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28 チェキラ、チェキラ、チェキラ、チェキラ……

 川の流れに逆らっても減速されない。菊池は20チクワンを維持したまま、なだらかな岸に登る。


 圧倒的……どころかチート性能の蟹100%ちくわに、ちくライダーとしてのプライドが大きくえぐられたが、今のところは逃げる。


 雇われ店長を叩きのめすのは……決定事項だ。絶対に妥協できない。今使えるちくわでどう闘えるか、菊池は脳内でシミュレーションを始めるが。






《ムービーを開始します》






 ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ……


「おやおや、ずいぶんとのんびりしていらっしゃる」


 ちくわの排気音。つい最近聞いた声。


 カツオ100%のちくわの速度は……いつの間にか12チクワンに下がっている。


 アクティブシザーが両脇に並走する蟹色のちくわが、菊池に並ぶ。


「動画デバイスを渡すつもりになったのですか?それとも、もう少し叩きのめさねば決断できませんか?ククク……」


 雇われ店長はコントローラーを脇に抱えながら器用に襟を正した。


「フッフッフッ……」


 プレイヤーの持つそれとは異なり小さなスティックが親指の位置にあるコントローラーを、挑発するかのように菊池に向け大口を開けた雇われ店長。


「クワ~ッハッハッハッ!」


 コテコテ過ぎて逆になかなか見れない見事な悪役三段笑いッッッッッ!






《ムービーを終了します》






 逃げられない仕様かよッッッッッ!


 無表情のまま菊池は脳内で叫ぶ。


 低い堤防を登り、小さな集落に突っ込む。生け垣を突っ切りガラス戸が開けっ放しになっている居間に突入。食事中の老夫婦や鍋から直接インスタントラーメンを食べているモジャモジャ髪のおじさんなどはいない無人の空間を通って、軽くウイリーして窓からダイナミック退室。遅れて雇われ店長が続く。


 小さい集落を抜ける。防砂林やそういった機能がありそうな設備も無く、いきなり砂漠になった。


 日本式家屋が砂漠化に適応できるのか気になるところだが、雇われ店長のチャージが思考を阻む。






 トラックトラックトラックトラック……






 四方八方から迫るデコトラ。向かってくるくせに相変わらず砂にタイヤを簡単に取られる。


 その時、菊池に閃き。手近にいた立ち往生したままタイヤを虚しく回すデコトラに接近し、鋭く曲がってその陰に。追って来る雇われ店長だが、菊池よりも大きな軌道でデコトラを回る。


 舐めプレイか……と言うより、アクティブシザーがデコトラに接触するのを嫌ったように菊池には思えた。


 デコトラの出現率は、雇われ店長登場前よりも遥かに多い。360度ぐるりと見渡して、視界からデコトラが途切れる瞬間が無いほどだ。


 敵でも味方でも無く、第3勢力兼移動する障害物。それがデコトラの存在意義、と菊池は判断した。


 わざとデコトラの群れに飛び込み、その間をすり抜ける。時にはMリスペクトでコンテナに乗ったり、仲良く並んで走行不能になったデコトラのコンテナの上を疾走したりして、雇われ店長から距離を取ったり……ムービーを観る羽目になったり。






 そんなこんなでどうにかピットインに入る。


 ピヨピヨと例の排気音を鳴らして蟹100%ちくわが、ピットインをグルグル回り続けた。


「勘違いしないでくださいッッッッッ!バターになるつもりなどありませんのでッッッッッ!」


 挑発なのだろうか?笑わせようとしているのか?


 菊池はGMコールを通して公式に問う。


『あなたの笑いのセンスはズレている』


 かつて無い速度でそのようなメールが返って来て、菊池は驚いた。


 コイツ……ワールドクエストのシナリオを書いたなッッッッッ!






「まあ、クリアできるようにクエストは構築されてるモノなのよね……」


 ピットインでシャワーを浴びながら、これまでの雇われ店長のドラテクと蟹100%のスペックを思い浮かべる菊池。


 雇われ店長のドラテク……いやちくわのテクニックーーちくテクは、ここまで菊池が見た限りでは一般プレイヤー以上ちくライダー未満だ。


 やはりアクティブシザーが厄介だ。チャージに対する防御と、シートを押すことによる加速のプラスアルファ。何よりブレーキ。蟹100%のスペックが雇われ店長を圧倒的強者へと持ち上げている。


 活路はある。アクティブシザーの動きは雇われ店長のスティック操作によるモノで、オートでは無いらしいこと。


 雇われ店長の手の動きを止めれば、ただし……コントローラーによるマニュアル操作ができない状況でオート操作にならない仕様で無い限り……封じるのは可能だ。


「あのムービーはヒントなのね……」


 対人で煽る気持ちはわかる。自己肯定のためにゲームをするのだ。NPCを煽り厨に設定するのは、プレイヤーの心理的なブレーキを軽減するためである。


 備え付けのタオルで体を拭きライダースーツを着てから、菊池は4つの動画デバイスをストレージから出して、これまで乗ったちくわの前に座り込んだ。


「ああまで饒舌だと、わかりやすいわ」


 動画デバイスを見比べる。形状、色、全て同じ。


 持っているうちは小さなウインドウが出て区別ができる。


 離れたところに置くと区別は付かない。


 建物の壁に向けて下手投げで投げる。【損傷無効】、【破壊不可】であるのはGMコールで確認した。






 チェキラ、チェキラ、チェキラ、チェキラ……





 壁にぶつかった動画デバイスは、4度跳ねた。DJはノリノリだ。


 『おかしいッッッッッ!おかしいッッッッッ!おかしいッッッッッ!』と迷わずGMコールしたら、『どうして高尚な音楽性を理解できないのですか?』と瞬時にメールが返って来た。


「お前かッッッッッ!効果音でふざけてるのはお前かッッッッッ!」


 このゲームのスタッフは、ふざけてる奴ほど仕事が速い。

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[良い点] トラック、トラック、トラック チェキラッ!٩(๑❛ᴗ❛๑)۶
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