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61 離凡より濃い匂い。(ちょっと修正)

菊池流馬術が本当にあったらごめんなさい。


作中に登場する人名、団体はあくまでも架空の物です。




鎌倉のセリフ


「VR化を目指しています」


     ↓


「ブイアァル化を目指しています」


に変更します。

 健康ランド内にある宿泊施設の最上階、スイートルーム。


 クバリに案内された菊池は、中に入る。


「うわぁ……凄い」


 最上階の窓から【ホタテ漁港】を見下ろす視界には様々な工場で埋まっている。


「工場ってロマンよね……」


 各種パイプ。煙を上げる煙突。フォークリフトで運ばれる製品。働く人々。営み。





「東側の工場や港の施設も凄いですけど、西側の市場やサーキットも必見ですよ」


 背後の声に振り向く。声の主は初老の男性。着ているのは……鎧兜。ネームは『鎌倉菊池流』となっていた。


「初めまして菊池白菊さん」


 隣に並ぶやや軽装の……鎧武者、いや足軽は『岐阜菊池流』、背後の巫女服の女性は『仙台菊池流』。


「プレイヤーですよね?」


 『菊池』は『菊池白菊』や『菊池駿馬』のように、頭に付くのしか見たことが無い。自動で名前を付けると必ず『菊池』は前に来る。


 ネームドNPCにしては手の込んだネームだが、服装がプレイヤーにしてははっちゃけ過ぎる。NPCのクバリがプレイヤーを紹介するのも考えにくいが。


「はい、私どもはプレイヤーです。私どもは『菊池流馬術』の者で、流鏑馬(やぶさめ)生業(なりわい)としているのです」


 『仙台菊池流』ーー以後仙台とする、が静かに言った。


「流鏑馬って、馬を走らせながら的を射る競技……ですよね?」


 確かサラブレッドって時速60km以上で走るんだったわよね?その上から弓で矢を射るのはたいへんそうだ、と菊池は思った。


「そのような認識で良いです」


 『岐阜菊池流』ーー岐阜が答えた。


「TVかネットで見た動画では軽々と的に当ててますけど、とても難しいのでしょう?」


「鍛練次第ですよ」


 まるでこれから息を吸って吐きます、と言わんばかりに『鎌倉菊池流』ーー鎌倉は軽々と答えた。


 動かない的に当てるのだって難しそうなのに……人生賭けなきゃ絶対に無理でしょ。菊池はさすがにそうは言えなかった。


「そちらのクバリさんに言われて来たのですが……その菊池流の皆さんが、なぜちくフルにログインを?」


 なんとなく離凡と同じ匂いがした。


「白菊さんと呼ばせていただきますね。『菊池』ではややこしいですし」


 鎌倉の言う通りややこしいが、今さらなので地の文では菊池白菊は『菊池』と呼ばせていただく。


「白菊さんは、馬……特に国産系の減少についての問題をご存知ですか?」





 この時代、地球上ーー特に日本で馬は数を大きく減らしている。主な理由は環境悪化を原因とする、地球外への持ち出しであった。


 環境破壊が進んだ地球よりも、テラフォーミングした地球型惑星や、液体合金をコーティングした真球型スペースコロニーの方が生物が暮らしやすいのだ。


「かつて流鏑馬では在来馬の8種類のみが認められていました」


 北海道和種(わしゅ)馬。道産子(どさんこ)とも言う。


 木曽(きそ)馬。


 野間(のま)馬。


 対州(たいしゅう)馬。


 御崎(みさき)馬。


 トカラ馬。


 宮古(みやこ)馬。


 その8種類である。


「ですが、今存在するのは道産子のみです」


「流鏑馬ってサラブレッドではやらないのですか?」


「人類が地球のみで生活していた頃にはわかりかねますが、現在存在する小笠原流の流れを組む馬術では……少なくとも私の知る限りではサラブレッドは使用されておりません。武田流でも無いでしょう」


 菊池流は、明治時代に小笠原流から分かれた流派だと言う。正直、菊池には良くわからなかった。


「話を戻します。日本政府が天の川銀河中央部に移るのを切っ掛けに、様々な馬術家や流派がそちらに移ってしまいました。それに伴い、在来馬の生産者も所有する馬ごとそちらに移ってしまったのです」


 在来馬だけでは無い。サラブレッドを含む他の馬も生産者ごと日本政府のある銀河中央部に移ってしまった。


「現在日本列島に存在する馬は、サラブレッドを除けば道産子が7頭、全て20歳越えです。獣医学は大きく発展しましたが、それでも高齢です。繁殖も難しい」


 道産子の寿命は21世紀では20歳から25歳と言われている。


「地球上の道産子の絶滅は、もはや必至。八方手を尽くしましたがどうにもなりません。身勝手に思いますが、せめて流鏑馬の技術だけでも残したい」


 それとちくフルと、どう関係があるのだろうか?


「そのために、私どもは流鏑馬の()()()()()化を目指しております」


「ブイアァル……VR化ですか……」


「はい。困難なのは理解しております。どんなに都合良く行っても……私が生きているうちは無理でしょう」


 鎌倉はアバターの見た目通りの年齢なのだろう。初老と言ってもアンチエイジングした上での外見と思われた。


「VRに備えて……夢物語とは理解しているのですがね、それでも後身に技術指導だけしたいのですが……馬の、道産子の数が足りない。そこで道産子の代わりを探し…………見つけました」


「レース用ちくわ、ですか」


「アナゴのちくわは……まるで暴れ馬だ。シイラも生きているかのように震える。フフ……そしてイカ。本当に素晴らしい。あれを手懐けることができれば、道産子の上で弓を構えるくらいはできそうです」






 この物語はフィクションである。レース用ちくわの設定もフィクション。流鏑馬も、実際に存在するそれとは別の架空の存在である。


 どうかおおらかな目で見ていただきたい。





「そ、そうなんですか。それで私にどうしろと?」


「この地域のコースは、スタート地点ほどではありませんが難易度が低いと聞きます。それ故、ちくわレースの真髄を極めようとなさる求道者の皆様は避けるそうですね?」


「きゅ……求道者。ちくライダーのことでしょうか?」


「ちくライダー?……素晴らしい響きですね。そのちくライダーの皆様に迷惑をかけずに流鏑馬の鍛練を行いたいのです」


「いや……ちくライダーは少数派ですよ」


 このゲームのプレイヤーのほとんどは、エンジョイ勢の中のエンジョイ勢である。若干、過疎が進みつつあるが、それでもエンジョイ勢は多い。多いのである。描写していないが、しょっちゅうそこいらでエンジョイしているのだ。


 エンジョイ勢と言うのもおこがましいかも知れない。チュートリアルの途中でNPCと駄弁り続けて早何年(ログインしっぱなしではない。ログアウトはしているそうだ)と言う限界を越えた強者も存在する。何のためにちくフルを……VRMMOをやっているのかは本人もわかっていない……


「私はそうは思いません。ちくライダーの皆様の目の輝きを見ればわかる」


 そりゃあ……他人に良く見えるようにアバターをデザインしているのだから…………アバター自動作成を選べばなおさらである。


「白菊さん、貴女も良い目をなさっていますな」


「全くです。鎌倉先生のおっしゃる通り。この岐阜、心が洗われます」


 岐阜は鎌倉よりも20は若く見える。多分若作りだ。


「同じく、仙台も感銘を受けております」


 仙台が一番年上の気がする。確認するつもりになれないが。


 菊池も()()美化と言うリクエストでアバター自動作成をしたクチである……


 離凡と同じ匂いがするのに、離凡より匂いが濃い気がするのは何故だろう……菊池はそう思った。

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