勘違いするな〜の下りが虚しい。


「……なぜだ? あえて聞こう」


「2000年前に、あのところかまわず手を出していた黒魔王にすら相手にされなかったのよ紅魔女は。もし私たちと言う選択肢があるなら、まず黒魔王に選んでもらっていたわよ」


「…………」


マキアの澄み切った瞳が、それを本気で信じている事を証明していた。

そして俺は考えた。確かに、何であの時代、黒魔王は“紅魔女”を選ばなかったのか。


「それに私は、あんたのタイプじゃないでしょう?」


「え……そうなのか?」


「そうなのかって、そうでしょう。あんたの好きなのは、か弱い儚い、一人じゃ立ってられそうにない薄幸の美女でしょう?」


「いや流石にそこまでは………」


とは言え妙に否定出来ない。

黒魔王は確かに、立場の弱かったり、虐げられていたり、不幸な運命を背負ったような女性を連れて来ては側に置いた。

弱い者を守ってあげなければという、妙な信念が黒魔王にはあった。


「あーもう。やだやだ、こんな話していたら、いっそう虚しくなってくるわ。私、もう寝るから」


「あ、ああ。………おやすみ」


「おやすみなさい、トール」


マキアはベンチから立ち上がると、背伸びをして部屋へ戻って行った。

その背中は、若干15歳にして今後もお一人様であると悟った寂しさが、妙に漂っている。


普通におかしい。


「………」


俺はまだそのベンチに座って、寒さをあの時代に重ね、考えた。

確かに、多く妻を持った俺が、なぜ紅魔女を自分の元へ呼ばなかったのか。


誰より早く、彼女とは出会っていたはずだ。

今思えば、結構不思議な事だ。紅魔女は誰より美しかったし、誰より俺の力に理解があった。そして、誰より俺に近い存在だったはずなのに。ある意味もの凄く特別だったはずなのに。


「………不思議だ」


単純に気になった。

しかしその事をより考えるには、俺は記憶を中途半端にしか振り返らなかった。


大切な後半を、まだ夢に見ていない。










次の日、俺はユリシスと共に魔導研究機関を訪れた。

昨晩の巨兵の映像を見てから、ユリシスは自国の研究の様子が気になったのだろう。魔導回路システムと、残留魔導空間の軍事利用の研究を。


研究はなかなか順調に進んでいて、特に残留魔導空間を利用しようと言う事になってからは、魔導回路を海辺に優先的に敷いてきた。

トワイライトの一族のエンジニアが大変優秀で、実用化にはまだ時間がかかるが、利用に現実味を帯び始めるほど順調に事は進んでいる。流石は俺の子孫達。魔導研究員にはなかなか言っても伝わらない事が、彼らには一言えば三ほど理解してくれる。


残留魔導空間の研究の責任者をしているオルセイ・トワイライトは、レイモンド卿も信頼している中年の男だが、こいつがまたやり手だ。


「おお、これはこれは、殿下にトール様、よくぞこんな場所まで」


「オルセイ、最近来れなくて悪かったな」


「いえ、ご指示はずっと頂いていましたから、難なく計画は進んでおりますよ」


オルセイは精悍な顔つきの男だ。他のトワイライトの一族と違って、魔術師と言うよりはどこか騎士っぽい雰囲気がある。

実質ルスキア王国に来ているトワイライトの一族を取りまとめているのはこの男だ。


「きゃあ、ご先祖様だわ!!」


突然、甲高い悲鳴が聞こえた。

俺は少しビクッとする。この声は、キキルナ・トワイライトだ。以前一度会った事がある。黒髪をツインテールにした、つり目の少女だ。


「や、やあ……キキルナ」


「どうしてずっと研究室に来なかったの?」


「護衛の仕事があったんだ。すまない、君たちに任せてばかりで」


「きゃははははっ。それは別にって言うか。だって、ご先祖様どうせ魔導回路とかチンプンカンプンでしょう?」


「…………」


キキルナの言う事は最もだが。

オルセイはキキルナの頭を小突くと「失礼な事を言うな」と叱った。









ユリシスは魔導回路システムの方に、俺は残留魔導空間の方にそれぞれ指示を加え、どのようなものか詳しく見てまわってから、また合流した。ちょうどお昼頃だったが、二人ともそれなりにげっそりして。


「頭を使うとお腹空くよね」


「………考える事が多すぎて、お前なんて過労死しかねんぞ」


俺たちは研究機関の食堂でランチを食べた。

その時、俺は少し気になって、ユリシスに聞いてみる。


「おい……ペルセリスとは上手く行っているのか?」


「………え、うん。いたって順調だと思うけど。僕が忙しくしていても、彼女は僕の事に理解があるし、マキちゃんと良く会っているようだし。むしろもっと拗ねてほしいくらいだよ。………どうしたの急に」


「いや、そのちょっと……昨日マキアと……」


「何また喧嘩したとかそう言うオチ?」


「いやいや、違うんだが」


俺は昨晩の会話の事をユリシスに話した。

紅魔女と黒魔王について。そしてマキアと俺について。


ユリシスは笑顔のまま、フォークに刺さったミニトマトをポロッと落とした。


「何か……何か変に深く考え過ぎじゃないか? 百戦錬磨と言われた黒魔王が何をそんな」


「本当だよな……俺はどうしてこんな事に……」


「僕は確かに前世の妻だった緑の巫女と、結果的にまた結ばれたけれど、だからこそあえて言おう。前世と今は、別だ」


「………」


ユリシスは再びフォークでミニトマトをさして口にした。

俺はグラスのプレーンの炭酸水を飲む。


「前世で好きだった人を好きにならなくてはいけない訳じゃないし、前世で恋人じゃなかったからと言って、現世で結ばれてはいけないわけじゃないよ。単純な話じゃないか。今、どう思っているかっていう事が一番重要なんじゃないかな」


「…………今、ねえ」


「むしろ僕は、君とマキちゃんは僕に黙っていい感じなのかと思っていたよ」


俺は炭酸水を盛大に吹き出した。


「……は?」


「いや、周りから見ていたら、普通に“お前らとっとと結婚しろ”だから」


「……」


ユリシスは笑顔で恐ろしい事を。


「僕はずっと不思議だったよ。黒魔王はなんで紅魔女を妻に迎えなかったのか」


「いやいやいや、まあ確かにそれは俺自身も気になっている事だが。そもそも、紅魔女はそれを望んでいたかも分からないのに」


「………本当にそう思っているの?」


「………?」


ユリシスは困った様に笑った。

何かムカつく顔だな。


「まあ、君たちの問題だから変に口を挟みたくは無いけれど。……でも、一つ言うならば、今の段階で君にとってマキちゃん以上に大切な女性が居るのかって話だ。マキちゃんは大切だろう?」


「そ、それは当然……。でもお前だってそうだろう」


「それはそうだけど。でも、君と僕は違うと思うけどなあ」


「………」


「もっとシンプルに考えなよ。せっかく新しい人生を頂いたんだ。今度は、誰と一緒に人生を添い遂げたいのか……。君を絶対に裏切らない人は誰だい?」


「………」


「君らは誰よりお互いを知っているくせに、何も知らないよね」


ユリシスは食後の温かい紅茶を飲んで、矛盾めいた事を言った。

俺はまた妙に複雑なドツボにはまっている。ハーレム大魔王とはいったい何だったのか。


「まあ……そもそも、そう焦って考える話でもないと思うよ。まだ若いんだし。ゆっくり考えなよ」


「お前に言われたくねえよ………。てかお前、ペルセリスと上手くいってから、何か変わったよなあ」


「そう?」


ユリシスはきょとんとしているが、随分変わった様に思う。

家庭を持った男の強みか。


「そうそう………マキちゃん、随分気にしていたよ君の事……。君が、大怪我してから、ずっと側にいたんだから。自分のせいで君があんな事になってしまったって言って、泣いていたよ」


「………」


そうだったのか。

あいつは本当に……最近涙もろいな。








俺は研究機関を出てユリシスと別れた後、王宮へ向かった。

とりあえずマキアに礼を言っておきたかった。



「あ、トール!! 丁度良いところに来たわね………どうしましょう」


俺が庭先からマキアの部屋を尋ねると、彼女はいつもより慌てた態度で、俺を招いた。

一体何があったのか。


彼女はどこか焦ったような、でもどこか浮かれた様にも見える。


「さっきレイモンド卿に呼ばれていたのだけど、私……いくつか縁談の話が来てるんですって!!」


「…………へ?」


目が点。

目が点になる俺。


おいおいマキアは15歳になったばかりだぞ。いや、この国では15歳から結婚出来る。

まさにこの歳になるのを待っていたと言う事だろうか。いや確かに、マキアは貴族の令嬢だし良い歳だし、おまけに優秀な魔術師だから、魔導一門からは嫁に来てほしいと思われるのかもしれない。



「私、こんな話来た事が無いから、どうしようかと思って」


「お、御館様は!! 御館様に許可を取らないと行けないだろう?」


「レイモンド卿が既に連絡を入れてくれていて、お父様は私の好きな様にしなさい、ですって」


「………」


俺ははにかんだ笑顔を浮かべ、尋ねる。


「お前その話、受けるのか?」


「まっさか〜。一般人と上手く行く訳無いじゃない。途中で年齢、止まってしまうかもしれないのに」


「………そ、そうだよな……」


「それ以前に凄く怪しい縁談が一つあるの。……エスタ家からの申し出よ」


「………それって」


「ええ。完全に裏があるわよね。でもレイモンド卿は不思議な話では無いって言うの。そもそも、私ほどの力を持った若い娘の魔術師を、大きな魔術一門が見逃さないって。常に優秀な血を求めているのですって」


「し、しかし……」


「当然最終的にお断りするけれど………レイモンド卿に、会うだけ会ってみてくれって言われているの。まあ探りを入れろってことね。やっと私の出番かしら」


「…………」


俺は少し顔をしかめて、力の入った拳のまま、彼女の部屋から廊下へ出た。

マキアは驚き、慌てて俺を追いかける。


「ちょっと、どうしたのよ!」


「……レイモンド卿に文句を言って来るだけだ。それは危険すぎる」


「何が危険だって言うのよ。私を誰だと思っているの? あんな魔術師一門の輩に負けたりしないわ」


「……そう言う問題じゃない!!」


「だ、だったら何だって言うのよ!!」


廊下の真ん中で妙に言い合っている俺たちに、メイド達は驚き、ヒソヒソ噂話を始める。

「痴話喧嘩かしら」「痴話喧嘩ね」と。


俺は頭を抱え、とりあえずレイモンド卿の元へ行こうと思った。

マキアがぎゃーぎゃー後ろで文句を言って俺の腕を引っ張っていたけれど、そんな彼女を引きずる様にして。



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