53 少年と菊池一族
やっと同格のライバルが書ける。
菊池白菊強すぎ問題が解決すれば良いけど。
時は菊池と万智緒の戦いの直後に遡る。
「おい、光線銃ッッッッッ!早くしろッッッッッ!終わっちまうぞッッッッッ!」
大柄の青年が小太りの男を引き摺りながら【連合ハマグリベース】のサーキットへと走る。
「もう終わってるさ。だって白菊だろ?」
小太りはアイテムボックスからたこ焼きのパックを取り出した。
「引き摺られながら食うなよッッッッッ!」
青年がたこ焼きを取り上げ自分のアイテムボックスにしまった。
「ぁあああ……オラのたこ焼きぃ」
「クソッッッッッ!歩けえええええッッッッッ!」
青年は小太りを担いで観客席に入る。するとヤンキー風の観客がイン●ン・オブ・ジ●イトイの体勢で干しハマグリを奪い合っていた。
「なんじゃこりゃ……光線銃ッッッッッ!拾うんじゃねえッッッッッ!」
青年は1度投げ捨てた小太りーー光線銃と呼んだ男を担いだ。
「ぁあああ……オラのハマグリぃ」
「しかし、何が起きてるんだ……」
カオザツがばらまいた干しハマグリを観客がイ●リン・オブ・ジョ●トイのような体勢で拾っているのだが、来たばかりの2人にはわかるはずも無い。
「インリ●・オブ・ジョイト●座りよりも、白菊はどうした?レースは終わったのか?出てこいBBAッッッッッ!俺様がぶち抜いてやるよッッッッッ!」
「落ち着けよ。毒皿」
光線銃は串の刺さった鮎の塩焼きを青年ーー毒皿に差し出した。
「うるせえッッッッッ!食ってる場合じゃ無ぇんだッッッッッ!あのBBAはなかなかインして来ねえんだッッッッッ!今日を逃せばいつ戦えっかわかんねぇだろッッッッッ!」
「ぁあああ……オラの鮎ぅ。くっ、よく見ろ。コースを疾走ってるのはエンジョイ勢っぽいのばかりだ。もう終わってるさ。彼女のレースはたいてい決着が速いしな」
「終わってんなら事務所だッッッッッ!まだいっかもしんねえだろッッッッッ!」
毒皿は光線銃を担いで事務所にダッシュッッッッッ!
階段を降りているプレイヤーを避けて事務所に向かう。
「白菊ちゃんのレースはもう終わったぜ。なんか新顔の学ランと……後何だっけ、『顔を合わせるとナンチャラ』とか言う女と一緒にどっか行っちまったな」
ガクリ。
毒皿は膝から崩れ落ちた。
「どのくらい時間が経ったんだい?」
光線銃が聞いたが、教える義理は無いと突っぱねられた。
「それと白菊ちゃんのレースは非公式戦だったから観れないぞ」
「非公式戦だって?」
光線銃は手を顎に当てて考える。
「アンチPTAカテゴリでも使ったのかい?」
「教える義理は無ぇよ。てめえらランカーはこんな時ばかりヘラヘラ愛想振りまきやがって」
毒皿はランキング17位。光線銃は49位だ。
「同じ菊池でも大違いだぜ」
毒皿の正確なプレイヤーネームは『菊池毒皿』、光線銃は『菊池光線銃』だ。自動でプレイヤーネームを付けたらこうなった。
「そうだよ、同じ菊池でしょ」
若い、いや幼い外見の少年プレイヤーが事務所の入口の外で言う。
「そのNPCの言うように、『菊池』を名乗るプレイヤーはみんな同じさ。白菊さんも、駿馬さんもね」
光線銃は少年の目を見て、頭の上のプレイヤーネームを見て、また目を見ようとしてからネームを2度見した。
「ええと、君の名前は何か特別な読み方があるのかな?」
「いいや、そのまま呼んで良いよ。これは僕の目標であり、到達点でもある。何も恥じなどしない」
「え、ええ……」
どうした、と毒皿が振り向いて、少年のプレイヤーネームを音読した。
「『ママの敵討ち』」
その場にいたプレイヤーが『ママの敵討ち』のネームは2度見する。
「えっ、敵?敵討ち?ママ?………………そうか、君は病気なんだね。ログアウトして今日はもう寝た方が良いよ。日付も変わったしね」
光線銃が少年ーー『ママの敵討ち』の肩に優しく触れた。
作者の経験上の話になるが、中二病は寝れば治る場合がある(再発しないとは言ってない)。正確には布団を一晩被って黒歴史を記憶から消す作業を行うと良くなる場合があるのだ。
「いや、中二病じゃねーよ。プレイヤーネームで笑いを取ろうとしてるんだろ。俺もファイナル女神オブクエストアームズオンラインでは中世の芸能人の名前の1字違いのネタキャラとか作ったぜ。『和田バキコ』とかな」
「オラもやったな。『地味に大西』とか」
「なんだよ、ファイムズでそれ付けたのお前かよッッッッッ!」
「毒皿もファイムズにアカウントあるのか。よぉし、今からログインしようッッッッッ!」
「ふざけんなッッッッッ!白菊のBBAをぶち抜くんだッッッッッ!」
「ファイムズだッッッッッ!」
「ぶち抜くんだッッッッッ!」
「ファイムズファイムズファイムズ……」
「ぶち抜くぶち抜くぶち抜く……」
「「「「「お前らうるさいぞ!人に迷惑をかけるなあああああッッッッッ!」」」」」
騒ぐ2人、なぜか仲間と判断された『ママの敵討ち』は多数のNPCに取り押さえられ、事務所の裏に連れて行かれた。




