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83 開く扉

 ビリッ。





 菊池にとって馴染みの深い音が鳴った。腹の贅肉によってシャツやらズボンやら破れたのかと焦り確認する。ちくフルのアバターは肉体的な変化は起きない仕様なので杞憂だが……


 なぜかアイテムボックスが薄くだが開いている。特に気にせず意識操作で閉じた菊池は、いちおうGMにメールで簡単にバグ報告。


 すぐさま返答。要約すると『仕様です』の4文字なのだが、なぜか4000字を越えた内容だった。運営会社もちくフルクオリティである。






「てめえ……続きを始めろやッッッッッ!」


「それは難しいですねぇ。このまま解放されなければエタるしかありませんわね。オホホホホ……」


 クバリと仙台の言い争いは続く。レベルの低い内容だが、菊池たちの脱出がかかっているのだ。


「「「「「エア紙芝居ッッッッッ!エア紙芝居ッッッッッ!エア紙芝居ッッッッッ!」」」」」


 続きを求める子どもたちが叫ぶ。


「ほら見ろッッッッッ!子供らも、続きが気になるって言うとるわッッッッッ!」


「クバリ殿。稚児らの視線をよくご覧になって。このエア紙芝居コールは、あなたに向けて行われているのですよ」


 事実、子供たちの視線はクバリに向けられている。


「おい、惑わされるなッッッッッ!ワイはお前らのためにやっとんのやッッッッッ!」






 菊池たちの監禁。


 現在の状況を脈絡の無いちくフルクオリティ的行為のように菊池は思っていたが、クバリなりに根拠があっての行為のようだ。


 交渉は可能なのかも知れない。根拠が理解不能(ちくフルクオリティ)でなければ……






 みしり。






 菊池はアイテムボックスを意識操作で閉ざし、かなり強めの論調でGMにバグ報告。


 しかし4文字(仕様です)






 みしり。






 またまたアイテムボックスが薄く開く。


 閉じる。


 GMコール。


 4文字。






 それを岐阜がじっと見ているのに気付いた。その表情は険しい。


「白菊先生……それは一体?」


 アイテムボックスの開閉とそれにまつわる4文字のこと、と捉えた菊池は『仕様』だと答えた。


「バグですか……大規模な仮想空間ですからね。多少は仕方ないものなのでしょうね。しかし……稚児らには刺激が強いですなあ」


 刺激?


 刺激的な何かがアイテムボックスにあっただろうか?


 ちくわと素材くらいしか思い付かない。


「「「「「エア紙芝居ッッッッッ!エア紙芝居ッッッッッ!エア紙芝居……」」」」」


 みしり。


 子どもたちの1人がまたまた開かれた菊池のアイテムボックスを指差す。


 鎌倉が顔を向ける。眉間にシワが入った。


「「「「エア紙芝居ッッッッッ!エア紙芝居ッッッッッ!エア……」」」」


 菊池はアイテムボックスを閉ざす。






「続きを聞きたかったら、このガラスの壁をどうにかしなさいッッッッッ!」


 良いぞ、もっと言え。


 菊池は心の中で煽る。






 みしり。






「しつこいわね……」


 菊池はアイテムボックスを閉ざす。






「ははぁん。さては続きを考えていないんだな。ワイにはわかるでッッッッッ!」


「……ギクッ」


 黙っていれば良いのに鎌倉。


「そうかそうか。わかったわかった。クリーム山ソーダ之助は、これで終了ってことかいな」


「「「「「エア紙芝居ッッッッッ!エア紙芝居ッッッッッ!エア紙芝居ッッッッッ!」」」」」


「ガキども、もうエエっちゅうねんッッッッッ!」


「続きは、ありまぁす」


 小さく仙台が呟く。


「ぁあん?なんか言ったか?スタップ細胞はありまぁすってか?」






 死~ん。






 スベったクバリは咳払い。






 みしり。






「うん、なんやねん今の?」






 菊池はアイテムボックスを閉ざす。






 みしり。


「もう、なんなのよ」


 菊池はアイテムボックスを閉ざそうとしたが。






「なんや、ソイツ」


 クバリが薄く開いたアイテムボックスを指差す。


「何がよ?」


 菊池からは、アイテムボックスから外を伺う存在を見ることができない。角度が悪い。


「白菊先生、中に何かいます」


 岐阜は指摘するが、『中』がアイテムボックスを指していると思わない菊池は、閉じ込められている自分たちの周囲をキョロキョロ見回す。


 鎌倉が存在しない弓を菊池に向けた。


「えっ、リアクションしなきゃまずい?」


 いやいやいやいや、と岐阜と仙台が首を横に振る。


 ビリッ。


 菊池は自分の服を確かめる。


「あかんて、ガキどもッッッッッ!()()()ッッッッッ!」


 クバリが叫ぶ。





 アイテムボックスが開く。


 子どもたちがいた地下空間の奥でアイテムボックスに回収した謎の存在が這い出る。


 ネームは『菊池駿馬の弟子』とはっきり浮かんでいた。


ーー対象、全て確認。


 菊池駿馬の弟子から電子音声。







ーー保護のために、緊急転移発動。


 世界が暗転する。





























 菊池の意識にアナウンス。


《このクエストに、貴女の法人に所属しているプレイヤーを参加させることが可能です。実行しますか? Y/N_》

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