27 短くなったちくわで
うん。
クリームソーダ祭りが大団円を迎えようとしているのに……
私だけ菊池祭りやってる。
菊池のちくわの後半分のリソース、残り30%。後半分の長さは90cm。
もう少し。
もう少しで、ちくわの性能が変わる。
「どうしたんです?抵抗しないのなら降参してはいかがかな?」
雇われ店長が勝ち誇る。汚い笑みだ。きっと店長としての業務の中で、笑顔になったことなど1度も無いのだろう、とあんまりなことを菊池は思った。
背後からのチャージ。後半分のリソース、残り26%。
「1、2の3……1、2の3」
菊池は表情の無い顔でなにやらタイミングを測っている。身を傾け右に曲がる。
「馬鹿の1つ覚えですかぁ~」
背後からのチャージ。後半分のリソース、残り24%。
「どんどんちくわが縮んでいきますよぉ~」
煽り。菊池は気に留めない。前に弾かれたちくわを重心移動で制御し、迫る苔蒸した岩を見もせず避ける。いや、後半分を掠めてリソースを減らす、残り23%。
「おやおや、ひょっとして、メンタル弱かったりします~?」
左に流されたぐらつく菊池を、雇われ店長が追い、ぶつける。
後半分のリソース、残り21%。背後の岩を掠めて20%。
菊池は嗤った。そしてウイリー。後半分の長さは60cm。菊池の位置は低い。雇われ店長がチャージすれば直撃する。
「もらったッッッッッ!」
当然のように雇われ店長が狙う。
「1、2の……」
だがこれは菊池の罠。すでにリバースボタンの長押しは済んでいる。
「3ッッッッッ!」
ボタンを離すとちくわが反時計回りに半回転。アクティブシザーを前方に配置したままの蟹100%ちくわが、菊池のいた場所に突っ込む。
「なっ!」
いまだにリソースが90%残るカツオちくわの前半分が、すかさずアクティブシザーによるブレーキで減速した雇われ店長に襲いかかるが。
「な~んてねッッッッッ!」
ホップステップカールイスとばかりに、雇われ店長はダウンも重ねて減速。カツオ100%ちくわがほんの数mm目の前を通り過ぎる。
クロックとリバースは、現在のちくわの中心を軸に回転する。雇われ店長を罠に嵌めたのは良いがちくわの長さが1cm足りなかった。
菊池は舌打ちしかけたが想定内。彼女のちくわは慣性に従い前方へ、額に玉の汗を貼り付けた雇われ店長はいったん停ちくわ。菊池と雇われ店長との間に距離ができた。
まだ菊池の反撃は終わらない。
彼女は大きく左に身を傾ける。短くなったちくわの重心は、シート側にずれた。具体的には全長340cmの、前から約60cmに菊池は座っている。
てこの原理と呼んでしまって良いのか、ちくフル特有の設定でしかないのか、菊池にも作者にもわからないが、シートの位置が偏るとちくわは敏感に曲がる。偏れば偏るほどに。
菊池のちくわは鋭く旋回し、停車した雇われ店長のちくわの周囲を、『貴様をバターにしてやる』と言わんばかりにグルグル回る。
ちくわの初動は難しい。ちくわが完全停止した場合のみ、運転手は地面に降りてちくわを押すなりスモウジャンパーを食らわすなりできる。
だが雇われ店長が停ちくわした場所は川の上だ。水面の透明度が高いので、足が着くような深さでは無いのはどちらも理解している。川に流されるちくわを押す手段が雇われ店長には無い。もはやまな板の上の鯉。
菊池はクロック。前後を入れ換えて短い方を後に据える。
蟹100%ちくわの2つの穴から泡が出た。水が穴に入っても加速しないらしい。
カツオ100%ちくわが螺旋を描いて雇われ店長へ迫る。が、アクティブシザーの片割れがガード。明らかにちくわよりも小さいのに、大きく弾かれた。
もう一方のアクティブシザーは……なんと雇われ店長のシートの背もたれを押している。
ここで決着を着けるのは不可能、と菊池はあっさり方針を切り換え、断崖へ方向転換。
蟹100%が水面に浮いて火を吹く。
菊池はリバースで前後を入れ換えた。
雇われ店長が疾走を始めた。言うまでも無く標的は菊池。
菊池はウイリー。そこからMリスペクトで垂直に断崖を登る。断崖は高い。
2つのアクティブシザーが、雇われ店長の座るシートを押す。早くも5チクワン。
断崖を登る菊池が、雇われ店長を見る。弾みでちくわが左に逸れ、生えている木に当たる。3チクワンに減速。
唇を噛んだ菊池。雇われ店長は……Mリスペクトで断崖を登る。すでに8チクワン。
軌道修正した菊池は一気に断崖を登る。まだ5チクワン。
アクティブシザーが赤いちくわの前方に移動。ハサミを前にーー菊池に向ける。11チクワン!
菊池の加速は遅い。8チクワンッッッッッ!
延ばされたハサミが……菊池のちくわへッッッッッ!蟹100%はついに12チクワンッッッッッ!
断崖を登る菊池は……ハッキリと肉食獣の笑みを浮かべ右へ飛び、久方ぶりのリワインド。ちくわが右に傾き、菊池がシートに着地する時には真下へと方向転換。
当然、菊池を狙ったハサミは空を切り、蟹100%のちくわは断崖を飛び垂直に空へ。
ちくわが火を吹いて疾走している時点で、すでに物理法則とかもうなんていうか色々アレだし読者も諦めていると思うが、物には限度がある。さすがに時速60kmでそのまま上昇したり大気圏を抜けたりしない。ちなみにマッハ30を越えないと宇宙には行けない。
蟹100%のちくわが高度10mで静止した。どんなスペックのちくわでもそれ以上上昇できず、自動的に停ちくわ扱いになり、進行方向が真下に強制される。
蟹100%のちくわが自由落下を始めた。
その時、菊池はすでに断崖を降りて、上手く減速せず着水し川を昇り始めている。自由落下でちくわは大きく加速する仕様で、現在のカツオ100%のちくわは20チクワンだ。減速するまで自由落下ボーナスは継続する。
雇われ店長も落下の勢いで14チクワンまで速度を伸ばした。菊池が大きく減速しなければ、差は広がり続けるが……




