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37 アステロイドベルトアニメーション学院

「結構人がいますね。バンチョウさんの応援でしょう」


 カオザツは離凡を連れ観客席に来た。髪の毛で再現された軍艦らしきオブジェを頭に乗せた男性プレイヤーや、座席の上でウ●コ(イン●ン・オブ)座り(・ジョ●トイ)をしている女性ばかりだ。きっとKI☆A☆IやKA☆KU☆GOを表現しているのだろう。


 カオザツは空いている座席に離凡と並んで座り、ストレージからさきいかなどおつまみ系食品をを出した。


「良ければどうぞ」


 海洋深層水使用のミネラルウォーターと一緒に離凡に勧めたが、言ったそばからカオザツの口でさきいかが全て消滅する。離凡はミネラルウォーターだけ受け取った。


「この席ってメインストリートに2人が来ないと見られませんよね?」


「離凡さん……観客席で他の方の疾走を見たことが無いんですね」


 カオザツは指で空中に長方形を描くとウインドウが浮かんだ。彼女が指で並んでいる文字をスワイプし項目を選択すると、黒いライダースーツを着てちくわに乗るプレイヤーが映る。


「離凡さんも同じようにやってみてください」





 クエストと言う形でも1つのコースで、何組ものプレイヤーが異なる条件でレースを始めれば混乱が起きる。


 それを防ぐためにプレイヤーごと、または1組ごとにレース用の別のサーバーに移動するのだ。


 非公開や限定公開の設定をしなければ、それぞれのサーキットの観客席でカオザツがしたようにウインドウを開き、見たいレースを選択して閲覧できるのである。






「せっかくサーキットにいるのに……なんかもったいないですね」


 離凡もウインドウを開き、菊池たちのレース生中継の動画を出せた。


『さあ、1LAPッッッッッ!ドライバーランク77位に上がったばかりの菊池白菊が、コース中盤にさしかかります。それを万智緒が7()()()()差で追うッッッッッ!』


「なんか実況始まったッッッッッ!」


『菊池白菊……以降は菊池と呼ばせていただきますね。ん~~~菊池はブロック特化型の選手なんですが、ちょっとこれは先走り過ぎですね~』


「解説っぽい人もいるッッッッッ!」


「その人たちは特殊なプレイヤーです」


「えっ、実況と解説はプレイヤーなんですか?」


 カオザツはコースの看板を指差した。


「『アステロイドベルトアニメーション学院』……なになに『漫画科』、『音楽科』、『芸能科』、『声優科』……ちくフルのスポンサーなんですね」


 非常に良い意味で気合の入ったCMで有名で、ドラ●エを知らない離凡でも知っている。看板の広告はカオスな世界観のちくフルに溶け込む、気の利いた意匠となっている。


「あそこの声優科の生徒が実況と解説をやってらっしゃるんです。うるさかったらミュートできますけど、リボンさんがちくフルのセオリーを知るのに便利だと思うんで聴いてみましょう」


 実況解説の説明が足りなければ、カオザツが補足してくれると言う。






『言われてみると、ブロック狙いではちくわ身が空き過ぎですね。何か菊池には狙いがあるのでしょうか?』


『んん~~逆ですね。むしろ万智緒が菊池を封じている、そう考えるべきですね~』


『百戦錬磨の菊池を、未だ初心者に毛が生えたようなキャリアの万智緒がですか?』


『そうです。本当に良く菊池を研究してますね、んんん~~~。一般プレイヤーとちくライダーのキャリアの差は比べるだけ無駄だと思いますがね~んんんんん……』






「カオザツさん、『ちくわ(しん)』って何ですか?」


「レース中のちくわの間の距離ですね。競馬で1馬身、2馬身って言うでしょう?」


「競馬わからないです……」


「ごめんなさい、ちくわはデフォルトで6mです。上や横から見て、前のちくわの先頭から6m遅れると『1ちくわ身遅れ』と言います」


「なるほど」





『後から追いかける万智緒のちくわは、前半分がフグ系80%の蟹系20%。後半分が外道系80%の蟹系20%となっていますね。ん~~~~~』


『ちょっと待ってください。外道系の定義はプレイヤーによって解釈が変わりますが……』


『ん~~私としては『どじょう』も『ウナギ』も『ウツボ』も『アナゴ』も『シイラ』も、同じ『全速域コーナーリング弱補正』とされていますから、一緒にしても良いと思いますがねぇ、んんんんん』


『相場や素材獲得難易度もありますんで、いっしょくたにすべきでは無いと思いますがね。おぉっと、菊池がゴールラインを過ぎて2LAP目!タイムは……加速の乗らない1LAPと言う割には遅いですね……』


『様子見でしょう。菊池は周回より対戦相手のリタイアを優先するタイプです。3ちくわ身差くらいまで接近しなければどうしようもない。ん~、ん~』






「解説の人が『ん~ん~』言ってるのって……何ですか?」


「食レポで何か食べた時のリアクションの練習……だそうです」


「いやいやいやいやいやいや、おかしいわッッッッッ!」


 若い女性ならともかく、明らかなおっさんボイスでは聴きたくない。


「でも、それでレース視聴者に覚えて貰えるみたいで『解説の……ん~さん』で有名ですよ」


「ぎゃ、逆に印象深いですもんね……」


「実況も『ん~さんの相棒』で有名ですね。このコンビはちくフルを良く研究しているし、キチンとフィールドワークして有力プレイヤーに取材したり感想戦にもオブザーバーで参加します。恐らくちくフルの最大の理解者でしょう。特定のプレイヤーをひいきしないのも素晴らしい」


「名前……出ないんですね」


「まだアマチュア声優ですから。離凡さんが何度も対人戦を重ねたり、ドライバーランクを大きく上げたり、公式イベントで活躍すれば、公式を通して取材以来が来るはずです」


「ちょっと会ってみたい気がします」






『28ちくわ身離されて、今万智緒がゴールラインを越えて2LAP。よくこの技術で菊池に挑もうと思いましたね』


『ん~逆です』


『逆、とはどういうことでしょう?』


『万智緒は菊池の自滅を待っているんですね……んんんんん』


『菊池にミスは無いでしょう』


『ちくわのスペック差が大き過ぎますね、ん~。公開前提の対戦でここまで蟹系素材を使う事例はなかなかありませんね………………ん~一桁%なら何度も菊池は対戦した記録がありますが』


『そこまで不利になりますか?』


『蟹系はあらゆるスペックが上昇します。20%も使えば各種耐性やリソース消費効率が…………ん~~~それこそチート級に上昇するはずです。それを証明するように万智緒のちくわの残りリソース、見てください』


『前のフグと蟹は100%、後の外道諸々と蟹が99%ですかッッッッッ!』


『小数点は閲覧できないんですが、0.3も減っていないんじゃないかなぁ~んんんんん』


『一方菊池は……カツオ98%……後のマカジキ89%ッッッッッ!』


『ウイリーで減速して万智緒の接近を狙ったようですが、合わせて万智緒も減速するので距離が縮まらず、むしろ離されますね。このレースは12時間耐久で周回数を競うルールです』


『今回は……リタイアしても周回数が上回らなければ敗北となるルールですね……まさかッッッッッ!』


『そのまさかです。ただでさえちくわのスペックに差があるのです。ここからの最大走行距離は少なくとも倍は異なります。明らかに万智緒は待ち狙いです』


『これは大変です。ログイン率が低いとは言うものの、ここ数年菊池は対戦での敗北がありません』


『んんんんん……不敗神話が今日終わるかも知れませんねぇ』

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