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69 菊池は絶対に(食べるのを)諦めない

 お小遣いを貯めて、貯めて、貯めて貯めて貯めて貯めて……自分へのご褒美として買ったウエディングケーキを、もちろん結婚式では無くて自分独りで食べるためのウエディングケーキを、うっかりで倒してダメにしたような。


 初めてのアルバイト、その初めての給料で……それを全てつぎ込んで買ったささやかな大きさの鮪を、解凍ミスで台無しにしたような。


 大学のサークル、初めてのコンパはBBQ。ガス大爆発。辛うじて誰にもケガは無かったものの……肉は全て炭化か爆散した……その時のような。


 就職して初任給。念入りに調べて予約した料亭での河豚。たまたまいた上司に全て奪われたかのような。

























 怒り。

























「ごろ″じでや″る″う″う″う″う″う″ッッッッッ!」


 菊池はすぐ左のモヒカンへとちくわを向けた。


 モヒカンは、まさかのMリスペクトで家屋の壁を昇る。


「はっ」


 ここで菊池は存在しない記憶を振り切り正気に戻った。彼女は倒れたくらいでウエディングケーキを諦めないし、解凍ミスしようが食べるし、爆散しようが炭化しようが食べる。たまたまいた上司は……当時スーパーヘビー級のわがままボディから繰り出されたスーパーブローでぶちのめした。セクハラと言い張り、あとはめでたしめでたし、だッッッッッ!


 ちくわフィンガーによる感情操作で生み出された偽りの怒りでは、菊池は止まらない。彼女には揺るぎ無い暴食の記憶が、あるッッッッッ!


 壁に衝突寸前、強くダウンしちくわを前傾。後部を無理やり右に流して慣性を殺し、激突を避けた。先端は壁に擦れたが、リソースはまだ98%もある。背後から突っ込んで来たホーミングちくわは、どうにかアクティブシザーで弾いた。


「アクティブシザーが思考操作で良かった~」


直撃だったら即リタイア、と今さらヘルプが出た。


 どうにか壁への衝突は回避したものの、目指すべき方向と逆向きに疾走る羽目になった。


 ヒヨコの声が左後方から少しずつ大きくなる。『ヒャッハー』と運転なさる方のご丁寧に自己紹介してくれるので、旋回して来たのがわかりやすい。猫の声も近付いて来る。


 思いきって家屋のに窓から突っ込む。反対側の窓からダイナミックちくわ退出を行うと、ちょうどモヒカンのちくわの真横に出た。


 せっかくだから赤いちくわで体当たりするぜ、とチャージ。しかしモヒカンのアクティブシザーに直撃をを阻まれる。それでも勢いは殺せなかったようで、モヒカンのちくわは時計回りにスピン。


 ホーミングちくわがしつこい状況で、蟹100%のちくわ同士での超接近戦(ドッグファイト)をどう演じれば良いかわからないので、菊池はモヒカンを無視し猫の鳴き声の原因へ向かうことにした。


 明らかにちくライダーを想定した挙動のモヒカンが、アクティブシザーをどう扱うのか学びたいのであえて追わせる。


 モヒカンにはちくわフィンガーに耐性がある、と菊池は考える。4つともマーカーを合わせてアへ顔ダブルピースを狙ったのに、全く効果は無かった。


「あまりあてにしない方が良いわね」


 左手の親指以外に嵌めたちくわフィンガーのせいで、左のコントローラーを握れない。クロックとリバースは左右でのボタン長押しが必要だ。


 レース中でもアイテムボックスは開ける。間食できるのだが……まあ、菊池くらいしかしない。できないと言うのが正しい。


 開いたアイテムボックスにちくわフィンガーを入れようとして気付く。右手でコントローラーを握ったままでは外せない。


「なんてことッッッッッ!せっかくの、モグモグ、ちくわ、フィンガーが、モグモグ……」


 けして食欲に負けたわけでは無いのだ。限りある資源を……それが虚構のーーゲームの中であっても無駄にするなど、美学が許さなかった。


 それと、天啓に導かれて食べた……と言う言い訳を、菊池は強く、強くッッッッッ!思った。言い訳だが。


「なにこれ、昂る?」


 血肉に変わったちくわフィンガーが、菊池を覚醒させる。そんな設定を思い付いた彼女は、コントローラーを強く握る。


 鋭く左折。ホーミングちくわが曲がり切れず、信号にぶつかる。


 ヒャッハー、と聞こえたが感情の揺らぎは無い。ちくわフィンガーの射程外か。


 覚醒した、と浅く薄い自己暗示にかかった菊池は、徐々に蟹100%のチートスペックに慣れ、街並みをスイスイ進む。


「逆に困ったわ……」


 モヒカンが着いてこれない。せっかく蟹100%の使い方を学ぼうと思ったのに。自己紹介(ヒャッハーの叫び)が聞こえたら一気に叩こう。


 いや、もうそれどころでは無い。


 ビルに挟まれた長い通りの向こうに巨体が見える。ホーミングちくわの爆発で起きた火災の煙で全容は不明だが、発射元だろう。正面から猫の大合唱が響く。


 向かって来る暴徒をアクティブシザーで安全(笑)に排除。対応しきれない暴徒はMリスペクトで右にかわす。体を道路に平行にした状態でビルの外壁を疾走りながら思う。


「ホーミングちくわにちくわフィンガーって効いたりして……」


 今さらだ。


 正面のホーミングちくわを避ける。ビルに着弾、爆発。


《この世界のビルは、ホーミングちくわ等の爆発で吹き飛んだ瓦礫がプレイヤーやNPCにぶつかってもかすり傷ひとつできない安全な素材でできております。お父様、お母様ご安心ください》


 避けなくていいの?良いのッッッッッ!?


 リタイアしないと言わないのがちくフルクオリティだ油断はできない。


「ヒャッハーッッッッッ!」


 後方からモヒカン。嫌なタイミングだが。


「俺様から逃げられるとグベェッッッッッ!」


 ドシン、とちくフルらしからぬ効果音が響いたのはほぼ同時だ。……やはり瓦礫に当たるとリタイアはするようだ。


 振り向かず煙を抜ける。






 ブニャァン。


 猫っぽい聞き慣れぬ効果音。


 菊池は見た。


 鋼鉄の巨大な猫と、その背中に負った2本の巨大ちくわを。


 さらに、そこから発射されるちくわを。


「世界観ッッッッッ!」


 この日。


 ちくわフルスロットルの世界観は、一線を越えた。

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― 新着の感想 ―
 更新お疲れ様です。都道府県位置さまのレーシングちくわ、私めのイラスト企画のイメージづくりで影響を受けてます。  なんでヒャッハー描きたくなったのか‥‥ここに答えがありました。  
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