74 倒せない強敵
「ヒャッハーッッッッッ!」
水面が波打つ。モヒカンは波をジャンプ台にして巨大猫へ翔ぶ。
……が、角度が足りない。赤いちくわは水面に着地して水しぶきを上げた。向かっていた猫はモヒカンを踏まないように跨ぐ。
ちくわフィンガーは巨大猫を遠隔操作できるらしい。
ならば、と菊池はまだ残っているちくわフィンガーを、アイテムボックスから1本だけ取り出し右手の小指に嵌めた。ちくわを嵌めた指ではコントローラーのボタンを押し辛い。小指なら比較的邪魔にならないはずだ。
ぶにゃ……アヘェ!
巨大猫はアへ顔ダブルピース。いや、猫の手ではダブルピースできないので、アへ顔ダブル肉球ッッッッッ!そのままの状態で水路に沈んで行く。
「ドッキングの邪魔をするんじゃねえッッッッッ!」
モヒカンは全てのちくわフィンガーを巨大猫に向けた。巨大猫は飛び上がり、くるりと宙返りして水面に立つ。
何気に水面に立っているのに驚く菊池。ニヤリと笑うモヒカン。
両者は、巨大猫の水面からの脱出と着地で生まれた波に押し流される。直感的にウイリーした菊池は、ちくわ後部が波に押され体勢を崩しかける。そこでクロック。ちくわが回転し一瞬だけ宙に浮いて、水の流れの影響から少しだけ逃れる。
「あまり解決していないわね」
ちくわを水平に戻す。荒れた水面の上では、わずかに浮くだけのちくわでは波の影響を避けられない。落ちればリタイアだろう。……ちくフルクオリティだから即復活とかあり得るが、試す勇気は無い。
洗濯機の洗濯物のようにモヒカンが回転する。必死でちくわフィンガーを巨大猫に向けるが、上手く行かないようだ。
ならばいっそ、と菊池は小指のちくわフィンガーを巨大猫に向けた。プレイヤーはドッキング……とやらをできないのだろうか?
「確か『楽』でアへ顔ダブルピース……肉球だから」
『喜 怒 哀 楽 恐 虚』の『喜』を選択。すると巨大猫が立ち上がり、猫じゃらしで遊んでいるかのように両手を振り回す。後ろ足を激しく動かすので水面が荒れる。
菊池は慌てて水路から脱出。ふざけんな、と叫びながら体勢を立て直したモヒカンが付いてくる。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……
雷では無い。猫が喉を鳴らす音だ。
「ちくフルのクセに効果音が……」
普通と言いかけた瞬間、巨大猫が転がった。当然波が立つ。水路から水が溢れる。波が菊池とモヒカンを追う。
「テメー、ゼッテー許さねーッッッッッ!」
モヒカンのちくわフィンガーが今度こそ巨大猫に向けられる。顔も意識も。菊池はアクティブシザーを飛ばす。
「クソッッッッッ!」
ダウンでちくわ後部を上げて避ける。速度を落としたモヒカンに菊池が旋回して迫る。が、流されて小舟に遮られた。菊池は撥ね飛ばす。その陰からモヒカンのアクティブシザー!
小舟を撥ね飛ばした反動を利用して菊池は翔んだ。コントローラーからシートへと伸びるワイヤーとワイヤーの間を、一対のアクティブシザーが通り抜ける。ワイヤーにはアクティブシザーの当たり判定は無いようだ。
菊池はなぜかホッとした。ワイヤーが収納され菊池の体がちくわへ戻ると、今度は無性にダブルピースがしたくなる。
モヒカンからのちくわフィンガーによる干渉と気付いた菊池は、小指のちくわを噛み千切って正気を取り戻した。
「まずいッッッッッ!もう1本ッッッッッ!」
アクティブシザーで牽制しながら、周囲の建物の陰に逃げ込む。
上空に影。巨大猫が菊池へチャージ。
上手く避けて菊池は、ちくわを呑み込みながら新たなちくわを右手の小指に嵌め、跳ぼうとする巨大猫に向ける。今度は『哀』だ。
巨大猫は2本の脚で立ち上がり、右の前足を手近なビルに当てて頭を下げた。
反省…………猿か。
「ヒャッハー!」
隙を突いたモヒカンがビルの壁をMリスペクトで登る。ドッキングとやらを行うつもりだろう。一気に屋上に行って、巨大猫に飛び乗ろうとする。
すかさず菊池はちくわフィンガーを『楽』に切り替えた。巨大猫はアへ顔ダブル肉球。体が沈む。
頭があった場所をモヒカンのちくわが通り過ぎる。無表情のモヒカンを乗せたちくわは重力で加速しながら水面に激突。モヒカンはちくわから投げ出された。
いずれモヒカンは復活するのだろうが、今は邪魔無しで巨大猫に集中できる。現在進行形で絶賛アへり中の巨大猫に突撃すると、あっさり吹き飛んだ。
巨大猫は空中で爆散し、赤いちくわをいくつも撒き散らす。
「まさか……」
蟹100%と菊池は判断するが、そのまま接触するか迷った。
デコトラをチャージすれば蟹系素材をゲットできるとクバリは言っていた。ゲットできるのは良いが、どう収納するのかわからない。クエスト終了後の報酬なのか、それともドロップ(笑)した素地をその場で拾うのか。
《牛肉100%ちくわを33本手に入れた》
「自動でアイテムボックスに収納されるんだ……」
しかし世界観ッッッッッ!
「牛肉ってなんだッッッッッ!」
ちくフルって何だ?
とにかく菊池は元の進路に戻ることにした。水びたしの道路を疾走り、水路に乗って北上。蟹100%ちくわのリソースは前91%、後92%。
「あんだけ色々あったのに、全然減ってない……」
他の素材だったらどうなっていただろう?
ゾッとした菊池だが、すぐに気持ちを切り替えて進行方向を見る、が。
「ヒャッハーッッッッッ!」
「復活が早いわッッッッッ!」




