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90 サブちくわ その1

「そんなに除霊がしたけりゃあ……」


 亡霊はオーソドックスな色合いのちくわに乗った。


「レースでブチ抜いてみろやッッッッッ!」


 言い草は駿馬そのものだ。


《ムービーが終了しました》






 菊池の口角が上がる。着ていた袈裟はムービー終了と共に消え、いつもの服装に戻った。


「来いやッッッッッ!来いやッッッッッ!」


 亡霊は煽りながら墓場を時計回りにグルグル回る。


 いつか決着は付けるつもりだった。


 目の前にレースに関するウインドウ。今回のレースの勝利条件はチームの誰かが亡霊の前に出るだけ。参加人数は無制限。メンバーは法人に入っていなければならない。


 離凡は下半身を生まれたての馬のように震えさせている。岐阜は法人に入れていない。法人加入はここではできない。意志の確認は他の菊池流が揃ってからにした方が良さそうだ。彼らはなんだかんだ3人セットだと菊池は思う。バラけさせるとそれぞれ暴走するだろう。


「菊池さん、僕やりますよ」


 ビビりながらも離凡は参加を表明。菊池は頷き、岐阜は相変わらず瞑目のまま手と手で幸せ。……除霊とは。





 離凡をPTに入れ、ウインドウでレース参加手続き。


 相手のちくわはスケトウダラと判断。レガシークエストにどこまで引退プレイヤーの意志や意図やプレイスタイルが反映されるか不明だが、本気の菊池駿馬は絶対にスケトウダラだ。


 逆にそうでなければ菊池駿馬では無い。ブラ●ブロやらビグ●ムやらエル●スやらジオ●グやらサイコガ●ダムやらキュベ●イやらクイン●ンサやらサ●ビーに乗った東方●敗はなんか……こう、違うだろう。そう言う感覚だ。


 なら自分はどうするか。


「僕は鮭で行きます」


 離凡はそんなに素材を持っていない。菊池は種類はあるが……


「塩……牛肉……」


 なんか自動でちくわにされていた。性能が怖い。高ければ逆にそれはそれで嫌だ。蟹はあるが使いたくない。勝っても負けてもしこりが残る。


「アタシも鮭で行くわ」


 レース開始を選択。が、選択していない項目があるとアナウンス。


「サブちくわ登録?」


 見たことがない。なぜか離凡が鼻の穴を拡げて歌うような真似をした。スルー。


 スワイプする。【無し】か【クバリちくわ】のみが選択できる。ちくわフィンガーと呼んでいたアレのことだろう。残りは3本。


 生命養殖、か。


 残りの1本を離凡に渡す。


「さっきの……アタルさんが養殖したちくわと同じ感じですね」


 喝ッッッッッ!


 見えない何かと闘う岐阜が吠えた。スルー。離凡もスルー。


「アイテムボックスから出せたけど、サブちくわ登録で何か変わるのかしらね?」


 できれば(これまでのちくライダーの概念に収まる範囲で)フェアに闘いたいが、ここで新たな要素が出てきたのには……絶対に意味があるはずだ。


「離凡君、あの相手は……アタシが知ってる中でも1番の強敵よ」


 望むところです、と離凡は強く頷いた。生まれたての子馬だった両足の武者震いはすでに止まっている。


「僕は成長したい」


 離凡の目的はちくフルを楽しむのでは無い。(実際良い影響があるのか疑わしいが)獲得した技術のリアルでの応用だ。


 勝敗は二の次なら別に良いか、と菊池は心配を止めた。残虐ファイトでボコボコにされても喪う何かを持っていないなら大丈夫だろう。






 レース開始を選択。


 菊池と離凡の前に鮭ちくわが1本ずつ。それぞれの小指にちくわフィンガーが1本ずつ嵌められている。亡霊は相変わらず墓場をクルクル回っていた。岐阜はしあわせ続行中。


 ちくわに乗って一定距離を進むと亡霊が追いかけて来て、抜かれた瞬間からレース開始になるとアナウンス。


「抜かれた瞬間って、僕らが前を疾走り続ければレースは始まらないんでしょうか?」


「……そんな展開あり得ないと思うわ」


 知らない。それは恐ろしいことだ。駿馬プラスちくフルクオリティのコラボなのだからあり得ない。最低でもご都合主義的展開で抜かれるだろう。


「行くわよ!」


 菊池はちくわに体当たり。スモウジャンパーだ。離凡も遅れてスモウジャンパー。


 ちくわが進む。正面は砂漠。矢印も出ない。とにかく進めば良いとアナウンス。


 菊池の左手に離凡。ちくわ半分ほどの遅れ。教えたばかりの頃に比べると、ずっと様になっている。


「成長したわね!」


 はい、と嬉しそうに離凡は叫んだ。直進とは言っても、ちくわを並走させるのは意外に難しい。何せアクセルもブレーキも無いのだから。自力での方向転換は重心移動か障害物に擦るかの二択のみ。


 だだっ広い空間を2人以上で並走すると、実力差がそのまま車間距離……ちくわ間距離に現れる。菊池と離凡との差はスタートの差で生まれた距離から全く縮んでいない。


 恐ろしい成長速度だ。菊池はまだ本気では無いが、本気を出してもちくわのスペックが上がりはしない。直進に関してのみだが、離凡はベテランかつトップランカーの一員である菊池に並んで走れるのだ。


 隠れて練習したのかしら?


 褒めようと思ったが、調子に乗りそうなので止めた。






 ピヨヨヨヨ……





 謎の効果音。


「ヒャッハー!」


 ()()()()()()()()スケトウダラのちくわが、菊池と離凡の間を疾走り抜けていくッッッッッ!


 疾い!

久しぶり1話分かけたど。

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