75 Q エア紙芝居って何ですか?
3台のデコトラがハイウェイに乗った。2本のちくわがそれを追う。
「待っててね、稚児たちぃ!綺麗なお姉さんが今行くからねぇ~♪」
「「「「「わぁああああああああッッッッッ!」」」」」
先頭を走るデコトラのコンテナから、再び子供たちの歓声が響く。
「仙台殿……仙台。稚児らに何を見せた?何を見せればこうなる?」
「「「「「エア紙芝居ッッッッッ!エア紙芝居ッッッッッ!エア紙芝居ッッッッッ!」」」」」
コンテナの中なのに、中のはずなのに、子供たちはさらわれていると言うのに、この熱狂は何だろう?
「エア紙芝居ッッッッッて何なのだッッッッッ!」
読者の疑問と作者の後悔を代弁するように岐阜が叫んだ!
『そうやッッッッッ!エア紙芝居っていったい何やッッッッッ!』
背後からも叫び。岐阜と仙台は振り向く。
軽トラ、軽トラ、軽トラ……
ちくフルクオリティな効果音とともに、1台の白い軽トラが追ってくる。ハコ乗りする運転手ーークバリはメガホンを震わせながら声をあげた。
『めっちゃ気になんねんッッッッッ!マジでなんやねんッッッッッ!』
NPCのはずのクバリも、気になってしかた無いらしい。NPCーーAIでしかない存在に過ぎないと言うのに。
「いいぞッッッッッ!もっと言ってやれッッッッッ!」
正直色々参ってる岐阜は、唾を吐きながら叫ぶ。
「エア紙芝居は……エア紙芝居としか言い様がありませんッッッッッ!今はそれどころじゃあッッッッッ!」
『そうやッッッッッ!言い忘れてたけどなッッッッッ!子供は軽トラの荷台で受け止めるから、安心して軽トラをぶっちめてやれやッッッッッ!』
それは安心……と前を向きかけた岐阜だが。
「無理だろッッッッッ!稚児らが何人いると思ってんだッッッッッ!」
物置小屋では無いのだ。軽トラである。100人どころか10人も怪しい。ちくわとデコトラのカーチェイスは時速20キロ前後で行われているとは言うものの、子供たちがアスファルトの上に放り出されれば、物置どころかフカに皮を剥がされた白兎では済まないだろう。
『それが乗るんや!乗るんやでぇッッッッッ!』
ここに菊池かカオザツがいれば『ちくフルクオリティ』の一言で済んだが。
「クバリ殿ッッッッッ!乗るわけありませんわッッッッッ!ふざけてると紙芝居のネタにしますよッッッッッ!」
『……やってみい。やってみいやッッッッッ!めっちゃ見たいわッッッッッ!』
「はわわわわ……イメージが湧いて来たッッッッッ!」
「やめろ仙台、やめろッッッッッ!」
焦る作者の気持ちを代弁して岐阜が叫ぶ。
「今は稚児らが優先だッッッッッ!」
『そうや!子供らはワイが受け止める。デコトラをブッちめるんや!』
「今はクバリ殿を信じるしかありませんね。岐阜殿、綺麗なお姉さんに作戦があります」
「さらっと一人称を『綺麗なお姉さん』にするな。……作戦とは?」
「まず岐阜殿が囮になってください」
「……腑に落ちないが、仙台殿はどうする?」
「…………囮になった岐阜殿が、そのまま稚児らを救出するのです」
「仙台殿は?」
「デコトラをちくわでブッちめるのは、綺麗なお姉さんに似合いません」
岐阜は何も言わず存在しない弓を思い切り引き、存在しない矢を仙台に向けて放つ。しかし仙台には効かないッッッッッ!
「任せましたよ……」
汚いウインクを放った仙台は思い切りちくわをダウン。後ろへと遠ざかって行く。
「クソがああああああああああッッッッッ!」
深いダメージを受けた岐阜は、コントローラーを強く握る。塩100%のちくわに怒りの感情は……伝わらないッッッッッ!ちくわにアクセルは無いのだ。そもそも一定の加速しかできない。
「うおおおおおおおおおおッッッッッ!」
それでも岐阜はデコトラを追う。3台のうち子供たちを載せていない2台がハイウェイを遮り、勢い良くコンテナの扉を開いた。
「ヒャッハー!」
1台から色違いのモヒカン。ゲームならではのお約束だ。
「直接決着を着けさせてもらうッッッッッ!」
もう1台からは、雇われ店長ッッッッッ!
2人の乗った赤いちくわは後ろ向きにコンテナを滑り落ちる。
「南無三ッッッッッ!」
雇われ店長のちくわがハイウェイに着地する前に、ウイリーした塩100%のちくわが突っ込む。
ポンポコピー!
弾かれた蟹100%ちくわは雇われ店長ごと吹き飛び、コンテナの運転席側に激突。なぜかデコトラも吹き飛び、ハイウェイを転がり落ちた。
《雇われ店長がリタイアしました》
「容易いッッッッッ!」
これで良いのか、と菊池かカオザツがいれば叫んだだろうが……結果オーライ!
「テメェえええええッッッッッ!よくもスポンサーをッッッッッ!」
色違いモヒカンが蟹100%ちくわを岐阜に寄せた。岐阜はダウンでうまいこと減速。しかし色違いモヒカンの口角が上がった。
「蟹の爪ッッッッッ!?」
アクティブシザーが岐阜へと飛ぶ。1本目は仰け反って、2本目は飛んで避けた。そこへ蟹ちくわのチャージ。
塩ちくわはハイウェイ横の壁まで弾かれる。どうにかワイヤーを巻き取った岐阜は、シートを掴んだ。
『合流注意』
標識が頭上を通り過ぎる。
遠くから『ヒャッハー』と聞こえた。
「助けてえええええッッッッッ!」
綺麗なお姉さんと自称するBBAの叫びが後方から聞こえて来る。ザラリとした感覚も。
仙台だ。
仙台のちくわだ。速い。
良く見ると同じ色のちくわが後ろに繋がっている。乗っているのは存在しない弓を構えた鎌倉だ。
おおかた追って来て、トンズラぶっこいた仙台を前線に押し戻したのだろう。ちくわはドッキングすると加速が増すのだが、岐阜はまだそれを知らない。
助けを求める仙台と、存在しない矢を放ち続ける鎌倉が一気に通り過ぎる。色違いモヒカンを抜き去り、2台のデコトラをも抜き去る。
「……なんだありゃあ」
色違いモヒカンも困惑している。
ハイウェイの合流地点が近付く。例のちくわの排気音も。
脇の道路から赤いちくわが飛び出す。アクティブシザーが色違いモヒカンへ飛ぶ。色違いモヒカンはギリギリで避ける。
「岐阜さんッッッッッ!無事?」
菊池である。
そして。
「息子よッッッッッ!」
菊池を追って来たモヒカンが叫ぶ。
「パピィ~!」
色違いモヒカンは血縁者に手を振った。
Q エア紙芝居って何ですか?
A 今考えてるから話しかけないでッッッッッ!




